寝床

蔵居海洋

寝床

私が明日に備えて畳に布団を敷き、眠りに就こうとした時のこと。ふと、天井の染みが目に付いた。

私にはその染みが人の顔のように見えて仕方がなかった。

しばらく、何となしにその染みと睨めっこをしていると、幼少の頃を思い出した。

あの頃は天井の染みが生きているように、また、その染みに観察されているように思えて、怖くて仕方がなく、床を濡らしてしまったものだ。

だが、今はどうだ? 天井の染みはただの染み。寧ろ我が家の天井に趣が出たようにさえ思えるではないか。

そう、全く怖くない。全くだ。私があの染みを何度もチラ見して、いや、布団で顔の半分を覆い隠しながら染みを見ているのは、このクーラーの設定温度による肌寒さのせいであって、恐怖などという感情はない。絶対ない!

……じっと動かずにいれば、こういうこともある。そう、人間であれば、生き物であれば当然の事であり、それは自然の摂理というものだ。

……ようは、トイレに行きたくなってしまったのだ。

それはそれとして、私は何かに見られながら用はたさない主義だ。私があの染みに見られている以上、私は私の主義に誓って、絶対にトイレには行かない。行けないのではない、行かないのだ。

念仏を唱えていると、私の現実と虚構の世界との境界が曖昧になり、気がつけば太陽が照っていた。

あ、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

寝床 蔵居海洋 @kuraikaiyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る