第16話 沖に浮く海賊船。

「これまた凄いことになってるなぁ。先生一からライフライン整うの待つなんていやだぞ」

開口一番に先生は、どんよりとしたオーラを纏いながら文句を垂れた。

待つのって、誰かにやってもらうのが前提って。

流石怠け者先生。


他の生徒もこの状況はかなり気落ちしたらしく、絶句するものやライフラインを整えることに多大な貢献をしたものは泣き崩れる。


「みんな! 大丈夫だよ! あの猫からなんだけど、この島を脱出するための船を貰ったんだ。だから、それでここから出て行こうと思う!」

目の前に出た室木が声を上げながらみんなの顔をじっと見つめると、崩れ落ちた生徒は少し希望の篭った瞳で立ち上がり出した。

しかし、懸念が無いわけではない。


「本当に大丈夫なのか? その船に乗って」

「そうだ、元々があの猫のせいなのに、信用できるわけないじゃない!」

「ぜってぇ沈む」

ポツポツと上がる不満や不安が次第に広がる。

僕も流石に沈むことはないと思いたいけど、信用がないのは頷ける。

報酬って言ってたけどさ、流石にいきなり全員で乗るのにはリスクがある。

僕と同じ思考に至った人が居たのか、声が聞こえた。


「じゃぁ、初めにあいつらに乗せよーぜ」

「…そうよ、あんな性犯罪者なら何かあっても平気よ!」

「いや、流石にそれは可哀想だろう」

「でも、あいつらこれからきっと生きていけねーぜ? 社会的に」

一斉に、クラスメイトの視線が地面に縛られた状態で、横たわる数名の男子生徒に視線が向く。


「…ひぃっ」

突然の断罪へと向かう流れに青ざめた彼らが、空気が漏れたような声を喉から発した。


流石にそれは可哀想だろう。

魔女裁判じゃないんだから。


でも女子の意見が、彼らを最初に乗せようという意見に向かいつつある。


マズイなぁ、ここで見捨てたら絶対ギクシャクするのは目に見えてるし。


先生に至っては、女性であるためかかなり軽蔑の視線を向けて、両手で身を守るようにしている。

そのせいで大きい胸が余計に強調されて、尚更男子生徒の視線が釘付けになっているが良いんだろうか。


まぁ、男勝りとは言っても露骨な性犯罪未遂は許せないようだ。


女子と男子の断罪を求める声が大きくなるのを仲裁している室木だが、彼もそこまでしっかり止めようとはしていない。


唯一可哀想だという意見を述べるのは、剛ノ内と後は久礼野さんくらいだろう。


阿澄は我関せずに、僕の隣で伸びたステータスを確認してるし、土御門さんは僕の式神である巨大チーターを物珍しそうに眺めている。


「流石に可哀想な気がするけど」

「でも芽衣だって襲われたんでしょ?」

「そ、そうだけど、天燈君が助けてくれたし」

「あ、天燈君?! ちょ、ちょっとどういうこと?!」

「い、いや?! ただ助けて貰っただけだよ!」

心配そうに止めに入った久礼野さんは、途端に女子生徒に囲まれだした。


別に僕が助けたって良いだろうに。

何か問題あったのか?

