第10話 武器屋にて

「んん、ごまかせただろうか? って、双角お前はいつまで食ってんだよ」

「あやつ、信じてはおらぬだろうな。なに、うるさくなる前に街を変えれば良い。魔物退治の旅をする間に我らの出会いとお主の実力への不審さを感じる者たちはいなくなるはずだ。力は七難を隠す」

「じゃあ、早速そのスーパーパワーで今回の依頼も解決しないとな。聞いていただろ? 相手は怪異だぞ」

 双角の前に使者が置いていった公開依頼書を置いてやった。

「フンッ、本来の我の力なら雑作ないがこの世界では少し厄介だな。無用に力を上げねば有効打を与えられぬだろう」

「なにも使わずに怪異にダメージを与えられるのか? じゃあ、のりうつられている俺も?」

「微弱だがな。今のれべるでは倒せぬ。三十にはいかぬとな」

「うーん、じゃあ仕方ないな……」

 怪異討伐では公開依頼であるし、大公の特別支援も報酬としてあることから多くの冒険者が参加すると思われる。あまり双角の力は見られたくはない。

 なので俺らは街の武具屋へおもむいた。怪異にもダメージを与えられる特別な力がほどこされた“呪具化”した武器をもとめるためだ。

 武具屋の名は“万の手”という名だ。街一番の武具店で、俺も入るのはじめてであった。なじみの店はただ槍の手入れだけしてくれる店で呪具化したものなどまずないからだ。俺もこの店に入る日が来たんだなと少し感動しながら玄関扉を開けると店内には人がちらほら。飯時のせいか、まばらだった。

「……!」

「気づいたか?」

「ああ」

「ぼくも、わかるよ」

 俺ら一行はみな一斉に気が付いた。ある冒険者のグループにだ。

 くせの強い髪質の浅黒い戦士、きゅっとしまったしなやかな赤毛の盗賊、紺色のローブをすっぽりかぶり表情も見えにい魔術士の三人だ。

 強い。来訪者の眼を使わなくても彼らから魔力の質の高さを感じられるのだ。

「よう」

「……ああ」

 やつらも、俺らの実力を分かっているようだ。

「俺はラシャドっていうんだ。見ての通り冒険者さ」

 快活な男だ。年は俺より2,3歳上か。近くで見ると彼の上背と筋肉のせいもあって迫力がある。身長は180センチはあるとみえた。

「俺は、ツカサだ」

 どうして俺らに声をかける? 見ない顔だが? なんて聞きたかったが面目なく彼にのまれてしまった。まさに冒険者といった感じでただ生きていく手段としてこの稼業をやっているだけだった。

 なんてそんなことばかり頭を駆け巡ってなにも言えないでいると、いきなりマティがこづいてきた。

「いたっ!?」

「なにぼけっとしてるの。はーい、こんにちは、マティだよーっ! 今ガンガンきているパーティのひとりだよっ!」

「ああ、知ってるぜ。覇者の斧らを倒したんだろ?」

「そう。すごいでしょ」

 マティはおどけて胸を張って返事をした。マティのおかげでちょっと場の緊張がとけかけたところに、彼の仲間の盗賊がつったかってきた。

「でも、あたしたちほどじゃないね! あんたたちも、どうせ大公様からの使者が来て伝えられたんでしょ? でも、残念でした。怪異を倒すのはあたしたち“破邪の剣”だからね!」

「む、いやなやつ」

「へへ、やるかい!?」

 マティと赤毛の盗賊娘が意地を張りあっていると、「きゃっ!?」と突然盗賊娘が叫び声を放った。

「フンッ、まだまだだがもっと育てば旨そうだな」

 などと言って、子供化している双角が彼女の太ももや尻をペタペタさわっていたのだ。性欲的な意味ではないだろう。魂の味のほうだ。実際この間に俺もやつらのステータスを確認してみた。


