第4話
ジェイナスとのやり取りで少々疲労が溜まった気がするが、気を取り直して獲物を探すため森の中を探索し始める。
『魔力感知』ではこの近くにいくつかの反応があったはずだ。
魔力の大きさからすると、ウサギか、せいぜい小型の狼といったところか。
しばらく歩き回っていると、茂みの辺りがガサガサと揺れるのを見つけた。
見ると、茶色の毛並みをしたウサギが、地面に落ちている木の実を漁っていた。
俺は『気配遮断』を使いウサギに悟られないように接近する。
そして、地面に落ちている小石をひとつ拾うと、振りかぶって投げた。
小石が猛スピードでウサギの方へと飛んでいき、頭部に命中。
ウサギは頭から血を流して絶命した。
俺はウサギの死体に近づくと、ポケットに忍ばせていたナイフでウサギの処理をする。
すぐに適切な処置をしないと腐りやすくなってしまうからな。
よし、これで貴重なタンパク質をゲットだ。
それにしても、小石を投げただけだが身体の動きが前世とは比べ物にならないほどスムーズだ。
やはり『武王の証』のお陰だろう。
現段階でこれなら、15歳までには前世の俺と同等か、あるいはそれ以上になっていてもおかしくない。
そう思うとますますこの屋敷で過ごす時間がもったいなく感じる。
どうにかしてもっと早く家を出る方法はないものか……。
そう思考を巡らせながら獲物の探索を続けていると、何やら見慣れた人影が。
「フェイ……! お前……! オレの命令を無視しやがったな!」
うっかり会いたくない奴と遭遇してしまったようだ。
さっき別れたジェイナスが歯ぎしりして俺を睨み付けながら叫んでいる。
その隣にはオロオロした様子のケイン。
俺はケインの足首に緑色の模様が刻まれていたのを見ている。
あの模様は『剣豪の証』で、『上級職』のひとつだ。
俺の『武王の証』ほどではないが、剣術にかけては上から数えた方が早い優れた職業だ。
鍛えればなかなか見込みのある冒険者になれるのに、ジェイナスのお守りを押し付けられているなんて、もったいないと言うしかない。
「おい! オレの言うことを無視するな!」
俺が聞いていないことにようやく気づいたのか、ジェイナスはより一層語気を強めてなじってきた。
うるさいな。
こんな人間のクズと血が繋がっているだなんて、考えただけで憂鬱になってくる。
こんな奴に貴重な時間を割くくらいなら、もう一変転生し直した方がマシだとさえ思えてくる。
無視して探索を続けようとすると、
「どうしても帰らないか? フェイ!」
「当たり前だ。お前に指図される言われはない」
「こ、こいつ……!」
ジェイナスは今にもブチッと音を立てそうなくらい怒りで顔を真っ赤にしている。
そのまま血管切れて死ねばいいのに。
「そうか、そこまで言うならオレと勝負しろ! フェイ! それでオレに負けたら大人しく屋敷に帰れ」
ほう、勝負か。
それは面白そうだ。
「いいだろう。ただし俺が勝ったら好きにさせてもらう」
「ああ、オレに勝てたらな」
そう言ってジェイナスはニタアと下品な笑みを浮かべた。
「それで、勝負の方法は?」
「あれを見ろ」
ジェイナスが指差した方を見ると、鹿の群れが列を作って移動していた。
「あの鹿をどっちが先に仕留められるかでどうだ」
「ああ、それでいい」
ちょうど獲物を狩ろうとしてたところだから一石二鳥だ。
ジェイナスにしては、気の利いた勝負を提案してくるじゃないか。
「よし、じゃあそこでとくと見てるがいい! この『大賢者』様の魔法をな!」
そう意気込んで、ジェイナスは鹿の群れに向けて右手をかざした。
そして何やら念じはじめたかと思うと、目をひん剥いて叫んだ。
「炎の精霊よ、我の命に従い力を顕現せよ……! 『ファイアーボール』!」
するとジェイナスの掌に炎の魔力が集まり、火の玉が形成されていった。
「なっ……!」
「へへっ、今更驚いたかよ! このジェイナス様の大魔法に!」
な……なんという……。
低レベルな魔法錬成だ……。
あれしきの火の玉を形成するのに、時間をかけすぎだろう。
それに何だ、今のふざけた詠唱は。
いくら無能な愚兄でも、まさか無詠唱魔法すら使えないとは思わなかったぞ。
俺が呆れている間にも、ジェイナスは得意げに笑みを浮かべ、掌のファイアーボールを発射した。
なんだ、あの速度は。
俺の前世では、小学校にあがったばかりの子供でももう少しマシな魔法を使っていたぞ。
案の定ジェイナスが使ったファイアーボールは鹿にあっさりよけられてしまう。
「くそっ! すばしっこい奴め……!」
いや、あれは鹿が早いんじゃなくて、単にお前の魔法が遅すぎるだけだと思うぞ。
「もう一度だ! 今度こそ当ててやる!」
そう叫んで、またもジェイナスは掌をかざし詠唱を始めようとした。
やれやれ。
あいつが鹿を倒すまで待ってたら日が暮れてしまうぞ。
仕方ないので、俺は足元に落ちている小石を拾うと、さっきウサギを仕留めた時と同じように投げつけた。
俺が投げた小石はジェイナスの左頬をかすって直進し、鹿の胴体に命中。
跳ねた小石が更にその近くにいたもう一匹の鹿に命中し、2体の鹿はグラッと力なく倒れ動かなくなった。
見ると、ジェイナスは腰を抜かして泡を食ったように慌てふためいている。
「お、お、お、お前、今何をやったんだ……!?」
「何って、石を投げただけだが?」
こんな程度で驚くなんて、大げさな奴だな。
欠陥職の最強武王 ~ステータスカンストした最強武闘家は転生して限界を突破する~ 紅乃さくや @ansbach
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。欠陥職の最強武王 ~ステータスカンストした最強武闘家は転生して限界を突破する~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます