高野圭吾 chapter02

2019年 11月21日 13時40分


渋谷 シエルマンション204号室


高野たかの圭吾けいご

年齢 26歳

性別 男

職業 警察官


「ケイ助けて。」

静華しずかの声が聞こえる。

「ケイ早く来て。」

暗闇でなにも見えない。

「静華!どこだ!」

「ケイ早く。」

なにも見えない。

オレは死んだのか。

静華はどこに。

・・・

目が覚めるとまた見知らぬ部屋だった。

夢か。

その前にここはどこだ?

起き上がろうとして気づく。

ベッドにロープで縛り付けられていた。

なんなんだよこれ。

ガチャリ

扉の開く音がした。

音のする方を見ると先ほどの少女が立っていた。

「目が覚めたのね。」

ガラスのように透き通った少女の声。

「目を見せて。」

少女の白く華奢な冷たい指がオレの顔に触れる。

少女の黒い大きな瞳に吸い込まれそうになる。

「『呪い』の影響はないし大丈夫そうね。」

『呪い』なんの話だ?

この子は何者だ?

さっきの怪物はなんだ?

いったい病院で何が起こったんだ

ここはどこだ?

疑問が次から次に湧いてくる。

混乱した脳を無視して、口が勝手に動いていた。

「呪いってなんだ?君は誰だ?さっきのあれはなんだ?病院でなにがあった?ここはどこなんだ?」

少女がこちらをじっと見つめる。

「何も知らないの?」

「教えてくれ。なにがあったんだ?」

少女がロープをほどく。

「そこの服を着て。あと靴も忘れずに履いて。こっちに来て。」

少女が部屋を出ていく。

ベッドから起き上がる。

まだふらつくがさっきよりはマシだ。

ヒラヒラの病院着を脱ぎ捨て指示された通り服を着替え、靴を履く。

屋内で靴を履くのに違和感があったがしょうがない。

今は指示に従おう。

ゆっくりと部屋を出る。

リビングで彼女は食事の準備をしていた。

「食べながら話しましょ。」

彼女に促され椅子に座る。

「君は何者だ?」

「そうね。まずは自己紹介から。」

少女も席に着いた。

「私の名前は白石唯しらいしゆい。あなたは?」

「オレは高野圭吾だ。さっき言ってた呪いってなんだ?あの怪物は?なにが起こった?ここはどこだ?」

「質問には一つずつ答える。まずは呪いから。」

「わかりやすく言えば死ねない存在、不死に呪われた『屍者』になるってこと。」

「屍者?」

「もっとわかりやすく言うとゾンビね。映画とかで見たことあるでしょ?」

「ゾンビ?人を喰うのか?」

「屍者はゾンビと違って食べるために殺すんじゃない、正確には殺すために喰うの。屍者の呪いの根源は屍喰い蟲。屍喰い蟲は寄生虫の一種。ただ普通の寄生虫と違って生きてるものに寄生できない。死体に寄生してその肉体を奪うの。屍者は生物としての本能である種の拡大に向けて動く。生きた人間を殺して、死体を作り卵を植え付け新たな屍者を生み出す。これの繰り返し。」

「さっきの怪物も屍者なのか?」

「あれは屍者の呪いがより進んだ形。私たちはあれを屍鬼シキって呼んでる。屍者が多くの命を喰らうとなるとされているけど詳しいことは未だ不明。私は一種の突然変異って考えてる。特徴としては目が赤く光ること、左腕が肥大化すること、腰から肩にかけて昆虫ののようなものが生えてくること。非常に凶暴で屍者以上に危険な存在。」

少女、白石はこちらをじっとみつめる。

「ほかに質問は?高野さん。」

「さっきなんでオレの目を見たんだ?呪いは死体だけの話だろ。生きてるオレに関係ないはずだ。それとそこにある銃と刀について説明してもらおうか。」

白石の後ろにあるホルスターとノコギリ刃のついた刀を指さした。

「鋭いわね。まずは最初の質問から。屍喰い蟲の寄生には特殊なパターンがあるの。死から生への蘇生よ。」

「蘇生?生き返るってか?」

「そう。生き返る。私たちはこいつらを闇人ヤミビトって呼んでる。闇人は見た目は人と同じほとんど区別できない。唯一見た目の違いは目が赤いってこと。そしてここが一番の違い食べるものが決まってるってこと。」

一瞬の沈黙。

白石の表情は無そのものだった。

「何を食べるんだ?」

「生きた人間。生きた人間以外食べれないの。ただ屍者と違って生きるために食べる。殺すためじゃない。」

「そいつらも屍喰い蟲に呪われた人間の敵だろ。」

白石が目をそらす。

一瞬の沈黙。

「そう。人間の敵。私たちの一族が狩る対象。」

「一族ってのはなんなんだ?」

白石は立ち上がり後ろに立てかけた刀と銃に触れる。

「私たちは『蟲狩りの一族』屍喰い蟲を狩り、屍者や屍鬼、闇人から人を守るのが私たちの使命。この武器はそのための道具。」

白石はじっと刀と銃をみつめている。

「このわけのわからん事態はいつから起こった?安全な場所は?」

「始まりはもうずっと前。屍者も屍鬼も闇人もずっと前から東京ここに居る。ただここまで大規模に呪いが広まったのは初めて。これまでのは小規模だったから私たち一族が呪いを消してきたけど、今回は裏になにかがありそう。」

白石が窓に近づく。

「こっちへ。」

窓に近づく。

どんよりとした雲の下、街のいたるところから煙があがっている。

「下を見てみて。」

言われるままマンションの下を見る。

無数の屍者が歩いていた。

生きてる人間はいない。

呪われている。

不死に呪われていた。

「これが現状。」

言葉がでない。

なにも言葉が出なかった。

地獄なんて言葉じゃ生易しい光景がそこに広がっていた。

「東京全体が呪われてる。安全な場所なんてどこにもない。」

「この状況は東京だけか?」

「呪いが蔓延して一週間政府と国連はこの事態を危惧して東京を高さ20mの二重の壁で覆った。壁の外の状況は不明。中から外へ出る手段も見つかってない。」

「助けは来ないのか?」

「一部の自衛隊、警察官、消防官、医師達が皇居に救民センターを作って救助活動を行ってる。それと壁の外から救援物資が送られてくるけど、それだけ。」

「君たち一族は?」

「私たちも救援活動を行ってはいる。ただ呪いの根絶が私たちの使命。全員は救えないし、世話もできない。」

ダンダンダンダン!

玄関の方から音がする。

「限界か。」

白石はくるりと振り返り刀とホルスターを装着し、複雑そうな形の籠手や防具らしきなにかを体に手際よく装着していく。

「高野さん。そこの窓から出て。この下の駐車場の屋根に出られる。」

「お前はどうするんだ。」

「すぐ追い付く。急いで!」

「オレは警察官だ。市民を見捨てて逃げる気はないね。」

「カッコつけて死んでも知りませんよ。」

白石がホルスターから銃を抜きオレに渡す。

「警察官なら使えますよね。」

銃を受けとる。

ずしりとした重さに妙な安心感があった。

バタン。

玄関の扉が外れ屍者の姿が見える。

屍者の虚ろな目がこちらを見据える。

銃を構える。

「合図したら後ろを頼みます。」

「まかせろ。」

白石が前に飛び出し、屍者の体を真っ二つにする。

「今!」

白石の合図にあわせて引き金を絞る。

屍者の頭弾ける。

「行きます!」

白石が走り出す。

白石のあとを追う。

呪われた都市に足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

屍者の都市 苦労人 @Alpha-Kaz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