ひどく遅い一瞬
揺れる視界、霞む景色。鳴り止まない弾幕の雨の音。
それを俺は遠く離れた朽ちたビルの何階かわからなくなった位置からスコープを通して激戦地見つめる。乾いた地面が弾けて起こった土煙でこちらも一個体をT字のレティクルには捕らえられないが向こうはこちらの存在すら知らないだろう。
ここで大口径狙撃銃【ヴァルドル】を窓枠から構えて80秒ほど経った。僕の日常生活のなかではなかなかに長い時間だ。そうしてこちらか敵の数が減るのを待つ。そのうち、宙に巻き上げられた煙が地面へと帰っていき視界が開けた。俺の時間が来た。
姿を現したのは赤色の三機の機械兵士。機関銃を手にした重装甲兵一人と片方は大剣、もう片方は突撃銃を携えている強襲兵。その少し後ろから遅れてきた衛生兵が彼らの傷を直していく。一機増えて四機全てが俺の敵だった。
まず突撃銃を持った強襲兵にレティクルを合わせた。線の交差点の奥ににモノアイが見えた時、俺は息を止めて引き金を引いた。
バシュッ、と静かなようでそうでもない音ともに銃身が上に跳ねる。遠くの赤い点がひとつ傾いたのが肉眼でもわかった。撃たれた突撃銃の機兵が地面に倒れる前に大剣の強襲兵が高速で蛇行しながらこちらへ駆け出し、重装甲兵がその後を追う。
こちらは撃った直後にリロードの2秒間で握りしめた掌サイズの円筒上部のボタンを押した。階下に仕掛けた箱型のセントリーガン【トロン】が解錠し真ん中からがぱりと開いた。折りたたまれていた三脚の脚を広げ敵を迎える準備を完了させる。そして、俺は後方の出入り口から突き当たりの階段を駆け上がる。
下からぱららという音がした。敵は見えないが【トロン】はもう仕事を始めたようだ。残りリロード完了まで零コンマ。その刹那すら長く感じた。
最上階の扉をぶち抜いて屋上へ出ると眩ゆいほどに照りつける太陽と青空が視界いっぱいに飛び込んできた。眼下には乾いた荒野とここと同じような廃墟がいくつか転がっていてその間から爆発音や発砲音とともに白い煙が上がっている。その視界のずっと遠くにひときわ大きく、荒れ果てた世界とは裏腹にギラギラとした金属でできた赤色のタワーは俺達が落とそうとしている敵拠点。
そんな見飽きた風景を気にも止めずに俺は朽ちた鉄柵から体を乗り出した。ほぼ垂直に構えた先には先行した襲撃兵が無視しただろう【トロン】をちょうど破壊したところの重装甲兵だった。スコープを覗かなくともその大きな体に弾を当てるのは簡単だ。しかし、バシュッと子気味のいい音ともに弾丸は巨体の胸元を確実に捕らえたものの硬い装甲に阻まれまだ致命傷には至らなかった。
機体から発射地点をギュルリと機関銃の3つの銃口が回り始める。その場を後方へ跳躍するとと豪雨のような弾幕がたった今いたコンクリートを削り取っていった。
とりあえず一発入った。衛生兵が突撃銃の機体を直してくるとしてもその二機は数秒は遅れるだろう。肉壁を想定した重装甲一撃で倒せないがもう一発入れれば沈むだろう。次の行動は後援を置き去りにしたあの襲撃兵を仕留めること。そしてあの速さならもうすぐそこまできているはず。あの大剣を振り回しながら近づかれたなら俺の薄い装甲では勝ち目がない。
そう思うや否や先ほど登ってきた階段入り口へ向けて手榴弾三つを投げ込んだ。その奥に大剣の強襲兵がちらりと見えた。暗い室内から一気に駆け上がって彼が見たのはおそらく、視界いっぱいに映った太陽という名の天然の目眩し。3つの小さな点はかき消され俺に突っ込んできた時にはもう遅かった。
壁と地面、そして敵兵に当たった手榴弾は爆発。一気に膨れ上がった赤い炎が轟音と共に相手を吹き飛ばし、周囲の現在までも巻き込んで階段の出入り口を完璧に潰した。強烈な風圧を耐えて、相手の消滅を確認すると次はまたビルの下へ【ヴァルドル】を向ける。
そこにはこちらに向かう衛生兵と完全に回復された二機をしっかりと捉えることができた。重装甲兵はすでにビルの中なのかどこにも見えない。俺ならビルの入り口で待機して衛生兵を待つ。きっと奴もそうだろう。
だから俺はスコープの奥のレティクルをしっかりと衛生兵に合わせ--、
ズガガガガガガガガガカン!!!
ここで完璧に読み違えたことに気付く。
屋上の床に小刻みの振動と次々に穴が空いて、それがヒビの線を歪に繋いでできた大小様々な図形が崩れ落ちていき大きな穴が空いた。その奥へ飲み込まれまいと高く跳躍した瞬間、二つ程下の階から覗く大きなゴツゴツとした赤い機体と向けられた機関銃の先端が回り始めるのがすごくしっかりと、ゆっくりと見えた。この世界の一瞬は本当にゆっくりだ。
1秒もしないうちに容赦のない無数の弾丸が相手からしたら紙のような俺の機体を打ち砕き、視界はじゃみじゃみとしたノイズが走った。
俺は負けたのだ。
この世界の攻略法を僕らは知っている 鬼嫁キドリ @yau5531
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