それより暗くとげとげしかった空間が、女子が集まったことで一瞬で色めきだった。


「と、取り敢えず! 一旦ここは時間を取ろう。みんなも休憩したいだろうし、一度船のとこまで行って考えよう」

今を好機と見たのか室木が、断罪の方向に進んでいた話を切って、船に向かうように案を出す。

どうせ無人島から脱出するのは決まった事だ。

誰が初めに乗ろうと、それは変わらない。


僕は正直阿澄にも襲いかかろうとしたから、あいつらがどうなろうがどうだって良い。


可愛い妹を襲おうとしたんだ、死罪確定案件と思ってる。


「まったく、阿澄を襲うなんて死罪だよ」

「…そ、そこまで言わなくても」

思わず口から考えていることが漏れてしまい、阿澄に聞かれた。

当の阿澄は困ったように首を傾げて、僕の腕を掴んでくる。

思わず妹の教育の悪いことを言ってしまった。阿澄も普段はこんな事を言わない僕に驚いたらしく、少し目を見開いてるし。


普通の生活でそんなこと起こらないから、ついカッとなってしまった。

反省。





◇◆◇◆◇◆◇◆

「おっきいな」

「本当にこれが船…。なんていうか、海賊船みたいですね」

「まぁ、現代の船と比べたら可哀想だよ」

潮風が緩やかに体に当たり、それに波のさざ波がとても心地いい。


エメラルドブルーのとても透明感がある海だ。

前ネットで綺麗な海を調べて見た記憶があるけど、それと遜色ないほどに綺麗。


その中に異色を放つ巨大な船が沖から少し離れたところに浮かんでいた。

木製の中世以前の海賊船に似た、少し古めかしい船。


「じゃぁ、この船に乗る前に決めよう。彼らの処遇について」

室木はスッと一旦息を吐いて、みんなを眺めながら声を出した。

クラスメイトは想定以上の海の綺麗さに一瞬意識を奪われていたがそのセリフですぐさま顔が真剣なものへとなった。


「…あのさ、ちょっといいかな。もし船の安全を確認するんだったら、ぼくの式神を使うのはどうかな」

「…ふむ、確かにそれで確認できるならいいと思うけど、みんなの気持ち問題だよ」

阿澄を襲った男子生徒もいるため許せるわけじゃないけど、流石に生贄に出すみたいで良心が痛んだので提案した。

すると室木がよくやったと言わんばかりに口角をスッとあげるが、直ぐに気持ちを確かめるようにクラスメイトに向き直った。


「…それでもいいけどさ、あいつらどうするの?」

「正直連れて行きたくないよね」

「ここに置いてったら?」

まぁそれはそうなるよね。


女子たちが嫌悪感丸出しの瞳で未だ縛られてる男子生徒を見つめている。

誰もが身を寄せ合って腕で体をガードしてるし、乗せるにしても隔離する必要がある。

流石に野放しは可哀想だし、女子が。


「ひ、ひでぇよ! それはあんまりじゃねーか!」

「そ、そうだよ! こんなとこに置いてかれたら死んじゃうよ!」

顔を真っ青にしながら叫ぶ縛られた男子生徒だが、その必死な訴えも虚しくすぐさま女子達の軽蔑の眼差しとオブラートのかけらもない台詞で沈黙する。


まぁ大変だろうけど、死にはしないと思う。

ステータスって言うのもあるし。


「な、なぁ、そうだ! 斎藤! 助けてくれよ! 俺たち友達だろう?」

「へ、へへ、俺はなんで襲ったのかも覚えてないし、無実なんだよ」

男子生徒が最後の希望とばかりに仲が良かった斎藤を見つけて助けを求める。


そう言えばさっきから斎藤はずっと喋らずに、クラスに溶け込むようにしてついてきてた。


僕は一瞬あの時のことを思い出す。

一人森の中で何やら声を上げていたと言う式神からの報告。


そう疑っては見ても斎藤は狩人だし、洗脳なんてものは持っていないはず。


「友達、だったね。でもさ、俺性犯罪者とは友達になりたくないな」

貼り付けたような笑みを浮かべる斎藤が、人の隙間を縫うように前に出てきた。

バッサリと、まるで躊躇も見せずに友好を切り捨てる。


まさか、普通ここまで切り捨てるか?

いくら友人が罪を犯しても、友達なら一瞬でもかばいそうなものだと思うが。


一瞬ぽかんとした表情を浮かべる男子生徒だが、すぐに言われたことを理解して顔を青ざめる。

友達と思っていた人に裏切られた、いや、簡単に見捨てられてしまった事実に、齢16歳と言う少年にはかなり残酷だ。


「く、くそぉ…」

ポロポロと少しずつ涙を流し次第に静かになっていく様子はかなり哀れに思えて、逆に可哀想になってくる。


僕以外にも斎藤がそこまで言うとは思っていなかったらしく、一瞬引いたような表情を浮かべる人がチラホラいた。


それでも斎藤は自分が正しいと信じて疑わないのか、ぽっちゃりした肉体で空を切るように歩いて下がっていった。


「ま、まぁ、取り敢えず僕の式神で船が安全かどうか確認して、大丈夫なら乗り込もう。で、一応彼らには縛った状態の上、隔離して連れていくって言うのはどうかな? それに船の中でも僕の式神で見張るし」

