# 黙祷者

  黙祷者



   内面で向き合わなかった問題は、 いずれ運命として     

            出会うことになる。 (Carl Gustav Jung)



ときおり、木漏れ日が壊れ立ち尽くし、空が割れ、

霞草の炸裂に包まれるとき。

粒子の世界が砂の世界が雪の世界が白と同値である為、

白が揺れ白が舞い白が優しく白は合い白はつめたく、


 きみは、目が、閉じた。


それはいつもふいのことだ。

取り返しのつかない想いがあったのだ、

あのころ真っ直ぐ見つめられなかったから。

それを思い起こしてしまうとき、

誰にでも起こる哀しみの暴発。

ときおり、そう例えば雨降りの夜、街で

 堪えるすべ無く身体を折り畳む男──いつだってそうだ……

 ……あのとき俺が欲しかったものは、護りたかったひとは、

 それはいつも、それはいつも、手に入らず、渡せず、触れられず……

 俺が嘘をだったから。俺が壊した。俺が犯した。

 それがつらくて、こうしてときおり──


  きみは目が、閉じた。



  ふと香りとやわらかい息を感じ顔を上げる。目の前に白い手。

 

 「この花をあげます。

  名前は流花ルカ。貴方の為に流れる涙」


 「私は流留花ルルカ

  流れるものも留めることも、みな全きに同様であると祈る者」

 

  ルルカはそっと男に囁き、そして去っていった。

  流花を渡したまま。


  ……ずっとつらかったのでしょう。これからもきっとそうでしょう。けれども

  あなたの為に私は祈り続ける。誰にでもそんな花が有る。流花を枯らさないで。


  彼は今度は穏やかに、目を、閉じた。



      

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花むすめものがたり 泉由良 @yuraly

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