幼い頃に大切な人と過ごした思い出は色褪せることなく残るものだ。これはそんなひと夏の恋の話だ。
その日、入院した祖母の見舞いをすませた主人公・井口雅治は、近所に住む6歳年下の女子小学生・みさきを連れて地元の夏祭りに向かう。
おしゃまな元気少女みさきちゃんに引っ張られ、わたあめ、焼きそば、たこ焼き、かき氷……定番の屋台グルメを食べ歩く。周囲の喧騒と祭囃子が重なり、提灯が照らす情景はロマンチックで、そこだけ切り取ると仲の良い兄妹か、年の差カップルのデートの光景だが、問題が一つ。
それは主人公が、みさきちゃんが淡い恋心を抱く「まさにぃ」の偽物であることだ。
みさきの恋する「まさにぃ」の姿を借りたこの人物はいったい何者なのか。可愛らしい浴衣を着た小学生を騙してわざわざ夏祭りにやってきた目的とは。
こう書くと不気味で怪談めいているが、作品ジャンルがSFとなっているのがヒントだ。
最後にあっと驚く真実と、そしてホロリと切ない結末が待っている。文量こそ短いものの、綺麗に仕上げられたハートフルラブストーリーだ。
(『夏色の物語』特集/文=愛咲優詩)
これは「主人公」が「ょぅじょ」と浴衣デートする話です。
スーパー貧弱物書きマンとして考えると、お話に出てくる異性というものは少なからず何らかの好意や憧れの属性を持つキャラクターになるのではないでしょうか。つまりこの作品を読むと筆者の趣味がわかり察し状態になることは間違いなし、必読の作品です。
…これだけだととても不埒な話に聞こえるかもしれませんがそんなことはなく、立派なSF作品として成り立っている作品です。
少しそれてしまうかもしれませんが、皆さんは「人間」が「その人本人」であるということはどういうことか、考えたことがあるでしょうか?
自分の考え、育ち方、家族、人間関係、学力、財力、etc…。
突き詰めていくと、人間は「思い出」によって形成されている、と僕は考えています。自分の思い出、そして自分以外の人間の思い出です。
今作の主人公は全体的に考え事が多く、悩み、そして最後には行動を起こします。「ょぅじょ」もそれと同じです。悩み、行動を起こし、主人公にとって何らかの思い出を残す存在になります。ネタバレになってしまうのが嫌なので詳しくは書きませんが、誰がいなくなっても、もう会えなくなったとしても、思い出がある限りその人はどこかに存在していると言っていいのでしょう。「心の中に生きている」とかよく言うやつです。
こう長々書くと僕がょぅじょ好きの認定を受けそうですが、僕はどちらかというと年上の人が好きです。あっこの文は読まなくていいですよ。読んじゃいましたね、じゃあ本編も読みましょうか。
これがただ小学生とデートするだけの甘い話であったなら、私はレビューのための筆を執らなかったでしょう。
確かにこれはタイトルどおりの話です。
しかしこの話には、「なぜ」という謎が絡んでくるのです。
ミステリーでいうところのホワイダニットと言ってもいいかもしれません。いわゆる動機ですね。
「なぜ」彼は、小学生を騙しているのか?
彼の目的は何なのか?
短編ゆえか提示されるヒントは比較的単純ですが、伏線とミスリードを越えて「なぜ」の謎が提示されるころには、すんなりとつながってくるでしょう。
まあ小学生との恋愛云々はさておき、ミステリとしても本来のジャンルとしても面白かったのでそのあたりへのツッコミは特にありません。
なんだかもう何を言ってもネタバレになりそうなので、とりあえず読んでみてください。