ラシャド

Lv.24

種族;人間

職業;狂戦士

HP;305

MP;168

腕力248

機敏169

器用149

感応99

幸運59


スキル

戦技Lv8

闘気Lv6


ルーツィア

Lv.20

種族;人間

職業;盗賊

HP;178

MP;129

腕力118

機敏202

器用204

感応130

幸運55


スキル

隠密Lv6

奇襲Lv3


 どちらも優れている。レベルが20以上など才能がなければ到達できないのに、まだ20歳前後でこの強さとは末恐ろしいというべきだろう。

「このエロガキッ!」

 ルーツィアは怒って双角の頭をはたきつけた。

「痛いぞ」

「こら、ルーツィア、子供をたたくなよ」

「ちゃんとしつけてやらないといかねえだろっ」

「ばか! ご主人さまにあやまれ!」

「ん? ご主人さま?」

 ああ、状況が混乱してきている。どうこの場をおさめようかと思っていたところに、彼らの魔術士が「やめなさい。もう行きましょう、用は済んだのですから」といった所でルーツィアもしぶしぶ手を引っ込めた。「見とけよクソガキ」などといって店を出ていく。

「じゃあな、あとありがとな」

「ありがとう?」

「ああ、俺はこの街の生まれだからな。勝手やってた覇者の斧らを倒してくれて感謝してるぜ」

「……」

 それだけいってラシャドも店を出ていく。そうか、あいつこの街の生まれだったのかなんて思っていると紺色のローブの魔術士もさっさと出ていった。

「絶対、あいつらにかとーね!」

 ひとり闘志を燃やしているマティだったが、一方双角は少し考え込んでいるようにみえた。

「どうした?」

「どうした、だと? お主、あの術士の数値表を確認しなかったのか」

「いや、見過ごした」

「間抜けが。れべる自体は23だったが、能力を四つも持っていたぞ。隠密、治癒術、魔術、交霊術だ。交霊術とは珍しい、あやつ少し特殊だ」

「へえ」

「じゃあ、いっそう気をひきしめないとね! ほら、ようじすまそっ! ぶきぶきっ!」

 ローブの術士のことを考える暇もなく、マティに引っ張られて店のカウンターへ。そう、確かに用事はすませなくてはと店主にかけあった。

「こんにちは、早速だけど怪異にもダメージを与えられる武器ってないです?」

「ほう、あなたもですか。残念ながら、もうこれしかありません」

 そういってカウンターのすぐ後ろの棚にあった短剣を持ってきた。

「退魔の短剣、です」

 刃渡り20センチほどだろうか、柄にありがたそうな宗教的な紋様が彫ってある以外はなんてことはないナイフである。

「これだけです?」

 やはり差別されているのか、武具を出しおしみしているのだろうかなんて思ったが違うみたいだ。先を越されたのだ。

「さきほどまでは輝きの剣という怪異退治の剣があったのですが、破邪の剣のかたがたが購入されていきました」

「なに!?」

 そういえば、ラシャドは放送されてあった長細いものを担いでいた。武具か? なんて意識から流してしまっていたが、今思えばあれがそうだったのか! と思ったがどうしようもない。

「これだけー?」

 マティが失望と驚きを混ぜ合わせた力のない声をだしている。俺も同じ気持ちだったがむしろ一つ残っているだけでも幸運というべきか」

「仕方ない、これください」

「ありがとうございます。銀貨150枚となります」

「150枚!?」

 高い。確かに怪異用の武具は特別だから値は張るのが分かるが、いくらなんでもナイフひとつでこの値段は普通じゃない。

「そんなに高いんですか?」

「最後のひとつですから」

 それ以外は言わないがなんとなく、言外に俺への冷たさを感じさせる言い方だった。この一年ずいぶん扱いがひどかったため、被害妄想なのかもしれない。しかしこの値段が普通じゃないのも事実だ。だが、買わなくては怪異討伐の依頼達成から遠ざかるだろう。

 それに、払えない額じゃない。今や俺には双角とマティがいるのだ。支払えばすっからかんになるが一か月もちゃんと働けば7,8割くらいの額は取り返せる。足元見やがって、いいじゃないかとばかりに俺は応じることにした。

「いいでしょう!」

 どんと手持ちの金を払い、短剣を持ってかえることに。マティは「かっこいー!」といいながら俺に抱き着いてくる。めずらしく双角も「フンッ、良い意気だ」とほめてくれる。とにかく退治しなくては。なぜかそう思う俺の頭にはちらちらとラシャドの後ろ姿が浮かんでいたのだった。

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魂喰らいの怪物と契約してみると 森倭 @adamquinn

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