第16話

 冒険者ギルドに入ってからというもの俺は慌ただしく視線を動かしていた。少しでも情報が欲しかったのはもちろんだが、そこにあるものは、興味をひくものが多かった。


 前を歩くアルシアが時折こちらを振り返っては、微笑ましいなと言わんばかりに見ているような視線を感じる。その顔若干腹立つので、やめていただけませんかね?


 中の装飾はシンプルだがどこか雑然としている。それというのも体育館くらいの広さのフロアの至る所にモンスターの剥製や展示用の水槽などが鎮座しているからだろう。前世で見たことのあるような兎、熊、猪などといった動物から動物の特徴がまじりあった奇怪な生物、入ってすぐ横にいたのは腕が六本、足が四本のゴリラ?の特徴に辛うじて近い生物……あれかなケンタウロスの亜種かな?上半身が多腕ゴリラで、下半身がサイみたいな……そうとしか説明できない生物。水槽には、光の球や小さな蝶の羽をはやした小人。これは流石に俺でも知っている。おとぎ話に出てくる妖精というものだろう。視線を下に落とすとなにやら説明書きのようなものが書かれているようだが、やはりというべきか一切読めない。


 この冒険者ギルドの雰囲気は外観の様子も相まってどこか博物館に似ている。展示を見るための入り組んだ通路とまっすぐと奥に繋がるメインストリート。二種類で形成されたフロア内の道の終着点には円形に張り出したカウンターがある。あれが所謂クエストカウンターなのか、慌ただしく職員が動き回る後ろには大量の書類やらスクロールが積み上げられている。表に出ているところには女性が多く、奥で男性が書類の選別をしているようだ。こういうシステムはどこかホテルのフロントに近い気がするが、見ていて滑稽だった。


 縦長のフロアの中間点でメインストリートが十字路になっていた。壁に向かっていく道の先には両方とも扉があり、開放されていた。現在はこちらの方がクエストカウンターへ向かう道よりも往来がある。


「なぁ、アルシアあそこの扉の先には何がある?」


 疑問に思いとりあえず聞いてみることにした俺は、前を歩いていたアルシアを呼び止めた。


「ん?あーぁ、あそこは階段だよ。下り階段と上り階段が一つづつあります。上った先には会議室、職員用個室などがあります。ここは基本住み込みで働いているので。あとは応接室なども上のフロアですが、基本的にカウンター奥から入ることになってます。下のフロアは、半分は酒場になってます。あとの半分は、物置と第一研究室、あとはギルド間通路になってます」


「じゃ、さっきヅグが言ってたのは、そこからいけばいいってこと?」


「そうですよ」


 なんだろう……よそよそしさを感じる……


「あ、あのさ……もっと砕けた感じで話したいなー……なんて思うんだけど……」


「今はこれでも職務中ですので、その要望にはお答えしかねます」


 あー……多少は仲良くなれそうだったのに……同級生の女子の対応よりも若干心に来るな……あれは完全な迫害だったけど……


 職務中だから硬めに話してる公私混同しない感じの人なのか、あなたとは関わりたくない、仲良くしたくないという遠回しな拒絶なのか


 このどっちともとれるもどかしい返しは……前者2割、後者8割ってところかな……女性から見た男なんて、不細工+怪しい=黒、逮捕。平均顔+怪しい=グレー、要警戒、イケメン+怪しい=ミステリアスなんて公式がありそうなもんだからな……やはり世界は顔なのか……


「何ぶつぶつ言ってるんですか?怪しさに拍車がかかりますよ?」


「……まさか声に出してた?」


「……別に、君が嫌いなわけじゃないから、それにパーティーの件、冗談で言ったつもりないので」


 アルシアの思わぬ呟きに一瞬、思考が停止していた。


「え……覚えて____」


 覚えていたのか、そう言おうとしたのをアルシアは、


「ほら、行きますよ。やらないといけない事たくさんあるんですから」


 まくしたてる様に遮ると、俺の背後に回ると背中をグイグイと押してクエストカウンターへと歩き始めた。

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