二日目:マルとお散歩。

『ワン!ワンワン!!』


「あーはいはいどうした・・・って、あぁ・・・」


マルのもとに向かって2秒で察した。なるほどね。



「なんだお前、トイレ我慢出来なかったのか」


クゥーンとうなだれた声でしゅんとする。まあたまにはそんなこともあるわな。


しゃーない。散歩の前にこいつを処理するとしますか。



「おーし、ちょっと待ってろよー。あちち・・・」


慎重に、慎重にマルの便をコンクリートで出来た塀に入れていく。


マルの出す便は摂氏1200℃。マグマにも匹敵するレベルだ。


我が家の庭の地面はコンクリートだからまだギリギリ溶けない。


無論、処理する時に「ウワァーテガスベットゥァー」なんてなろうもんなら家はおろか自分の身が危険なので丁寧に処理する必要がある。


生まれたてのころは600℃くらいだったっけな。あの頃は木造の家で飼ってて、一歩間違えると家自体が完全に死滅するところだった。内心ヒヤヒヤしながらいたっけな。


いやー懐かしいことを思い出してしまったもんだ。


ちなみに普段は散歩中に処理をするんだが、草むらなんかでやろうもんなら大惨事なので万が一に備えて消火設備をバッチリ持って散歩に向かっている。


え?処理の仕方?読者のみんなも犬を一度飼ってみたら分かると思うぞ。



「よし、処理終わりだ。ほら行くぞ」


『ワン!!』


ボクは縄を繋いでマルと散歩に出かけた。











「マル、散歩が嬉しいのは分かるけどあんまり引っ付いたり走り回ったりするのはやめろよ。」


『ワン!』


ホントに分かってるのかねえコイツ。いや分かってねえわ。だって基本ハッハハッハしか言ってねえもん。


犬にあんまり突っかかっても仕方ないけどよ。


さて、ちゃっちゃと散歩終わらせますか―――



『ハッハッハッハッハッ・・・・ハハッ!!!?』


「ここは千葉じゃないしお前はネズミじゃないだろ。なんだ、どうした」


『ワン!』



マルの向いてる方向にこちらも顔を向けると、そこには何故か食べかけのおにぎりが落ちてあった。丁度今通っている歩道の逆の歩道にある。犬の嗅覚ってスゲエな。コイツは特別食べ物に対しては鬼のように反応するんだけど。


しかしなんであんなところに落ちてるんだ?誰か食べてたやつを落としてしまったからそのまま捨てたのかな。


『・・・ジー』


「分かった分かった。匂いが気になるんだろ。行ってやるから。走るなよ」


『ワオーン!!!』ダッ


しかし聞いちゃいなかった。


「あっ、おい!走るなって!!」



ダッダッダッダッ…ガリッ!ガリッ!ガリッ!



マルが落ちてるおにぎりに全力疾走すると同時に爪で引っかいた衝撃で歩道がえぐれ、爪跡が残りまくる。即席車線の完成。


『ハッハッハッ』クンクン


「はぁ・・・走るなって言ったのに」


幸い車は来てないから良かった。もし車が来てみろ。マルにぶつかって車がスクラップになっちまう。いやーホント車来てなくてよかった。


まあ過ぎたことを言っても仕方ない。ボクは車が来てないことを確認して逆側の歩道に早歩きする。


『ガツガツ』


「って食うのかよ。落ちてるもんにあんまりがっつくな。腹壊すぞ」


『ワン!』


食えりゃなんでもいいのかよ。


『せやで』


なんか喋ったような気がするけどきっと気のせいだ。うん。犬は喋らん。

あとなんか心読まれたきがするけどきっと気のせいだ。うん。


なんで言い切れるかって?だってよ。



『ハッハッハッハッ』ヨダレダラー


こんなアホ面でよだれ垂らしてるんだぜ?無い無い。万が一にも無い。





ところでこいつの食ったおにぎりの具はなんなんだ。おっ、袋ある。ピラッ



【新商品:ドッグフード味】



「・・・」


そりゃ捨てるわ。そして犬はがっつくわ。てゆーか買うなよ。











ふいー、ようやく折り返しかな。いつも散歩で30分くらいかかるんだよな。まあ運動になるから全然いいんだけど。コイツと散歩するのもそんなに嫌いじゃねえし。


『ハッハッハッハッ』ヨダレダラー


当のマルも安定のアホ面。ご満悦のようだ。あといつまでヨダレ垂らしてるんだ。汚ねえよ。


『ハッハッハッハッ』ボトッ、ボトッ…ジュワァァァァァ


ヨダレが地面に落ちてその周辺が腐食している。まったく、誰かにこのヨダレ垂らしたアホ面見られたらどうするんだ。ご近所さんとの付き合いは大事にしたいんだよ。


・・・おっと、踏みそうになった。危ない。さてさて、んじゃあ帰りますか。



ヨダレダラダラのマルを縄で引っ張りながら踵を返した瞬間。




「お前ふざけんじゃねえぞゴルァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃすみませえええええええええええええん!!!!!!!!!」


「・・・」


なんかボクの背中でとてつもない修羅場が起きている。その距離、推定で10m。

しかし今のボクには関係ない。触らぬ神に祟りなし。別に死にやしない。という訳でボクはこの辺で退散。



「死にたいのかあああああああああああああん????????」


「ぎええええええ!!!!!それ大木とかよく切るアレじゃないですかっ!!どうかっ、命だけはっ!命だけはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



