第28話 F-17 ピエロのだした条件

「……ううっ。気持ち悪い──って、ここが……ピエロの本拠地ホームなの?」


 照明が控え目で、薄暗いせいか、一瞬、変な所に連れてこれらたのでは?……と危機感を感じだけど、違う。どこかのバーのようだ。


 ホームに行くといっていたけど、お店だったの? でも、私たち以外、他に人がいないし、閑散としている。バーテンダーすら見当たらない。


「そそっ♡ オーセンティックバーっぽく造ってみたんダ☆」


 オーセ??。 正統派バー……みたいな?


 確かに、床は絨毯張りだし、一枚板のカウンター奥の酒棚バックバーには、高そうなウィスキーやリキュールのボトルが、整然と並んでいる。カウンターの前には革張りのソファーと、暖炉まであり、火にくべられた薪がパチパチ音を鳴らしていて、お洒落だ。ゲームとかで出てくる大衆的なバーと比べたら、ずいぶんと格式が高い気がする。


 まぁ、未成年なのでバーなんて行ったことないし、ゲームからの見解にすぎないんだけど。


 にしても、私の小屋と調度品のレベルが違いすぎる。広さも私の小屋の5倍はあるんじゃないかな。この間、ルーちゃんと行ったヴィネラさんの家も、お洒落だったし、もしかすると課金とかで自分のホームを改築できるのかも。



「もしかして、ボクのイメージと全然ちがう!!って、思ってたりスル?? スル?」 

「うん」

「わぁ♡ ひどぉ~い☆」

「…………」


 女子高生みたいなノリで言うピエロをみて悪寒が走る。さっさと帰りたい。


「早く条件というのを言ってよ?」


「まぁまぁ落ち着いて☆ そこのソファーにでも座っテヨ♡」



 ピエロに促され、私とノエルは二人掛けのソファーへと座った。ソファーの前の重厚な机には、天井のランプの灯が浮かび上がっていて、とてもロマンチックだ。ただし、対面側に「ボク作成、オレンジジュースをドーゾ♡ 」とか言って座っている彼を、視界にいれなければ、の話だけど。あと、ボク作成ジュースとか、怖くていらない。



「ふふ、嫌われたもんだね~♦ マ、いいや~、本題にはいろっカ~☆ 条件はみっつ♡」


 ピエロはそういうと、目を細めて狐のように胡散臭く微笑む。



「三つ……」


 多いな。私になんとかできるものなの?


「──っと、ぁ~~もう♦ そこのNPC! いい加減だまってヨ! さっきからウィスパーボイスで色々と煩いんダヨ♦」


 思わず、チラリと隣にいるノエルを見たが、無表情のままで、何か言ってるような顔には見えない。


「ノエル?」

「マスター……条件なんてのむ必要はない。彼が──

「すと~っぷ♡ そこのNPC、僕はナツキと話をしてるんダヨ☆ ────って、そういう正義感ぶる所、ホント、キライ☆ ナツキは消さないって、言ってるのにサっ! やめないと、キミ、い ま す ぐ 消 す よぉ~☆」


 ピエロは口元に、ひとさし指をあて、しぃ~しぃ~と子供に諭すかのような仕草をする。反してノエルが何か言いかけたが、私がそれを手で制止した。ノエルに悲しそうな顔をされるのは辛いけど、ピエロの機嫌を損ね、消されたら困る。


「で? 三つの条件って?」

「ん~♡ ノエルのコト、トモダチとして接してよ♡」


 ──え?? トモダチ?


 予想外な条件に言葉がでない。それはノエルも同じようで私より困惑した表情をしている。



「わぁ~♡ 意味わかんないって顔、ステキ♡」



 む、むかつく。



「デキルヨネ??☆ そこのNPCと仲良くするだけダモン♡」

「もく──

「帰ろう、マスター」


 目的はなに? と聞くつもりが、突如、立ち上がったノエルに遮られてしまった。しかも私にまで早く立てとばかりに、腕を引っ張り上げようとする。


「せっかちだネ♦ まだ全部の条件をいってないよ♦」

「………あとの二つは、予想がつく。お前の目的は知ってるし、それは僕が満たす事だ。マスターまで巻き込むなっ」

「へぇ~☆───でも、お前に理解できるの? しかも君のご主人様なしで」


 へらへらしていたピエロが、急に真顔でいう。


「今はまだ……。本などで勉強している段階だ。急くなら、僕とマスターは体の相性が──ら、又、深く繋がりあ─g、ふg


 慌ててノエルの口へと手を伸ばしたが、身長差で届かず、肝心な言葉がこぼれてしまった。


「ピエロ……あのね違「違う? 僕らは、確かにあの時一つになっ「ちがーーーーっ!!」


「──君、このゲームは、そういった行為は出来ないはずなんだけど。まさかノエルは別枠にしたのか? 再確認しておく必要が……」


 ピエロは、よほど衝撃的だったのか、ふざけた声は消え、焦りを含んだバリトン声で、なにやらぶつぶつと呟いている。


「まって、説明させてっ!!

