旅の終わり

 最後の一撃を胸に突き出すと、魔王の身体が散り散りになり、消えた。世界を覆っていた暗雲は姿を消し、空は青さを取戻し、太陽はその輝きを再び地球に見せることになった。今、長い旅は終わりを迎えた。

 勇者一行はたったの四人の部隊であった。正確には、ここに辿りつくまでに数十人の部隊であったが、ここに辿り着くまでに部隊は四人へと減った。様々な王国より魔王討伐部隊が派遣されたが、彼らより前に国を発った部隊の者の行方はいずれも分からなくなっている。

 その中でも”勇者”と呼ぶに相応しい男が呟いた。

「終わったのか…」

 数十年前、人々は各々王国を築き、暮らしていたある時、遠く東の島、地下深く誰も全容を知らぬ闇を湛える洞窟より魔王が生じた。魔王はまた、多くの魔物をも引き連れた。悠久とも思われる平和はかくして終わった。

 人々は魔物に易々と殺されていった。彼らは力も人類よりはるかに強かったが、今迄に無かった魔法の類を使うことの出来る者も居た。次々と人々の村を襲い、蹂躙した。”勇者”の弟は幼き日、大きい魔物に噛み殺され、その死体は無残な肉塊とでも呼ぶべきものであった。魔物は次第に島より近い王国の人々を奴隷、あるいは食料として支配するようになった。人々の心は荒んでいった。魔物より自由、食料、財宝を強奪され、東の島に比較的近い場所では、人間の間でさえそれらの醜い奪い合いが生じる程であった。

 一方、人類も魔王、魔物の妖力に影響されたのか、普通より強い力を持つ子が産まれるようになった。魔法を使う事の出来るようになる子も産まれるようになった。王国は各々才能の有る子を集め、魔王討伐部隊を派遣するようになった。人類を脅かす魔王を討伐することは全人類にとっての悲願であった。魔物によって圧迫されていた部隊の人員は、人類を救う正義感に溢れていた。

 そのような部隊を派遣できるのも、魔王の力が及ばぬ東の島より遠い王国が多かった。魔王の力が及ばぬということは、魔物も比較的弱い事が多かった。その弱い魔物を討伐する中で戦闘の腕を磨き島に向かうのだった。

 ”勇者”は暫らく動く事ができない程全身に傷を負っていた。回復薬の類も魔王との闘いの末もう尽きた。四肢を大きく広げ、地面に仰向けになった。

 今、”勇者”の居る此処は東の島の洞窟の最深部、魔王の住処であった。魔王亡き今、妖力は途絶え魔法を使う事は出来なくなった。すなわち、場所移動魔法や救護魔法の類は使えなくなり自力で帰らなければならぬという事だ。

 ”勇者”の仲間のうち一人は死んだ。彼は”武闘家”と呼ぶに相応しい程武術のエキスパートであった。かつて王国では彼を慕う弟子は数多く居た。闘いの最中、”勇者”を庇う為に”魔王”の攻撃を受け上半身と下半身に分かれてしまった。程なく息絶えた。

 ”勇者”の仲間のうち一人は闘いの末疲弊しきっていた。彼は”戦士”と言うべき存在である。元の王国では王の親衛隊の長であった。彼の剣の使い方は超一流であった。家系代々受け継いできた剣は闘いの中で粉々になった。

 ”勇者”の仲間のうち一人は両手を失った。彼女はかつて”魔法使い”と呼ばれるべき存在であった。彼女より魔法の出来る者は王国に存在しなかった。魔王の死ぬ前に自ら救護魔法を使っていたので辛うじて傷口は塞がっており失血死を防いでいる状態であった。彼女は”勇者”と契りを交わした者であった。今は気絶しており、妖力が無くなったのでもう魔法は使えない。

 洞窟の闇の中で息も絶え絶えであったが、この状態で此処に留まれば死ぬ他無い。一日ほど経った後だろうか。”勇者”は故郷の人々の笑顔を思い出すと、少し歩く程の力が身体に溜まって来るのが分かった。戦士も時を同じくして力が溜まったようであった。よろよろと立ちあがると、”魔法使い”を抱きかかえ、”戦士”に肩を貸し、歩き出した。

 魔王が居なくなったからか、魔物の居ない洞窟は閑散としていた。力を振り絞って、今の彼らに出来る限り速く歩いていると、”勇者”の脳裏には東の島に辿り着くまでの道のりを思い出した。同じ部隊で死んでいった者の顔と名前を思い出した。弟の顔を、思い出した。

「終わったのか…」

 涙が出てきた。”戦士”も何かを考えているようで、涙を流していた。

 あの世界に立ち込めていた暗雲は姿を消しただろうか。人々は空の青さを思い出しただろうか。故郷に咲くあの花は、陽の光を浴びているだろうか。人間は救われたのだ…。万感の思いが彼らの胸を打った。

 洞窟を遡っていると、人間の声が聞こえた。

「おい、魔物が全然いねえぞ」

「ウヒョーッすっげえ宝の山だぜ」

 洞窟の中は確かに魔物が人間から奪った財宝の類が多く有った。そして、声の主は東の島近くに発生した窃盗団の一員であった。

 実際、東の島の洞窟に宝が多くあるだろうという事は人間の間でも専ら言われていた事ではあり、窃盗団は魔物が居ないのを見るや否や洞窟に入り込んで来たと思われた。窃盗団の眼前に勇者一行が姿を見せた。

「おい!静かにしろ。誰かいるぞ」

「本当だ…」

「おい!どうする。宝を奪われるかも」

「殺すか」

「そうだな」

*とうぞくAとうぞくBとうぞくCがあらわれた!

*ゆうしゃはどうする?

→にげる

*しかしまわりこまれた!

*せんしはどうする?

→にげる

*しかしまわりこまれた!

*まほうつかいはきぜつしている!

*とうぞくAのこうげき!

*せんしはいきたえた!

*とうぞくBのこうげき!

*まほうつかいはいきたえた!

*とうぞくCのこうげき!

*ゆうしゃはいきたえた!

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短編集 青い厚揚げ @aoiatuage

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