「き、清宮くんがそこまで言うなら…」

「別に私は初めからそこまでするつもりはなかったしね」

「俺らもいいっすよー」

流石に今の空気に耐えかねたので話を進めると、みんなが戸惑いながらも賛成する。

他の男子生徒も納得がいったのか、数名は既に興味をなくして綺麗な海の方は歩き出していった。


「よし、じゃぁ船の中を調べ終わるまでここで休憩にしよう。海で遊ぶ人は気をつけて遊んでね」

「はーい」

「うっしゃー! うっみだー!」

室木の合図で生徒達は海へ走り出していく。

綺麗な、一つ一つがとても小さい真っ白な砂浜を走っていく。


「じゃぁお願いしていいかな? 清宮くん」

「あぁ、いいよ。多分時間もかかるし室木も休憩してていいよ」

「そう? じゃぁ、ちょっと休憩してくる」

疲れた様子がよく見なくてもわかっていたのでそう提案した。

流石に室木も仲裁や戦闘で疲れたんだろう、すぐに光が当たらない砂浜に腰を下ろして休憩し始めた。

脇には玖鞠さんと藤林さんが心配そうに近寄っていってる。


「よし、じゃぁ調べるか。って言っても式神を作って調査に行ってもらうだけなんだけど」

「兄さん、私も手伝います」

「阿澄か、ありがと。じゃぁちゃっちゃと式神作って僕らも休憩しようか」

二人して金色に輝く線を空に走らせて絵を描くと、すぐに式神が生まれ落ちる。

海を渡っていくために、鳥類を生み出した。

1メートル前後のワシのような式神と、内部を探索するために、ワシにしがみつける小さなネズミを生み出す。


慣れたものだ。


「じゃぁ、君たちはあの船を調べてきて。内部にトラップとか危ないものがないかどうか。よろしくね」

僕が指示を出すと、話を最後まで聞いてしっかり頷くワシとネズミ達。


本当に知性が上がってる。

初めはなんとなくでしか把握できなかった意思も、今では会話レベルまで正確に伝わってくる。


「じゃぁ僕も休憩したいから、阿澄は久礼野さん達と遊んできなよ。ほら」

「そうですか? では行ってきますね」

僕が地面に腰を下ろして、向こうで遊んでいる久礼野さん達を視界に入れながら阿澄に提案すると、変に拒むわけでもなく自然と混ざって行った。


阿澄も馴染めたみたいだしよかった。

初めはどうなるかと思ってたけど、土御門さんに久礼野さん、それに女子生徒が比較的優しく話しかけてくれてたから助かった。

まぁ下心アリアリの男子生徒もいたから、僕が出て行って追い払おうとしたことが何回もあったが、久礼野さんと土御門さんがうまく追い払ってくれた。

随分と慣れた様子だったけど、まぁ二人ともかなりの美人だし男のあしらい方なんて朝飯前なんだろうな。


そんなことを思いながら、僕はこの戦闘でどれだけ成長したか気になったためステータスプレートを取り出して確認することにした。


「確か、聖装に包んでたと思うけど…。あった、けど、凄い光だな」

今は制服に着替えており、聖装はたたむようにしてボロボロの鞄に入れて持ってきていた。流石に使いたくはなかったが、服の入れ物もなかった為、新しいのが手に入るまでの我慢だ。

それよりも目当ての物は服の上からでもわかるほど、淡いオーラを光としてはなっていた。


名前 アマト キヨミヤ

性別 男

種族 ヒューマン

職業 神主 Lv.32

魔法 神魔法Lv.2

固有スキル 御神体Lv.1 禊ぎLv.3 祈祷Lv.1 祝詞Lv.1 お祓いLv.4 式神Lv.6

エクストラスキル 言語理解 神威耐性 御護り 神血制御 保護服補正


「…レベルも随分上がったけど、保護服補正ってなんだよ。もしかして聖装着て戦ったから、ステータスに影響出たのか?」

まぁ説明もなんもないから全部推測だけどね。

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