お前の日常イチからギャンブルに

ちびまるフォイ

報酬は金か愛か

「これからあなたの行動は24時間監視されます。

 押し入れに入ろうが、トイレにこもろうが、布団に隠れようが

 すべての生活があなたに賭けている人へと公開されます」


「はい」


「そして、あなたがどんな行動をするかが賭けられます。

 すべての負けた人の掛け金があなたと、当てたギャンブラーへの報酬となります。

 報酬はギャンブル換金所にてお支払いします」


「頑張ります」


「では、ギャンブル生活スタートです」


ギャンブル人間として登録された長い監視生活がはじまった。

告知は前日の晩から行われ、さっそくギャンブルが発生した。



【 あなたが明日、寝坊するかどうか 】


 寝坊する:20人

 寝坊しない:80人



「ここからはじまるのか。本当に全部見てるんだなぁ」


俺の個人情報から、これまでの歴史に性格診断。

それらすべての情報はギャンブラーの人に公開されている。


俺が几帳面な性格で、毎日目覚ましを3時間前にセットしていることも

ギャンブラーたちには周知の事実なんだろう。

それでも「一発逆転」を狙って少数派に賭ける人もいるけれど。


翌日、いつも通りの時間に起きた。


【 寝坊しませんでした。 】

【 寝坊側に賭けた人の投資金額が報酬になります 】


「やったぁ! ……ってこれだけ!?」


最初はギャンブラーたちも様子見ということで少額だった。

80人を損させればもっと実入りはあったかもしれないが、寝坊するわけにもいかない。



【 あなたが学校に遅刻するか 】


 遅刻しない:99人

 遅刻する:1人



今度はかなり極端な状態になった。

3時間も早く起きて、前日のうちにしっかり準備しているのだから

ここからどうやって遅刻するのだという形なんだろう。


「ようし、今度は……!」


俺はわざと二度寝して、学校へゆうゆうと遅刻していった。


「どうしたんだ、いつも遅刻していないお前が今日に限って遅刻するなんて」


「ええ、ちょっと今朝急に体調が悪くなりまして……」


「なら、どうして笑顔なんだ?」

「え?」


【 遅刻しました。 】

【 遅刻側に賭けた人の投資金額が報酬になります 】


99人分の掛け金が一気に総どりできたことで顔がどうしても緩んでしまう。

みんな俺がまじめな奴で、遅刻する度胸もないのだと安心したからか掛け金の単価も高かった。


「ふふふ、この調子でガンガンだまくらかしてやるぜ」


「あ、武中くん。おはよう、体調大丈夫?」


「い、委員長!?」


クラスのマドンナに声をかけられてしまった。

報酬をもらったうえにこんなご褒美が追加でもらえるなんて、今日はハッピーだ。


「うん、もう全然平気。委員長の顔を見たら元気になった」


「そう、よかった。ありがとうね」


「え? あ、うん」


委員長は去っていった。

みんな俺の初遅刻のことすら気にしていないのに、委員長ときたら。

俺の体調のことまで気にかけてくれるんだから、マジ女神。


と、安心していたのもつかの間、1時間目の授業で先生が紙束を持ってきて戦慄した。


「では、昨日言っていた小テストをやるぞーー」


「しまったぁぁぁ! 遅刻するんじゃなかった! 勉強時間ゼロじゃん!!」


寸前での詰込み勉強法が使えないとなると、赤点は免れない。



【 あなたの小テストの点数 】


 0~3点:80人

 4~6点:19人

 7~10点:1人


「ぐっ……!! どうすれば……!!」


思わず机に突っ伏して頭をかかえていると、ちょんちょんと背中を小突かれた。


「委員長?」


「武中君、今日体調悪いんでしょ? 無理しなくていいよ。

 私が保健室に連れて行ってあげる。テストはあとで受ければいいよ」


「い、委員長……!」


はじめて人の背中に羽を見た。


「先生、今日、武中君ちょっと体調悪いそうなので、保健室に案内してもいいですか?」


「む? そうなのか。じゃあ、あとで小テストは別室でやるから来いよ」


「はい喜んで!!」


