屍者の都市
苦労人
高野圭吾 chapter01
2019年 11月21日 11時26分
渋谷 中央病院
年齢 26歳
性別 男
職業 警察官
見慣れぬ病室で目を覚ました。
カーテンの隙間からもれる光が部屋をぼんやりと照らしていた。
誰もいない。
不気味なほど無音だった。
鼻には呼吸用のチューブ、胸には包帯や心電図用のセンサー、腕には空っぽの点滴チューブ。
「なんだこれ・・・?」
起き上がろうとしてよろけ、ベッドから落ちそうになる。
全身に力がうまく入らない。
動くのに邪魔な呼吸用のチューブやら点滴針を抜きナースコールを押す。
反応はない。
「誰かいないのか?」
これにも反応はない。
どうなってんだまったく。
ふらつく体でどうにか病室の扉に近づき。
よろめきながら扉を開けた。
電気はいたるところで切れており、廊下には患者のカルテや指示書などが散乱し、ベッドや毛布や医療器具が無造作に置かれ、いたるところに赤黒くなった血が付着していた。
「一体何がどうなってるんだ。」
異常な光景を前にパニックになりかけの頭で必死に記憶を探る。
・・・。
犯人が銃を取り出して・・・。
・・・。
そうだ撃たれて・・・。
それで病院に運ばれて・・・。
・・・
ガタンッ!
廊下の右奥で音がした。
人か?
「誰かいるのか?」
廊下の奥に呼びかける。
壁に設置された手すりに寄りかかりながら音のする方へとゆっくり進む。
チカチカと明滅する廊下の奥に何かが見えた
人だ。
「おーい!」
人影がゆっくりと振り向く。
明滅する明かりに照らされたそれは到底人とは言えない化け物であった。
目は赤くぼんやりと光り、口は右頬にかけて大きく裂け、左腕は大きく肥大化し、腰から昆虫の足のような何かが何本も生えていた。
赤い視線がこちらを捉えた。
永遠に思える一瞬。
手が震えた。
足が震えた。
信じられないほどの冷や汗。
動けない。
ゆっくりと赤い目の化け物がこちらに歩む。
動けない。
体の震えが止まらない。
化け物がまた一歩こちらに近づく残り9m。
動けない。
腰が抜け尻もちをつく。
異形が近づく残り7m。
動けない。
声もでない。
自分の体が言うことを聞かない。
死が迫る残り5m。
動けない。
目をそらすこともできない。
死がそこに立っていた。
・・・。
パンパンパン。
乾いた破裂音が3つ。
死神の赤い両目がはじけ、巨大な左腕が吹き飛ぶ。
カランカラン。
小さな金属の筒が落ちる音。
・・・。
何が起きたのかわからなかった。
風を切る音。
黒い長い髪が前に広がる。
「死に眠れ。」
そう聞こえた気がした。
長髪の隙間の白い腕から銀色の光が走る。
ギャァァァァァァアアアアアア!!!!!!
つんざく咆哮。
赤い体液をまき散らしながら異形がゆっくりと倒れる。
「大丈夫?」
ガラスのように透き通ったきれいな声。
黒い長髪、白い肌、赤く濡れた刃をぼんやりと見つめ、薄れゆく意識の中で生きていることを感じた。
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