アイドルを満たす物

マイクを片手に天を指さし、心の底から声を張る。

今この場で一番輝く者は一人のアイドル。

万人の声援を一手に引き受ける彼女は


私は誰よりも「愛されている」


そう胸に刻み込んでいた。


元々ちやほやされたい等というやや不純な動機で始めたアイドル活動。

今では厳格なプロデューサーも活躍が目覚ましく、より高みへ行けると話しており

アイドルはその時、もっと大きな舞台に歩みを進めようと

もう一つ胸に刻み込んだ。


曲も順調に売れ

仕事も順調に増え

世間も彼女を認め

それを実感する度に自信を胸に刻んだ。


しかし、これだけの実績を積んだ彼女でも、一位という座を

手にする事ができなかった




最初はアイドルもその内届くと思っていた。


だが


オリコンはライバルのアイドルグループ抜かれ

時代の流れと共にファンが気移りして

次第にメディアは彼女から離れて行って

今度は虚しさが自身の胸に刻まれていった。


アイドルは嫉妬する。

ライバルグループに対しては勿論、いけ好かないアーティスト

コメディで活躍する中年の芸人、果てはにまで。

その嫉妬心をバネに奮闘するも

人気は下がる一方で、右肩下がりの数値が目を通して深々と胸に刻まれた…。




そんな折

一人の男と運命の出会いを果たす。

彼は俳優であり、アイドルの悩みに親身に話してくれる男だ。

その時、アイドルは


アイドルとしての禁忌を犯した。


運命の男は彼女の心を少しづつ癒し

胸に刻まれた嫉妬や虚しさは燃ゆる想いに生まれ変わる。


アイドルはそれが間違いなく「恋」である事は分かっていたが

彼が間違いなく良い人である事は分かっていたが

それでも、それを押し殺す事にした。

彼女はアイドルとして愛される事を望んだのだ。


アイドルからすれば断腸の想いであっても、それが正しいと信じてる。

たった一つの愛よりも、まだ手元に残る幾千の愛を取るべきだと。




それが砂の様に指からすり抜ける愛だとしても…。







・・・数年の時が進む

比例する様にまた虚しさや嫉妬が胸を刻む

気づけばアイドルは、吊縄と向き合っていた。


自分は愛される為にアイドルを続けた。

そしてファンの声に答え続けてきた。

なのに心が満たされない。


・・・鼓動が動きを止め始める。


彼女が最後に見た夢で、あの運命の男の顔が浮かぶ。

アイドルをやっていた時よりも、あの瞬間が一番満たされた。


そこでようやく気付いた。




私が求めた物はアレだったのだ・・・




と。

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有象無象の空想~掌編集~ 白金 鉄 @gakusyoku_555

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