「あ~情事まで詮索はしないから。ただ、君、18歳以上だよね? 」

「そうだけど──って、ちゃんと聞いて欲しいの」

「わかったから。無理して言わなくていいって」


  全然わかってないよ!!  その上、道下言葉までやめて、真面目にいわれたら、かえってつらい。


「なら、あとは君とノエルの経過を監視かな」

「「監視?」」



 私とノエルの反応に、ピエロはふふ~んと笑うと、

「まさか友達になったよ~☆ で終了なわけナイデショ♡」と、若干道下精神を取り戻してきたのか、大げさに驚いた素振りをする。


 その後ピエロはノリノリな口調で、条件の詳細について話してくれた。


 まとめると、こうだ。


 ①友人として接する→これはクリアー(だたし一部誤解あり)


 ②ノエルに友情を理解させる。


 ③会話内容を確認させてもらう


 ノエルに友情を【理解】って、かなり難易度が高そう。フランダース発言してくるぐらいだし。それよりも……

「③はなしにしませんか?プライバシーの侵害だし。私が、最近、ノエルがどうだとか定期的に報告するとかは」

「ん~~それだと、嘘の報告とかもできちゃうヨネ~? ボクにとってメリットがナイナ~」


 うぅ、そうはいっても、確認されるとか嫌すぎる。ノエルは色々と爆弾発言をするのに。


「なら、僕がマスターの代わりに定期的に状況を話すよ。僕は誓ってその事では嘘は言わない」


「ダァ~メ。君はまだ色々とトンチンカンだからっ──ってコワイから☆ いい加減、ウィスやめてよ。確かにそれを行使したらボクを抹消できるだろうけどね、ナツキも無事で済むとは思えないよ」


 抹消??? 私も?? ノエルは彼と何を話しているの。


 わざわざウィスで話すという事は、私には言えない話題をしているんだろうけど。ピエロの存在をどうにかする切り札でも持っているのだろうか? だから、あれだけ自信満々で任せて欲しいといってきたの??


「別にイイデショ~☆ ボクのログイン時に、遠くで君たちの会話をそぉ~と聞くダケなんだから☆ まぁ、情事まで聞かないから安心してよ☆☆」


「それは、世間でいう、盗聴というものじゃ……あと情事は本当、違いますから」

「ウフフ~またまた~☆」

「……とにかく盗聴はやめて」


 本当にそんな事できるのだろうか……と一瞬おもったが、ピエロは運営に近いっていってたし、完全に否定はできない。


 このままだと、ピエロがいつ私達の会話を聞いているんだろう……と不安になりながら、ゲームする事になる。せめてこちらも、ピエロのログインを状況がわかればいいのに。


「アーア。ナツキったら、そんな顔をして。そんなにやなの~☆ 悲しいナァ~☆カナシイなぁ~」


 ピエロはそういって泣きまねをする。


 いやいや、誰だって盗聴されたらいやでしょ?! はぁ、こうなったら仕方ない。ノエルは怒ると思うけど。


「ピエロ……」

「ん~なぁに?」

「影でこっそり会話聞かれるのなんて絶対嫌。気持ち悪い、吐き気がする」

「わぉ~♡ イウネェ~☆」

「だから」

「ダカラ?」

「私と友達フレンドになってくれる?」

「………」


 瞠目するピエロの横で、ノエルが「マスター……それって浮気??」とか言ってきたが、無視をする。ノエルの友達定義、絶対どこかでおかしくなってると思う。今度しっかり教えてあげないと。


「そっか☆ フレンドになれば、友人検索フレンドサーチでログインと居場所がわかるモンネ♡ なら、堂々とオトモダチとして君たちの傍に居続けルヨ♡ イイノ~☆ ボクのプレイは色々と過激だしぃ~♡ あの時いた三人のように君も怒ると思うよ♡」


 さすがにイヤデダヨネ~? グフフ~☆と言いながら、ピエロはニタニタと試すように私を見る。


 なんでこの人はこんな風にふるまうのだろう。たぶん、わざと振舞ってる。


 まるで自分は、嫌われ者を演じなくてはいけないとばかりに、わけのわからない道下な行動ばかり。地声だって素敵きれいな声なのに、わざと変な声で話すし。行動意図が全く読めない。


「ピエロ……あのね」

「い~よ、い~よ♡ 無理しなくてもっ☆ フフフ~そんなにこっそり聞かれるのがヤなら ウィスで、きいちゃってまぁ~~す♡ って言ってアゲルヨ☆ タブンだけどぉ~」

「一緒にいていいよ」

「ウン、ウン、やっぱりソウダヨネ☆……え?」


 予測する返事と異なったのが、よほど驚いたのか、驚いたピエロの声は自の声だった。

「その代り、ちゃんと友人として一緒にいてね。あと影でこっそり聴くはなし! ちなみに過激プレイは、ある意味私も同じだからよろしく。これででいいよね?」


 私はフレンドカードのイメージングをし、きらきらと光る小さなカードをピエロの方へと飛ばす。


 ヴィネラさんが言った通り、私のカードは淡い紫色だ。


 横でノエルが非難の声を上げるが「ごめんね」といって遮った。


「ホンキ……なの?」


 ピエロは困惑した表情のまま私を見る。


「本気。早く受け取ってよ。私からフレンドカードを渡すのは初めてなんだから。受け取ってもらえないとボッチ気分で、後でちょっと落ち込みそうなんだけど」

 ピエロは、疑うようにこちらを見たまま、ニタリと口角だけ釣り上げ、手の中にカードを収めた。


 フレンド登録は……これで上手くいったのかな? 


「へ~え☆ あんなにボクの事、キライ~って顔してたのに、どういう心境の変化なの☆ 別に友人にならなくても、ちゃんと聞いているときは教えるっていったのにさ」

「一緒に遊んだほうが互いに気楽でしょう? それに──


 私は目の前にある、オレンジジュースを口にすると、ピエロが驚いた顔をした。


「このジュースのつくり方、気になったから、今度私にも教えてよ。友人でしょ?」


 ジュースは甘い感じがするが、実際舌の上に液体ジュースは入り混んではいない。でも香りと風味はしっかりあるから不思議だ。

 私の言葉にピエロは「いいよ☆」というと、フフフっと笑った。





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現実と幻想の境樹(RとFのきょうじゅ) 七海 夕梨 @piakiri

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