第17話 無人島脱出

「…さっきの光も消えた。もしかしてエクストラスキルが増えたからお知らせ的な感じで光ってた?」

先程までの光量が目に見えてしぼんでいき、今は文字がうっすらと光ってる程度に留まっている。


まぁ光ってくれた方が変化がわかりやすいから嬉しいけど。


僕は一旦ステータスプレートから目を離し、懐にしまう。


波の音、そしてクラスメイトが楽しげに砂場で遊び、海辺ではしゃいでる様子が見える。

そういえばこうやって落ち着いてリラックスできる時間なかったもんなぁ。


一週間前にこの不思議な世界に転移してから止め処なく時間が流れ、立ち止まる暇なんてなかった。

衣、食、住。

その上、多くのモンスターを狩っての食料確保に、あの猫による騒動。

これだけのことが一週間で起こったのが少し信じ難い。


「あ、清宮くん。おつかれぇ。どないしはったん? そんなうちらを眺めて」

僕がぼうっと海辺を眺めていると、太陽に反射する綺麗な白い素足で、土御門さんがこちらへ近づいてきた。

太陽のせいか、綺麗な黒髪に天使の輪が出来ている。


「いや、平和だなって思って」

「そうやなぁ、今までに比べたらだいぶね」

「…土御門さんともちゃんと話せるようになったしね」

僕の横にちょこんと女の子座りで座った土御門さんの視線が、ブレることなく僕と視線があっていた。

そういえばこんなふうに目を見てちゃんと話すのなんて、日本では考えられなかったな。

そもそもがほとんど話さなかったし。


ピクッと肩を揺らし、途端に顔色を赤らめる土御門さん。

肌が白いせいか余計に赤に近いピンクの頬が目立つ。


「ま、まぁ、そやね。 あっちにおった頃は殆ど恥ずかしゅうて話せんかったんよ」

「え、恥ずかしかった? 僕のことが興味なくて話さなかったんじゃなくて?」

「ちゃ、ちゃうよ! うちかて話しかけたかったんやけど、いきなり許嫁とちゃんと話せって言われたかて無理やん?」

ちょっと恥ずかしそうに、そして不満そうに頬を膨らませる。

たしかに今までの言動を思い返せば、恥ずかしくてちゃんと目を合わせなかったのは納得ができた。


でも、それなら恥ずかしいって言ってくれれば僕にだってそれなりの対応があったのに。

電話から始めるとか。


「…僕は嫌われてるのかと思ったよ。結婚がそもそも嫌なのかって」

「い、嫌ちゃうよ? むしろ嬉しいって言うかなんというか…。うちらの家系って自由に結婚なんてできひんやん? だからどんな人がうちの旦那さんになってくれるんかなぁってちょっと怖くもあったんよ。でも清宮くんを見たら安心したと同時に、こないな人がうちと婚約してくれて申し訳ないっていうか…」