・・・・・・・・一応事情だけでも聞いてやるか。人命が関わっちゃ流石にマズい。この小説にグロ規制がかかっちまう。




「あーえーっと、何かあったんすか?」


とりあえずやんわりと話してみる。変に威嚇させないように。


「ああああっ、近所の少年か!いやあ、それが実は今大変で」


「オッサンベラベラ喋んじゃねえよマジでKILLぞおおおおおおん!?」キュィィィィン


「ひえええええええ!!!!だからその大木とかよく切るアレはしまってくださいよおおおおおおお!!!!!!!」



・・・一応読者の皆様に今の状況を説明しよう。


今ヤクザみたいな人に絡まれてるオッサン(47)はボクの近所に住む知り合いだ。ちなみに無職。

名前は「肥土射目 遭照(ひどいめあってる)」。ちなみに無職。名前から分かる通り、いつも何故か理不尽なくらいに酷い目に遭っている。ちなみに無職。基本この人が何かやらかしてるんだけど。


過去の実績としては遊園地でバンジージャンプのスタッフアルバイトをしてた時、邪魔そうだからロープを切ってあげよう!!って言ってお客さんがバンジー中なのにちょん切ったという伝説を残した。



で、その肥土射目さんが見るからにヤクザみたいな人に大木とかよく切るアレを向けられている。


え?それチェーンソーじゃねって?君のような勘のいいガキは嫌いだよ。


「まあまあ、落ち着いて。何があったか話してみてくださいよ」


とりあえず話聞かせろや。どうせあのオッサンがまたなんかやったんだろうが。



「おう兄ちゃん、聞いてくれや!」


思ったより話の分かるヤクザだった。



「このオッサン、オレにこんなクソまずいもん食わせようとしたんだ!」


「えっ、だって君がいるって言ってたからあげただけなのに」


「だからってこんなもん食わせんなよ鼻にブチ込むぞゴルァァァァァァァ!!!!」


「え、ちょっとやめてくれってほんがああああああああああああ!!!!!」ナマグサッ



もうぶちこんでるし。話が全く進まない。肥土射目さんの鼻にめっちゃおにぎりがぶち込まれてる。

・・・おにぎり?ラベルピラー



【新商品:ドッグフード味】


さっきのやつかよ!捨てたの肥土射目さんだな多分!!


よく見たら手に袋があり、大量のおにぎりが入っている。恐らく全部同じドッグフード味だろう。


『ハッハッハッハッ…』ジュルリ


・・・めっちゃマルがおにぎりに熱い視線が向けている。完全に獣の目である。


おかしいな。野生に還ったのかな。


『ワン!ワンワン!』ジュルルルルルル


いかん、目の前の大量のエサに今にもチェーンソーに目もくれずルパンダイブしそうな勢いだ。大丈夫かな。なんかものすごく嫌な予感がするんだけど。



「ああん?なんだぁこのワンコロ。この古和井 役座(こわいやくざ)サマに向かって吠えるたぁいい度胸してんじゃねえかおおおおおおん?」キュイイイイイイン


名前からも完全にヤクザだった。親のネーミングセンスすげーな。



「いやだからボクらはちょーーーっと落ち着いて欲しいだけであって」


「うっせえ!テメエもKILLAれたいのか!おおおおおおおん????」


ごめん、さっき話が分かりそうって言ったの撤回するわ。

というかこの状況普通にマズくないか?おにぎりしか目にいってないマル。そしてチェーンソーをめっちゃ振り回しそうなヤクザ。なおマルはヨダレダラダラ。地面は酸化なう。



「ちょ、ストップストップ!危ないですって!」


「やかましゃあ!!まずはテメエらからぶん殴る!!!!」


チェーンソーどこいったんだ。流石にマジで人殺しはしないタイプのヤクザだった。とりあえず一安心。・・・出来ないけど。



『ワン!!!』ルパンダーイブ


えぇ。うそーん。マルはこの殴られそうなタイミングで飛び込みやがった。

・・・・・・おにぎりに。


そして不運にも殴ろうとしているヤクザの目の前に来てしまった。


頼む、どうかマルにだけはその拳、当たらないでくれ。誰も傷つくことなんて望んでないんだ。



「どるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ドスッ!


殴られたのは・・・・



『キャイン!!!!!』



マルだった。あっ・・・・終わった。




ヒュンッ、キュオオオオオオオオオオオオオオドカーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!














「ほ・・・ほげぇ・・・・」


ボクの目の前でヤクザらしき黒焦げになった何かがいる。


えーーーっと・・・・




まずマルが殴られたことによりマルがキャインと叫んだ。


叫んだことにより強力な空気砲のようなものが口から放たれた。


それをモロに食らったヤクザが吹っ飛ばされ、人間ロケットの完成。


その速度、推定にしてマッハ2。ソニックブームが発生。


近所の家に衝突し、その瞬間摩擦熱で爆発。


だから言ったんだよ。誰も傷つくところなんて見たくないって。


そして一方。



『ハッハッハッハッ』ハグハグ


「わ、私の家が・・・」ガクッ


おにぎりを貪るアホ犬(ピンピンしてる)とうなだれてる肥土射目さん。


あの家、肥土射目さんの家だったのか。


なんて声かければいいんだろう。家壊してごめんなさい?大変な目に遭いましたね?



「・・・・・・・」


ま、いいか。肥土射目さんだし。いつもこんなこと日常茶飯事だし。



「ほら、行くぞマル。おにぎりは持って帰ってやるから」


『ワン!!』ハッハッハッハッ




そして今日もいつも通り特に問題も起こらず散歩は終わりを迎えたのであった。




え?ヤクザの安否?ギャグ系のお話だから次の話に入った時には復活してんじゃねえの?


そんじゃ、またな。

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犬のマル。 はやて @hayate00138

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