君は、僕の
雪代
君は、僕の
ドアを開ける、音はない
「ただいま」
部屋に入り、君の隣に座る
「おそくなってごめんね、委員会が長引いちゃってさ」
いつものようにそこにいる君
「そうだ、ここに来る途中、夕日が凄く綺麗だったんだ」
カーテンを開ける
「ほら、見て」
君の姿が橙色に染まる
「今朝は思いっきり寝坊しちゃってさ、生徒指導の教員にこっ酷く叱られたよw」
その日にあったことを君に話す
何も言わず、静かに僕の話を聞く君
「それでさ、」
唐突にポケットから伝わってくる振動
「もう、そんな時間か……」
時間を告げるアラーム
「今日はここまで、だね」
カーテンを閉める
鮮やかだった夕焼けは、黒で塗りつぶされていた
「また明日」
聴こえるのは鼓動ばかり
――――――
ドアを開ける、音はない
「ただいま」
部屋に入り、君の隣に座る
「今日は真夏日なんだって、外は暑くてたまらないよ」
いつものようにそこにいる君
「今日はこんなもの持ってきたんだ」
その手には向日葵の花束
「いつも通る花屋さんにあったんだ」
花瓶に花を生ける
「今日にぴったりでしょ」
カーテンを少し開ける
真っ青な空、白い入道雲
「夏が来たね」
微かに聴こえる蝉の声
「昨日の話の続きをしようか」
静かに話を聞く君
「それで今日は、」
なんでもない、僕の日常の話
「今日はこんなところかな、いい日だったよ」
君の髪を撫で頬に触れる
「明日もいい日になるといいな」
指先から僅かに伝わる体温
「そろそろ行くね」
カーテンを閉める
「また明日」
部屋に響くのは、微かな呼吸音
――――――
ドアを開ける、音はない
「ただいま」
いつものようにそこにいる君
「今日はあまり天気が良くないよ」
カーテンを開ける
薄暗い外、曇り空
「今日ね、僕がここに来てること知られちゃったんだ」
淡々と話し出す
「それで、君のこと話したら、笑われちゃった」
君のことを見ていられない
「僕が、おかしいのかな」
何も言わない君
「ごめん、君に話すことじゃないね」
君は肯定も否定もしない
「今日はもう、帰るね」
逃げるようにその場から立ち去る
焼き付いて離れない、無機質な電子音
――――――
ドアを開ける、音はない
「―――」
中に入る
静まり返った部屋
冷たい空気
それで、悟った
君に駆け寄る僕
青白い肌
眠ったままの君
そっと頬に触れる
冷たい
「君がいなくなったら、僕は」
君の手を握った
「まだ、何も伝えられてないのに」
奪われていく体温
当然だと言わんばかりに伝わる冷たさ
「ごめん」
もう何も届かない
「僕は、君を愛していたのに」
崩れ落ちる身体
「僕は、君に何も出来なかった」
溢れる涙
「すぐ、そっちに行くから」
狂い出す思考
「待ってて、ね」
窓を開け放つ
身体が宙に浮く
――――――
意識を手放す寸前に僕が得たものは、赤い光とサイレンの記憶だけ
今ではそれさえも忘れてしまった
唯一僕が覚えていること、それは
君は、僕の生きる理由だった
君は、僕の 雪代 @y_snow
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