第15話 崩れ落ちたトロール。

左に避けて袈裟に斬る。

後ろに下がると同時に首を撥ねる。

そのまま地面を踏みしめて前方に飛ぶと、左右の二匹を同時に斬り伏せる。


やばい、そろそろ疲れてきたかも。


子トロールが数十、もしくは数百湧いてから僕はひたすら斬り続けていた。

後ろから阿澄の援護の式神が途絶えることなくこちらへ送られてきて一緒に狩っているが、それでも目に見えて減ったようには感じない。


あの魔法陣、もしかして何かするまで消えないのか?

一度踵でふみふみと地面を擦ってみたが魔法陣は地面から数センチ上に展開されているらしく、意味なかったし。


等間隔で、多分十秒に一匹の割合で生まれてきているため、今の均衡を保つには斬り倒す速度を落とすわけにはいかない。


左、右、時には正面から一斉に襲いかかってくる子トロールを斬って対処する。


本当に疲れた時は、式神に現場を任せて久礼野さんの回復魔法で体力を回復させるが、かなりの諸刃の剣となる。

僕が抜けた瞬間から爆発的に増える子トロールを対処になきゃいけないから。


「阿澄! もう少し式神の速度上げられないか?!」

「や、やって見ます!」

「頼む!」

後方にいるであろう阿澄に大声で伝えると、気合いを入れるように前に出る。

斬る、斬る、斬る。


子トロールを倒す出してから、多分経験値が上がったおかげでどんどんと体の動きが早く、そして軽くなる。


親玉である巨大トロールは子トロールの群れに入れないためか、後方で優雅にもこちらを眺めてる。

くいっと上がっている口角がすごいイラつく。


舐められてるなぁ。


僕は片手で刀を操り目の前の子トロールを切り倒しつつ、懐から筆を取り出した。


「…動かなけりゃ、逆手で描けるんだよ!」

斬られた順に子トロールが煙となって消えるため、死体で場所が邪魔になるなんてことはない。


空に金の線を走らす。

戦場で一際光を放つ線を。


向かってくる子トロールの腹に一線を入れると、上下に分かれた瞬間煙に変わる。


ブレることなく一本の線を横に引く。


「兄さん! 行きます!」

来たか!

背後から阿澄の声が聞こえた直後に、僕の両サイドから巨大ゴリラが二匹飛び出して来た。

そのままこちらへ向かってくる子トロールを殴り飛ばし、投げ飛ばす。


今のうち。


最後の仕上げとばかりに空に絵を描き終えると、フゥっと息を吹きかける。

空の模様のパーツが零れ落ちるように、地面に落下する。


カチャ。


地面につく前に手に取ったそれは、僕が逆の手に持っていたものと全く同じだった。


「刀が二つあれば単純計算で2倍だよね」

僕は走り出す、子トロールの群れの中へ。


飛び込むようにして入った瞬間、体の軸を使って刀を回転させるように振り回すと、周りにいた7、8匹の子トロールが一瞬で煙へと変わった。


これなら、行けるか!


