お題『最後の5分間』 タイトル『語る死神』

文字数１２００ タイトル『語る死神』

「お初にお目にかかります、どうも新入りの死神です。

今日は私のような新参者をわざわざ地獄の冥界までお呼び下さいまして、誠にありがとうございます。

では早速ですが、気合を入れて落語をさせて頂きましょうかね。もちろん気なんか持ってないのですがね。死神なんでね。へへ。

ということで今日のお題は『最後の5分間』、そう5分しかないんですぉ。

５分あったら、何ができますかねぇ、カップラーメンじゃ伸びちゃうし、トイレに用を足しに行っても中途半端になっちゃうし、お隣の山田さんの命を狩るには短いしで、本当にもう、時間が足りないですよねぇ。

じゃあ何をするかっていったら、私なら音楽を聴きますねぇ。

最後ってことはあれでしょう？

命がなくなるか、地球が滅亡するか、座布団が全部無くなった瞬間ってことでしょ？

それじゃあ悔いが残っちゃってしょうがない。最期くらいパーっと大きな花火を打ち上げたいじゃないですか。

もちろん私は頭がパーっとなって消える寸前の灯火みたいなもんですがね。へへ。

じゃあ何を聴くかっていったら、明るい曲がいい。しんみりしちゃ、別れが辛くなりますからねぇ。

そうなんですよ、私、辛気臭いのが嫌いでしてね。よく持ちネタで死ぬ死ぬ詐欺なんかやってまして。

ほれ、優しくしとかんと死ぬぞと脅してみたり、それはもう、ひどい嘘をついて来たんですよ。

だからこそ、ここにお呼ばれしてるんですけどね。へへ。

で、話を元に戻させて貰いますが、音楽を聴いて何をするかっていうと、耳を澄ますだけじゃ勿体ない。

やっぱりね、体を動かさなきゃいかんと思うんです。とはいってもダンスなんかはてんで駄目、じゃあ何ができるかっていったら、それはもう健康体操ですねぇ。

ストレッチ　身体伸びても　息延びず

なんてね。へへ。息と生きを掛けてみましたが、いかがでしょうか。ちなみに伸びと延びも掛かってるんですが、これはもう残念な結果ですねぇ。

なんせイキイキ、ノビノビ、なんてねぇ、私には似合わないからねぇ。へへ。

え？ いいから、要点だけ話せ？ 後、１分しかない？

へ、へい。

そ、それでなんですが、私決めたことがあるんです。

そう、落語はもうこの際、やめちまおうと思ってるんです。

何せこれ以上、嘘をつくことなんてできませんしね、あなた様の前では……。

なので……どうか閻魔（えんま）様！　舌を抜かれる前に、お願いがあるんです。

どうか……髪の方だけは見逃してくだせえ……命は奪われてもいいんです。

え？ もう両方ない？ ええ！？　死神じゃなくて死髪？

あ、そうなんですか。

私、あの世でも髪なしですか。

あの世にも、髪も仏もないんですねぇ。

私にあるのはカツラ、だけ。

では落ちもついた所でこの辺で失礼致します。

ごきげんよう、また来世。