第27話 F-16 待ち合わせ

 結局あれから、一睡もできず朝を迎えてしまった。


 もう一度ログインすべきかと悩んだけど、授業やバイトを放棄するわけにはいかない。


  ───と、思っておきながら、授業やバイトは、ノエルの事が心配で集中できず、悠乃ちゃんにまで、「顔色が悪いよ!」って、心配されるしまつ。


  リアル重視! なんて建前で、結局、私は怖いのかも。


 デリートを阻止する力なんて、なにもないって思い知らされるのが。せめて、ノエルが人に近いNPCでなければ良かったのに。そうすれば、少しは気持ちの切り替えができたかもしれない。




  どうしてノエルを作っておきながら、後に消そうとしたんだろう。ゲーム会社でなんらかのトラブルがあったのだろうか。あれこれ、考えたって真実はわからないけど、作った人に、これだけは言ってやりたい。


  恐怖する相手にデリートとか、罪悪感の欠片もないのかと。たとえそれがAIだとしても。

 

  そう思ったら何だか変な闘志がわいてきた。


  もし、消されるんなら、一言ぐらい言ってやろう。なにもしないままデリートとかされるものか。


 

 バイトが終わり、帰宅すると、コンビニで買ってきたお弁当を急いで口へと放り込んだ。普段は自炊するけど、ノエルが心配だったし、ロボットについて調べる時間が欲しかったからだ。



 敵と戦うためには情報が必須。


 ──とか思いつつも、やっぱ夢だったらいいなとか、願う弱い自分がいる。ともかくロボットの姿がわかれば夢か現実かが、わかるはずだ。


 祈るような気持ちで、パソコンの電源を入れ、例のロボットについて検索してみた。


 検索結果は、前回同様、世界観が違うからやめてほしい、PKされた、デリートされたという否定的なコメントが主だ。ただ、悪乗りして書き込んでいる人もいて、事実か、はっきりしない。逆に、PKされそうなところを助けてもらったなど、好感なコメントもいくつか見受けられる。



 なのに肝心のスクリーンショットが、ない。


 これだけの書き込みがあるというのに、名前も、外見上からロボットと呼称しているだけで不明だなんて。本当に存在するNPCなのかな……いや、そもそもNPCなの? どちらかというとGM《ゲームマスター》っぽいけど。機械音で話してはいたものの、会話は流暢だったし。


 あ……流暢といえばノエルもか。このゲームで話したNPCは、セレナーデさんとノエルだけだから、会話能力だけで、NPCじゃないと決めつけるのは早計かも。



 やっぱ、ルーちゃんに相談したほうがいかなぁ。でも万が一、迷惑をかける事になったらと思うと言えない。運営がらみでルーちゃんまでデリートされたら困る。


 ──なら、どうしよう。

 

 ログインしてロボットに遭遇したら逃げきれないし、かといって放置したら、ピエロが怒ってノエルの事を運営に報告してしまうかもしれない。




  やっぱ……正攻法で、ノエルだけは消さないでってお願いするしかないのかなぁ。


 正攻法もなにも、それって単なるお願いじゃん……とは思うけど、私もノエルも別に不正をしようとして、プレイしていたわけじゃない。一生懸命伝えたら、通じるかもしれない。ロボットは話しぐらい聞いてくれるかもしれないし、ピエロだって運営には報告しないかもしれない。


 やるだけやってみよう……。


 決意をかため、私はBCIGを装着した。


 視界がログイン画面に切り替わると、私は身構えるイメージをとった。


 もしあれが夢でないのだとしたらかなり不味い。夢のままの場所だったら、ロボットが即座にデリートしてくるかもしれない。まずは話をきいてもらう状況を作らないと。


「マスター? なに……してるの?」


 ノエルが首を傾けながら、不思議そうにこちらを見ている。彼の背後は、ほのぼの~としたグノームの村だ。


「ノエル……ノエルだっ。よかったぁ~、あの廃墟の街は夢だったんだ!」

「廃墟? 何を言ってるの? この村が次に初期位置になるって言わなかったかな」

「そうなんだけど、また死んだり、デリートの危機とかにあうんじゃないかと不安だったから。って、そうだっ、ロボッ──

「死んだ!?  マスターが?! いつの間に! 僕はマスターのセーブポイントでずっと待機してたんだよ!」


 ノエルは声を荒げると、私の肩をつかみ上から下までジロジロと確認する。


「マスター? マスターのHPは正常で、死亡履歴も今の所0だけど、大丈夫? もしかして記憶障害になってるとか? マスターの実年齢は、かなり老齢なの? まさか……僕が共感したせいで脳がっ」

「いや、脳は大丈夫だし。一応まだ18歳で、ぼけるには早いかなぁと思いたい」

「そう……なら、いいんだけど。本当に大丈夫?」


 心配そうにノエルは私の顔をのぞき込む。


「大丈夫だよ。私の事より、ノエルは?」

「僕のAIなら正常に機能してるよ」

「そうじゃなくて……一人で怖くなかった?」

「怖い??」

 

 キョトンとした顔で私を見るノエル。


 あー、この反応からして昨日の事は、何でもなかったってことか。それはそれでよかったけれど、心配で寝れず変な夢まで見た私って一体……。


「問題ないならいいの。私が勝手に心配しただけで」

「しんぱい……僕を?」


 ノエルの顔がみるみる無表情に変わる。いや、そんな反応されると何だかつらいんだけど。─って、そっか、ノエルは頼りにされたいんだっけ。


「あははー心配とか必要なかったよね」

「困る」

「はぅ」


 さっきから表情と言葉が率直すぎる。ちょっとはオブラートに包んでほしい。


「まさか、ずっと心配してたの?」

「──うん」

「───っ」

 