保健室で難を逃れた結果、ベッドの上で小テストへの事前勉強をすることができた。

委員長が範囲とヤマを教えてくれたので、小テストはまさかの8点で俺もびっくりした。


【 小テストは8点になります。 】

【 外れ側に賭けた人の投資金額が報酬になります 】


「ふふふ、今度はいくらもらえるかな~~♪」


今回も多くのギャンブラーを出し抜くことに成功できた。

報酬も期待できるはず、と確認してみるも全然入っていなかった。


原因は明らかだった。


「ちくしょう、さてはみんな俺が賭け人数に応じて調整したのに感づいたんだな。

 だから少額の勝負だけにしているんだ……おのれ」


これじゃどんなに劇的な結果を導いたとしても、報酬の総額が下がってしまう。

しょうがないので、ギャンブラーを信用させるために、多数派を当てたり、少数派を当てたりと調整することに。


何度も調整しているとギャンブラー側も信用したようで、

1回のギャンブルに賭けるお金もだんだんと増えてきた。


授業がすべて終わるころ、最後のギャンブル告知が行われた。



【 これが最後のギャンブルになります。 】


【 すべてのギャンブラーのみなさんも最後に一山当てましょう 】



「ごくり……!」


最後のギャンブルとなると、みんな貯めこんだ金での大勝負が予想される。

いったいどんなお題なのか。


【 お題は、賭け役の人に決めてもらいます 】


「えっ、俺!?」


最後のギャンブルのお題は俺が決めることになってしまった。

こんなのいくらでも調整可能なお題で、「これから多数派を外させます」と言ってるようなもの。

タネがバレバレの手品をしろというのか。


裏をかくか、裏の裏をかくか、そのまた裏をかけばいいのか……。


ぐるぐる考えたところで結論は出ない。

どのみち少数派があたりになる結果だと予想されてしまうのだから。


「いや、待てよ!? この方法があった!!」



【 委員長に告白して成功するかどうか 】



あくまでも結果はほかの人により決められるお題なら、予想はできない。



【 委員長に告白して成功するかどうか 】


 成功する:1人

 失敗する:99人



案の定、俺のスペックと過去の遍歴を知っているギャンブラーたちはみんな失敗派に偏った。

それでも、仮に成功すれば天使こと委員長と付き合えるわけだし

失敗したとしても大金が賭けられている最後の勝負のお金は1人分まで回収できる。


予想されてしょぼい報酬もらえるくらいなら、予想できないけど高額のほうがいい。


そして、放課後に委員長を呼び出した。



教室には窓から夕焼けの明かりが差し込んで、委員長の横顔を赤く照らした。


「武中君、話って……なに?」


「実は……」




「俺、委員長のことが好きなんです! 付き合ってください!!」


確実にフラれるとわかっていても、報酬がもらえるとわかっていると人は無謀になれる。

結果はもちろん、



「うん、いいよ」



「ゑっ!?」


「よろしくね、武中君」



【 告白は成功になります。 】

【 失敗に賭けた人の投資金額が報酬になります 】


「やったぁぁぁぁ!!」


二重の意味で嬉しかった。

99人分の報酬を総どりできたことにも嬉しいが、それ以上に委員長と付き合えたことがうれしい。


もう今から恋人同士あれやこれやが脳内を駆け巡る。


「嬉しいよ、委員長! 本当にありがとう!」

「ううん、こちらこそ」


「それじゃ、さっそくなんだけど、その恋人らしいことをしたいなって。むふふ」


「恋人らしいこと?」


「とりあえず、今日は一緒に帰らない? 手をつないだりなんかしちゃったりして!!」


「意外とピュアなんだね。あ、でもごめんね。今日は用事できちゃったの」


「そうなんだ。どんな用事?」





「今日の勝ちぶんをギャンブル換金所で受け取りにいかなくっちゃいけないの」



成功側に賭けていた1人が誰かわかったとき、俺の恋愛は終わった。

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