第17話
俺は今、クエストカウンターの左端、入会カウンターの前に設置された椅子に並んで腰かけていた。誰と?もちろんアルシアと。あれ?彼女は本来カウンターの向こう側にいるはずでは?なんて疑問は俺ではなく、入会係のおねえさんがすでに聞いてくれました。
「あのー……マスター?なぜそちら側に座られているのですか?」
気まずそうにしている同い年か少し下のギルド職員が隣に座る若き金髪ギルドマスター様に向けて、素朴な疑問を投げかけた。
「なぜって……入会窓口の前に座る目的なんて2つしかありませんよ」
「?一つじゃないんだな……」
「え……えぇ、まぁ、それでマスター?こちらの男性はまだしも、マスターはなんの御用が?」
「冒険者ギルド入会規則、第1章 第4項」
「え?あ、はい!!冒険者ギルドに新規加入者は必ず、例外なく二人以上のパーティーを組まなければならない。あ……」
カウンターにいた職員だけでなく、奥で書類整理をしていた職員までもが、まさかという顔でこちらの様子をうかがっていた。
「と、いうことで、新規二名の冒険者登録手続とパーティー結成クエストの受理をお願い。フィリア」
「え、えええええええええええええええええええええーーーーーあ、あのあの……ちょっと上の人と相談を」
受付の娘が上の人と口にした瞬間、笑顔で
「呼んだかしら?」
そう答えたのは言うまでもなく、アルシアだった。そうですよね、あなたギルドマスターですもんね。確かに上の人だわ。納得する反面、これ職権乱用もいいところなんだよね……マスターとしての自覚とか規律を言われたらぐうの音も出ないだろうに……
「あ……その……副マスターとちょっと協議を……」
「その必要、あるのかしら?なぜって?ここにマスターたる私が居ますから」
なんだろうこの受付の娘がすごく可哀そうに思えてきた。雰囲気がちょっと出来の悪い生徒の三者面談みたいな感じか……それも教師と親対生徒の。
なるほど、これが職場におけるパワハラというものか……俺社畜になる前に死んだことを初めて幸せに思ったよ。
「うぁうー……シアちゃん勘弁してよー……」
素が出て、もはや半泣きの受付娘に向けてアルシアは変わらない笑顔で微笑みかけ
「うん、それじゃぁ、やることはわかるよね?」
うわ……ドSだ……流石の俺でもドン引きだよ……
「あ、あの……私では判断しかねる……ので、おにぃ……副マスターを……呼んでまいり……ますので……少々お待ちください……」
そういって、泣きながら裏に下がって行った。
「あのーアルシアさん?今、完全にクレーマー対応だったと思うのですが、その辺、どうお考えですか?」
「そうね……私も流石に職員にクレーマー扱いされるとは思ってなかったかな……」
そう苦笑い気味に返ってきた。
そうこうしている内に、裏から「おにぃちゃぁぁぁん」という声が微かに聞こえたかと思ったら、直後、どっどっどっどという地鳴りのような音と何かが急速に近づいてくる気配を感じ、そちらに視線を向けた直後、今にも人を下ろい殺しそうな顔をした同い年くらいの青年が人を呪い殺せそうな顔をして、真っ直ぐこちらに飛び掛かってきていた。
「俺の妹を泣かせたのはテメェーかーーーーー!!!!!!」
「なんか、ものすごいシスコン来た!?!?」
そう叫んだ瞬間、男はカウンターを軽々飛び越え、ヅグに借りてきていたローブの襟ではなく、俺の首に手をかけて椅子ごと地面に引き倒した。地面に跳ね返った椅子の背もたれが背骨とあばらを強打し、瞬間的に食いしばった歯の隙間を空気が抜けた。正直容赦なく首を掴んできたあたりこの男からは殺意しか感じられない。さらにこのシスコン様は首を握ったまま俺の首を前後に振り始め、意識がスーッと遠ざかりかけた。
「はい、ストップ」
静止の声が入り、一瞬、手が緩んだことで、わずかに軌道が確保され、意識を引き戻された。
「_____ッ!?はっ……」
確実に言えることは数秒意識が飛んでいた。
「あなたの妹を泣かせたのは彼じゃなくて、私よ?」
「アルシア・エル・フォルスーきーさーまーかー……」
男の手が俺の首から離されると同時に呼吸が正常化を始めた。標的が完全に変わったのか男は鋭い目つきでアルシアを睨め付け、同じように飛び掛からろうとしたその時、アルシアは腕を前に突き出し、その動きを再び静止させた。
「ギルドマスター命令よユア。」
その動きでユアと呼ばれた男が動きを止め、アルシアの言葉を待った。
「許しなさい」
その言葉を聞いた瞬間ユアがびくりと肩を震わせた。直後、全身をワナ付かせ留こと数十秒。漸く返答した。
「!!!?!?_____ッぐぅぅぅぅぅ。承知しました。ギルドマスター」
完全なパワハラの現場がここにありました。
デットエンドのその先は苦痛の楽園(エデン) 牡鹿 @25ojika11
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