 ノエルは、何かを言いかけた自分の口を、慌てて抑えこんだ。

「ノエル??」

「マスターは……僕を困らせたいのっ!?」

 

 な、なんかわかんないけど、めっちゃ怒ってるぅっ。


「──ごめん」

「謝らないで」


 やばい。とりあえず謝っておこうっと思ったのがばれた。でも何故、私は怒られないといけないのだろう。聞かれたから答えただけなのに、理不尽だと思う。


 と、いけない。今は目の前の問題に取り掛からないと。


 ロボットの件は、夢って事でまずは、解決として。色々と疑問が残るけれど、そうじゃないと辻褄が合わない。多分、ピエロの件があって運営が~~! とか考えていたせいだ。

 

「って、そうだ!! ピエロ!!」


 ピエロの名前を出した途端、ノエルの顔が苦虫をかみつぶしたような顔になった。余程嫌いらしい。


「あぁ……彼からメールが来ているよ。ナツキがログインしたらすぐ、会いに来てほしいって。指定場所はこの間の教会の裏。ログインしたらウィスパーボイスを飛ばしてほしいらしいよ。ちなみにルーフェスさんは今日、ログインできないって。急用ができたっていってたけど、きいてる? さっきまで暇なのか、僕に話しかけてきて、とっても煩かった」

「え? ううん。そういう事あったら、メールでいってくるんだけど。私が気が付かなかったのかな」


 でも、よかった。ルーちゃんに会ったら、ピエロの所に行くのをどう誤魔化そうかと思ってたから。


「マスター、面倒事はさっさと終わらせよう。彼のせいでいつまでたってもレベル上げが進まない」

「いや、でも……大丈夫なの?」

「僕がちゃんと考えてあるから問題ないっていったはずだよ。僕を信じて。ほら、早くウィス飛ばして」


 いや、考えてあるって言われても。 

 

 自信満々なノエルを、不安そうに見ていたら、

『ナツキ。ログインしたようだね。メールはみてくれた? ウィスしてって言ったのにつれないなぁ』

 突然、バリトンボイスが耳元に聞こえてきて、思わず「ギャー!」と、謎の雄たけびを上げてしまった。横でノエルが目を見開いて驚いてる。


 声の主はピエロだ。


 なんだ? 私がログインしたら、声かけてくるなんて。どっかで待ち伏せしてるの? 怖い。キモイ。



『い、今来たばかりだったから! 教会の裏にいけばいいんでしょう!』


 私は声を荒げながら教会へと向かった。ノエルももちろん一緒だ。


 教会の裏に行くと、ピエロがこっちこっち! と言わんばかりに手を振っていた。相変わらずどぎついメイクだ。本日は淡緑色の髪を綺麗に後ろに流し、その上にハート飾りが付いたカチューシャをつけている。これは突っ込んでほしいからつけているのか、通常装備なのか。あまり関わりたくないので聞きたくないが、気になって仕方がない。


「やぁ☆ ナツキ。会えて嬉しいヨ♡ で、さっそくで悪いんだけどボクの本拠地まで来てくれル?」


「え? 本拠地?」


「マスター、彼のゲーム上での自宅ホームだよ。マスターで言えば精霊の森の小屋にあたる」


 私の疑問にすかさずノエルが答えてくれる。


 えぇー。ピエロの自宅。


 なんだか気持ち悪い置物とか、呪いの人形とかありそうでいやだ。


「ウフフ☆ ナツキったら、あからさまに嫌だ~って顔してるよネ♡ 大丈夫、そこにいる彼も連れていくつもりだし、いかがわしい事なんて、するつもりはないヨ♦ まぁしてほしいっていうんなら別に構わないケド♡」


 ピエロはそういって、目を細めてニヤリと笑うと、わざとらしく、恥ずかしそうに顔を隠した。この人、地声はあんなにいいのに、何故アホみたいな声と行動でわざわざ話すんだ。どっちかに統一してほしいな、対応と反応に困るし。


「わざわざ自宅ホームなんかに行かなくても、ここでお話すればいいと思うんですけど。内密な事でも、ウィスパーボイスで十分でしょう?」


『──ふふっ♡ そんなに警戒しなくてもいいのニ♦ ボクのホームでちゃんと条件をきいてくれたら、ノエルにはなんにもしないヨッ☆ これでも一応運営に近い立場にいるしね♡ いざとなったら君たちを守ってアゲル事もデキルヨぉ~☆』


 うぐ……。またしても運営。やっぱりピエロのせいで変な夢をみたんだ、間違いない。


「──わかったいくよ……で、どこにあるの?」


「は~い♡ ではまず、手を手前にダシテ☆」


 ピエロはそういってニンマリと笑う。


「手?」


 私は、言われた通り前に手を差し出すと、ギュっと握りしめられた。

 ぞぞぞぞぞ~~~と茶色いアレに背中を這われたような悪寒が背筋に走る。気持ち悪くて手を離そうとしてもきつく握られ放してくれない。


「ピエロ! 放して! 何するつもり!……ノっ ノエル!」


 思わずノエルに助けを呼ぶと、何故か反対の手を握られ

「大丈夫、僕も一緒だから」

 と真剣な顔でいわれた。


 え、いや、そうじゃなくて、この気持ち悪い手を放すのを手伝って!

 と大声を上げそうになった途端、足元が揺らぐ。



 ───あ、この感じは、【移動の札】を使った時の……。


 って、いやぁぁぁぁぁぁっ。







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