斬るたびにトクントクンと、刀が疼く。


あぁ、喜んでるのかな。

これは刀の形はしてるけど、一応異形の生き物として生み出したからな。


式神レベルが上がると生み出した式神の強さが上がると同様に、生み出した異形型の刀も鋭さが明らかに違う。


今生み出した方が圧倒的に切れ味が良かったため、自分の利き手に切れ味が良い刀に入れ替えた。


『ブウフウフウウウウ、ブヒュウウウウ!』


殲滅速度が増した僕に危機感を抱いたのか、今まで余裕の表情を浮かべていた巨大トロールは、身の丈にあった巨大な大剣を片手に歩き出す。


奴の一鳴きで、モーセが海を割ったように子トロールの群れが左右に割れる。


「いけ!」

王の凱旋を祝うような一本の道を優雅に歩いてくるトロール目掛けて、僕は一匹の式神を放つ。


ヒュンという風を切る音が生まれた直後に、巨大トロールの前でなにかが弾ける音がした。

やられたか、


でも、隙を作った。


一瞬にして10メートル以上もの間隔を爆発的に上がったレベルに任せて一気に詰める。


奴が大剣で僕の式神を斬り裂いたために、僕の位置は今大剣によって隠されていた。


斬れろよ。


片手で奴の腹めがけて。

もう一方のよく斬れる方の刀は、大剣を持った腕めがけて振り下げる。


『ブギャアアアアアアア!』

腹に深々と突き刺さった刀をさらにえぐるようにかちゃかちゃと動かし、完全に腕を切り落とした刀はそのまま翻して一番近くにあった足を切り裂く。


ガクッと折れるようにして地面に跪き、奴の顔が直ぐそばまで降りて来た。


ゴン、という大剣が地面に落下した音と同時に僕は、腹に刺していた刀を引き抜くと、首の中央にブスッと突きさす。

『ビュッッヒュウウウウウウ…』

すると、奴の光を灯っていた真っ赤な瞳がブラックアウトし、口からあげる断末魔の叫び声があたり一帯に響く。

力尽きた巨大トロールを見ていた、近くにいた子トロールから順に動揺に似た焦りが見て取れるように広がっていった。


「よし! 阿澄、久礼野さん! ボスは倒した! あとは残党狩りだ!」

ようやく終わりが見えて来た戦いに、僕は安堵し、そして一番近くの子トロールに向かって走り出した。




ーーーピッ


モンスターが大量発生する原因であるこのスイッチを押すと、途端に周りの子トロールが煙となって姿を消し、式神から送られてくる意思が、全てモンスターが消えた報告へと変わった。


「終わりましたね、兄さん」

「天燈君! お疲れ様!」

「…ふぅ、ありがと」

僕が疲労のせいか地面に膝を落とすと、阿澄たちが集まって来た。

ふたりとも僕と同じくらい疲れてるっていうのに。


「やぁ、お疲れ、清宮くん」

「あぁ、室木か。援護ありがとね」

「援護ってほどでもないさ。殆どちっちゃなトロールだったしね」

子トロール殲滅戦に移行した後、中盤あたりで僕が作った式神にまたがって室木と群城が援護に駆けつけてくれた。

あの時はイケメンだったなぁ、登場の仕方が。

鉄製の件に聖魔法を纏わり付けたのか、すごい光ってたし子トロールなんてバターを熱した包丁で切る並みにスパっと消えてったし。


「それより、クラスメイトはどう?」

「大丈夫、殆ど合流は完了したし、剛ノ内たちが護衛してたからね」

「そっか、それは良かった」

僕は一息ついてこの戦いの終わりに安堵する。

一旦周りを見渡すと、前日までのライフラインは全て粉々になっており、キャンプ地跡は地面が戦後の影響で凸凹と、到底生活できそうもない。


また一からやり直しかと、かなりのストレスを予想できる展開に嫌気がさしていると、奴が現れた。


「にゃぁ、やっぱおみゃぁら、今世代はすげーにゃ!」

空からスタッと降りて来た猫は綺麗に着地して辺りを見渡している。


こいつ、なんか気楽だな。

そもそも試練の結果がこれって、得るものだって無かったし。


「…それで、試練は合格なのか? そもそもなんでこんな事…」

「ニャァ、合格にゃ! 理由は言えんにゃぁ。まぁ報酬としてこの島から脱出する船を用意したにゃ! 海岸に止めといたから利用するにゃ!」

猫のミータンは意味もわからず胸を張って自慢げに船がある方向を指差している。


僕は即座に近くにいた式神に確認の思念を送ると、先ほど突如として1隻の巨大な船が現れたらしい。


「船は本当らしいよ」

「そうか、じゃぁひとまず無人島は脱出できるな」

室木が確認の視線を送って来たので肯定する。


「じゃぁみゃぁはまだ用事があるから此処でおさらばするにゃ! ばいにゃら〜」

「あ、おい! まだ聞きたいことがあるんだ!」

再びいきなり消えようとした猫に待ったの声をかける室木だが、やはりその声は虚しく響くだけだった。


「行っちゃったか」

「…まぁいいか。じゃぁ取り敢えずクラスメイトと合流するか」

「そうだね」

室木が合流の案を出して来たので、僕はそれを伝えるべく、この荒れた戦場跡で疲れた様子で立っている阿澄と久礼野さんの元へと向かった。




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