プロローグ

0-0 Prologue

空気が冷える1時、先の見えぬ暗闇の倉庫の扉にて。

銃を構える50人近くの軍人達はキキョウと呼ばれる都市の第473倉庫の扉前に到着すると同時に一斉に列を整える。

前方には私達の少尉である山田少尉が立ち構えている。

「いいかおめぇら?こっから先、音1つでも発すんな。"奴ら"は音に敏感だからな。」

彼は緊迫した表情で語る。

隊員達も同じだ。こんな空気が張り詰めた状況で、リラックスできる人間がいるのか。探せばいるのだろうが、いや、すぐに死ぬだろう。

私達は声の合図の代わりに銃に取り付けたライトで返事をする。

隊員の合図を見た少尉は倉庫内への道を閉ざしていた重たい鉄の扉をゆっくりと開ける。

ギィィィと重い音が鳴るが、経験則の勘が告げている。ここにはいない、奥の方にいると。奴らは音を聞いた瞬間、出所を疑うことなく執着心の赴くままに襲い掛かる。音が聞こえてなかったのか、はたまた最悪の道を行くのか。どちらにせよ、私たちは中に進むしかない。奥へと詰めていくしかない。hj

案の定、倉庫の中は暗い。銃に取り付けたライトを使ってもなお、10インチ先すら見えない。一応、気休め程度に暗視ゴーグルを着けてはいるのだがそれでも満足に見えることはない。

作為的に作られた闇に近い。先の見えない戦いほど、これほどに不安になるものか。

隊員達は銃を構えながら一歩一歩音が出ないよう忍び足で歩きながら辺りを見渡していく。ふと一滴の汗が額を伝う。倉庫は冷えているというのに、この感触はなんなんだろうか。身体が全くと言っていいほど震え上がらない。代わりに内臓が震え上がっている。

(何処にいる?)(さっさと出てこい。)

(これが初任務。皆さんに迷惑かけないよう頑張らないと。)

倉庫の探索を始めて6分か7分は経ったと思う。

全員が警戒しながら倉庫の中央まで歩く中、一人の隊員が床に落ちている何かを拾いあげる。

(これは?)

隊員が静かに拾った物体は、片手に収まるくらいの四角くて黒い、複数の紫の点が黒い物体の中を高速で飛び回っている金属の塊だった。どこか角が欠けてるか窪みがあるのか、少々持ちずらい感覚ではある。

(っこれはすぐ隊長に報告しなければならないな・・・)

ジェスチャーを送るとすぐさまどうしたと少尉がゆっくり近づいてくる。

「これを」と私は黒い物体を渡すと同時に、顔を歪めて「っ撤退」と命令を下した。隊員はすぐさま入るために使用した扉へと戻る動きを行う。

さて。メールを送れば文字化けを起こすし、そもそも送れているかも分からない状況だ。この行動が功を奏すか。


亐ﲓ涊䚔亐ﲓ涊䚔亐ﲓ涊䚔


突如として体が震えるほどに大きな音が鳴り響いた。

耳を劈くような甲高い音、内臓を震わす重低音が鳴り響く。金属を擦る音が非常にうるさい。吐き気がしてくる。

その音に交じるように・・・隊員の叫び声が微かに聞こえてくる。

「こっちにいんぞ!」「くら、暗い、なにもmいEな・・・い」「だ、大丈夫です、かっ!?」

「・・・連結用照明弾!」

少尉の叫びにより空間から照明弾の弾が発射される。弾が爆発すると同時にゴーグルの効果が切断される。

明るくなった倉庫内でまず最初に私の目に移りこんだのは地獄だった。

ある者は奴に銃を撃ち、またある者は奴に殺される。

「急しょ、を狙、てないだ、と・・・」

腕を狙い、足を狙い。精密な攻撃になってくると指だけを切り落としてくる。

そして離れた肉はやがて黒く染まり、ゆっくりと奴の姿となり襲い掛かってきた。やられたものは徐々に黒い塊と化していく。・・・早くここから離脱しなければ敵が増える一方だ。

「死ね!バケモンが!」

一人が勇敢に弾を撃つがそれも虚しく敵に躱される。スライムのように体に穴を開けて弾を避けていく。そのまま体が伸び、銃を撃っていた隊員の身体をむさぼり始める。

「こちらラドン・ショルダー11分隊山田少尉!罠だ!罠が!おい!聞こえるか!」

「本部に繋がんですかよ!?」

「知らねーぃ!はよ繋がれってんだ!」

『山田少尉、聞KOえてる!状きlyoうを!』

本部に繋がった。ところどころ通信がおかしくなるが、ともかくありがたい。

「罠だ!地雷にサウンドボムを使ってきた!それと親玉の脱げ殻の欠片!」

少し音が収まってきたが、それでも頭が痛くなるくらいにうるさい。

『nあni!?罠wo使-ない個体・・・いyてtAいだ!別こ体、新種だ!』

「イエltu\uE382B5\uE383BC」

『+MGkwRjBXMF//ATBPMF3/AZAaT+FZqFuzMEv/AQ-』

本部との通信が聞こえなくなってきた。ここらが限界か。

「っぃ逃げろ!」

増え続ける。さらに増え続ける。

沢山いた隊員も今では両手で数えられる程になり、既に隊列は崩れている。

「これは、無理かな・・・?」

今日は何人生き残れるのか。迫る暗闇を見ながら、私の意識は落ちていった。




「報告、生存者3名」




軍基地の廊下にて。

缶コーヒーを飲む二人の若い男性が、通行人のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに隣り合って話し合っている。

「なぁ、聞いたか?ラドン・ショルダー11分隊の少尉の事を」

昨日、今日の深夜の事。あの作戦は失敗に終わったそうだ。

結果はほぼほぼ壊滅。相手の方は大して損害を与えられずといった報告がなされた。

「ああ。聞いたさ。しかしまぁ、あいつってダルクス大佐も注目していたくらいに強いと言われていたよな。奴ら、あの少尉を超える強さって事か。正直、相手にしたくない。やっ、やり合えって言われたらさすがに上官命令だろうと断りそう」

「1匹だけなら大して強くはないからな。1匹だけのところを何とか叩ければね」

「ははは。そうだよな。奴らは絶対と言ってもいいほど集団行動をするしな。積もればガチの山となりやがる。生き延びた隊員からの報告でな、トラップが仕掛けられてたってよ」

トラップという単語を聞いた彼はコーヒーを一口飲む。無糖のブラックの味が妙に舌にこびりつく感覚がする。

「・・・んー、、してんのか?」

一人にしか聞こえない微かな声は腕時計を見て慌てている隣によってかき消される。

「おっと、もうこんな時間か」

「ああ、そうか。任務があるんだったな」

彼が共に行動をする軍曹は、遅刻に厳しいとの噂がある。もし、遅刻をしようものならば約100ヘクタールあるこの基地の周りを10周させられるという話だ。

恐ろしいモンだな。

「んじゃ。また後でな」

俺は「ああ」と言うと、彼はそのまま向こうの曲がり廊下まで走ってた。


1人廊下に取り残された男性は、どこからともなく汗が一滴流れ落ちる、そんな感覚をたった今認知した。なにかは分からないが、なにか、なにかが手遅れになる、渦巻くように嫌な予感がする。・・・いや、嫌な感覚は外へ投げよう。泥のように詰まった思考を一回綺麗にしよう。

思考がようやく纏まってきたところで、ふと1つの疑問が浮かんできた。

(待てよ。ラドン・ショルダー11分隊の山田少尉って。あいつの親父か。そういや、あいつの友達?が俺の隊に入るんだったな。もしかして、あいつも入るのか?)

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