浅川大学新話

@knight_of_e150

第1話


3限目終わり、ケツの痛みをこらえ硬い座席から立ち上がろうとした時のことだった。

壇上の清水先生と目が合った。

加えて言えば手招きまでしている。

こんなこと言うと俺が嫌な奴と思われるかもしれないが、決して美人ではなく、決して背が高くない上に意地が悪く、年齢相応の落ち着きがないしゃべり方をする清水先生には入学当初から良い印象が欠片もない。

正直この統計学の授業も必須科目でなければ遠慮したいくらいだ。

ひとまず生返事をしながらコロッセオ状の階段になっている教室を降りていく。

「スッときなさいよスッと…もう」

既に少し気を悪くしたように舌打ちも交えながら清水先生は手を下ろし、

クリアファイルから一枚のプリントを取り出した。

”連絡票”と書かれているそのコピー紙は特に教職員間でやり取りされる際のいわばメモ帳替わりのもので、そこには”編集校正実習の遅延につき大木純也に出頭通達願います。文芸飯田”と文芸科の飯田準教授から出頭要請があった。

「・あ・ぇ・・」思わず口から何か漏れそうになる。

もう五月になるし、4回はさぼった講義に今更何があるのかという疑問が擬音として出てしまった。

「お前まさか全然講義出てないんじゃないだろうな?」

本当に人の神経を逆なでする嫌な声だ。

そもそもお前にお前呼ばわりされるのがむかつくんだよ。

「だから、去年授業で言われてたの聞いてないの?

 あのさ、何しに来てんの学校に

 お前また迷惑かけてんじゃないの?

 これさ、学年またいでやってるからリタイヤできないの。

 お前が留年するのは勝手だけど周りが迷惑だろ~」

頭に血が上り、声に出そうになるのを押さえこんで

「・・・で、飯田先生のところに行けばいいんですよね?

 早く要件言ってもらえます?」

と、一言で打ち切ってなぜか驚愕の表情を浮かべる清水先生を無視して教室を出た。

そういえばと、先週もだれかが清水と話した後に教室で思いっきり机蹴って騒ぎになっていた気がする。

渡り廊下を文学部に向かって歩く途中、清水ってやつは何が悪いのかなと冷静に考えてみたりもした。

文学部棟につく頃には”どうしようもなく存在がむかつく”という結論が生まれていた。


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