申し訳なさそうに、長い睫毛の瞳を下げて下を眺める。

最後の方はほとんど聞き取れないくらい小さく口から漏れる程である。


僕がこの時思ったのは随分と自己評価が低いという事だ。僕のことが嫌いではなく、むしろ結婚を嫌がっていなかったことに少し嬉しくなる。

だが、申し訳ないのは僕の方だ。

土御門さんという学年のアイドル、いや学校のマドンナと言われるほどの美しい女性が相手では、僕の方が申し訳なさでいっぱいだ。

こんなぼっちで妹とご飯食べるほど寂しいやつで御免なさいって。


「そっか。ありがとう」

僕はつい嬉しくなって沈んだ表情をした土御門さんの顔を、頬に手を当て上を向かせた。

そして改めて感謝の言葉を述べる。


僕は、この時ちゃんと笑えた気がする。


だって、土御門さんが嬉しそうに微笑み返してくれたんだから。






◇◆◇◆◇◆◇◆

「なぁ、清宮くんも行かへん? みんなで遊んでんねん。 気晴らしにどう?」

「そうだね。じゃぁ行こうかな」

「ほな、いこかぁ」

土御門さんが立ち上がってこちらへ手を伸ばしてきたので、掴むようにして立ち上がった。


煌々と降り注ぐ太陽が若干眩しいけど、それが逆に真夏のビーチを思い起こさせて気分が良くなる。

気温はそこまで高くなく、およそ25前後。

それに思った以上に海独特の塩の風がなく肌がべとつかない。


良い気候だ。


「それでみんなは何してるの?」

「んー、なんやろ。ビーチフラッグとか、後は砂のお城とか、結構マチマチやね」

数名の男子生徒は膝上までズボンをまくって海ではしゃいでいる。

中にはパンツ一丁で海に入って貝殻を片手に海から上がって来る者。

日焼けが嫌なのか、土魔法で作った即席パラソルの中に避難する多数の女子。

砂のお城を黙々と作る人や、それこそ運動部さながら競争を始めてる男子。

本当にマチマチだ。


因みに先生は簡易パラソルで優雅にも昼寝に入っている。


その中で土御門さんに連れられてきたのは、阿澄と久礼野さん含む女子多数に、郡城や剛ノ内達を含む数名の男子が居るグループだった。

そこでは何やらサッカーらしき事をしていた。


「…サッカー? なんでこんな所に」

「そうやね。なんかサッカー部やった人が、どないしてもやりたかったらしく、色々な人に話して作ってもらったっちゅう話やったよ」

聞く所によると木の樹液や、ゴムの原材料になる木が、意外と近くにあったことからそれぽいのを作ったらしい。

そうは言っても、日本で考えると巨大スーパーボール並みの硬さや、形が少しいびつなため、サッカーに向かないと思われる。

だが、こっちに来てステータスが上がったから素足でも結構出来るそうだ。


「あ、兄さん。兄さんもやります?」

「ん? おぉ、なんだ清宮じゃないか!」

試合形式だったゲームの途中で、ボールを持っていた阿澄とそれ止めようとしていた剛ノ内が揃ってこちらに視線を飛ばしてきた。


「ちょっと気分転換に混ざりたいなって」

「清宮くんも混ぜてええかな?」

僕が少し控えめな声で前に出て、続くように土御門さんが大きめの声を上げると、そこまで不満はなかったらしく頷く生徒が多く見えた。


それでも比較的男子生徒から睨まれるように視線が飛んで来る。


なんだよ、そんな顔しなくたっていいじゃないか。

試合を止めたのをそこまで怒らなくても。


僕が試合に混ざることになったので一旦チーム分けをし直すことになる。

さっきはどう決めたか聞くと、久礼野さんと剛ノ内がリーダーになってグループ分けしたらしい。


今回僕は久礼野さんのチームとなる。

因みに阿澄は剛ノ内チームで、土御門さんが久礼野さんチームだ。

「よろしく、清宮くん」

「こちらこそ宜しくね。久礼野さん」

少し汗ばんで前髪が湿っているが、気にすることなく爽やかな笑顔で手を差し出してきた。

握手だ。

柔らかい小さな手に一瞬ドキッとする。


「私たちのボールだから、じゃぁ行くよ!」

そう合図をすると同時に、歪ながらもサッカーボールの形をした球を蹴りだす。

ボスッ。

随分重たげな音と共に、前に転がりだす。


うまい。やっぱりかなり運動神経がいい。


僕も久礼野さんの斜めうしろに着くように走り出して一定の距離を保つ。


でも、この砂場、目が細かいからちょいちょい足が沈んで走りづらい。

それでもステータスのバランス感覚に物を言わせて走る。


「清宮くん! 左に行って!」

「わ、わかった!」

前から聞こえた久礼野さんの指示で、僕たちは別れるように左右に走りだす。


「くっ! 行かせるかよ!」

「甘いよ!」

目の前をマークしていた数名の相手チームが一瞬戸惑うように視線を迷わせるが、すぐに二手に分かれた。

目の前に現れた敵チームを久礼野さんが止まることなく、器用なドリブルで左右に揺さぶって一気に抜いて行った。


「っあ!」

僕の方は完全にステータス任せの、少し強めの助走をつけることで敵チームを抜いた。


そのまま走る。

悪い足場に気をつけつつ。


そして設定したゴール前に久礼野さんが着きそうになったと同時に、一瞬こちらを振り返って交差する視線。


そうか。


僕は少しスピードを緩めて周りを確認する。


久礼野さんはそのまま止まることなくゴールへと走り出しているが、既にゴール前には3人の敵チームと1人とゴールキーパーがいた。

すぐさま止めに入ろうと久礼野さん目掛けて身を乗り出してきたが、久礼野さんは咄嗟に足を止めてボールを蹴り上げた。


「清宮くん!」

「っ、そっちか! って、おい! マークはどうした?!」

悔しそうに自分の頭上を通りするボールを眺める、おそらくサッカー部の男はすぐに僕にマークが付いていなかったことに驚愕する。

さっき抜いてきちゃったからね。


「きった、うぐっ、て随分重いなぁ」

僕はボールの着地点で胸でカットすると、予想以上の重さに驚くがそれだけだ。

そのまま地面へ落下するボールを驚異的な動体視力で完璧に捉えると、ボールの中心に当てるように脚を振り上げた。







◇◆◇◆◇◆◇◆

「じゃぁ、みんな乗った?」

今僕は巨大な式神でクラスメイトを船へと運び終わって、人数確認をしていた。


あの後ゴールをしっかり決めてゲームを再開していると、式神から船の安全を知らせる意思が飛んできたため、こうやって出航の準備に取り掛かっていた。


思った以上に大きい船は、部屋数もかなり多く、一人一部屋を与えられるほどだ。

それに一番心配していた衛生面も、木製の海賊船のような風貌とは一変し、部屋は比較的現代風で、風呂、トイレ、キッチン周りと、生活に必要なスペースは綺麗なものだ。


なんだ、あの猫が言ってた報酬、すごい充実してるな。


あ、それにこの船の舵をとるのは誰にしようと話があったが、どうやら舵付近に和紙で操縦の仕方が書いてあったらしく、やりたいと立候補していた男子生徒を筆頭に行うことになった。


そしてしっかりと貼られた帆に風が当たって船がゆっくりと動きだす。


こちらから見る無人島は、これだけならリゾート地といっても良いような、綺麗な景色をしていた。


これでやっと無人島は脱出できるのか。


そもそもこの島以外に大陸はあるのか。

人種は?言葉は?金は?


全然知らないことだらけだが、それは着いてから考えるしか道はないんだろうなぁ。


「出航! ってね」

船の後ろで遠ざかって行く無人島を眺めて、僕はポツリと声を漏らした。






無人島脱出編〜完〜

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異世界に飛ばされたけど、僕は神魔法と式神さえ有れば生きていけるって確信した。 アルアール @aruarl

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