定額制ほしいものサービスの神

ちびまるフォイ

願えば、どんなものでも与えられん

『定額制 ほしいもの配達サービス』



ネットで見つけた変なサービスに目を奪われたのは偶然だった。

読み進めていくほどに興味を引かれていく。


「なになに、サービス加入者には毎月ほしいものが1つもらえます……。

 ってまじかよ!?」


あっという間に手続きを進めてサービスに登録完了。

定額サービスには破格の金額を支払った。


「ほしいもの……なにが欲しいかな。

 う~~ん、そうだ! 高級外車がほしい!!


 あはは。なんてね。届くわけないか」


サービスの定額金額を超える注文をしてみる。

ま、実際には無理だと思うので、

あとで「新しいPCが欲しい」などとグレードダウンする予定だった。


1ヵ月後、高級外車が本当に届くまでは。


「まじかよ!! 本当に届くのか! 超得しちゃったじゃん!!」


何処に出しても恥ずかしくない本物で、

恥ずかしいのはこんな外車を乗り回すのが俺みたいな小物だということ。

まさに猫に小判。


それでもやっぱり気分はいいもので、

道路を走ると周りの人間に「俺は格が違うんだぜ」と暗に主張できるのは

学生時代に日陰者生活を余儀なくされてきた自分には痛快だった。


「うーーん、気持ちいいな! 助手席に彼女でもいれば最高なのに!」


今度の欲しいものが決まった。


サービス契約用の金額よりも高い車が届いたんだから、

今度は売り物じゃないものももらえるかもしれない。


ある種のサービスの限界を知るために、欲しいものは彼女とした。



1ヵ月後、家のインターホンが鳴る。



「はい!! 待ってました!!」


「……お届け物です」


玄関先にはデリバリーされた彼女ではなく、

こんなクソ暑い季節にサンタの服装をさせられている男だった。


「え……?」


「ほしいもの配達サービスです。印鑑を」


「あ、ああ」


荷物を受け取ると男は疲れたように去っていく。

去り際に「欲を出し過ぎないように」とだけ捨て台詞を残していった。


受け取った荷物を開けると中古のスマホが入っていた。


「はぁ!? なんでスマホ!? 持ってるし!!」


しかも電源つけてもパスワード入れないと入れないから使えない。

彼女が欲しいと言って、どうしてスマホが届くのか。


「ぐっ……スマホが恋人ってか! やかましいわ!!」


ひとりでツッコミを入れても笑ってくれる彼女などいない。

きっとあの捨て台詞も、物じゃないのを願った俺への警告だったんだろう。


「しょうがない……これは売るか」


2台目のスマホなら多少の使い道はあるけれど、ロックされてて使えないので

売ってせめものもたしにしようかと出かけた。


そして、彼女と知り合った。


「あ! それ! そのスマホ! 私のです!」


「え、ええ!?」


「実はここで落としてしまって探してたんです!

 あなたが見つけてくれたんですね!! ありがとうございます!」


「そ……そうですよ、俺も持ち主を捜していたんです……」


質屋のチラシはお尻の割れ目に挟んで隠した。


「お礼に食事でもいかがですか?」


「いいんですか!?」


ちょっと高めの場所で食事をお礼にとらせてもらった。

味はほとんどわからない。目の前の美人と会話できるこの異空間に

ふわふわと浮ついた時間が過ぎていった。


それきっかけで、彼女とは連絡先を交換し、つながりができた。


「おまたせ。乗っていくかい?」


「え!? すごい車!!」


あのいかめしい高級外車も彼女に披露することができた。

いつしか俺たちはどちらかが言うまでもなくだんだんと距離を深め恋人となった。


「欲しいものサービス、ばんざーーい!!」


これは明らかにあのサービスの影響だろう。

願えばどんなものだって手に入るに違いない。


「ねぇ、私、ほしいものがあるの」


「なにかな? 島?」


「指輪」


「ふふ、そんなものでいいのかい。1ヶ月待ってくれたまえよ」


「大丈夫なの? あなたの仕事って、お刺身の下に

 大根のなんだかよくわからないフサフサを敷く仕事でしょ?」


「君が願うものはどんなものだって手に入れてみせるさ」

「好き!」


彼女の前でいきまいた俺には欲しいものサービスがある。

神棚に飾ってある欲しいものサービスの広告に手を合わせた。


「どうか! 指輪を!! いい感じの指輪をください!!」


しっかりと願ったので必ず手に入るはずだ。

来月が楽しみでならない。


来月、仕事の同僚と飲みに行く機会ができた。


「なんか2人で飲みに行くのって久しぶりだな」


「そうね」


「でもなんでこんなこじゃれたバーなんだ?

 そら、俺が高級外車を乗り回しているとはいえ、

 中身はただのおっさんなんだから、こんな店じゃ気後れするよ」


「伝えるのはこの場がいいと思って」


同僚はそっと小さな箱を取り出した。

中には目を疑うようなサイズの宝石がはめられた指輪が入っていた。


「あなたが好き」


「え!? ちょっ……まっ……えええ!?」


「あなたの気持ちを聞かせてほしい」


先月願った指輪がこんな形で手に入ると思わなかった。

思えば、彼女ができたときも、スマホを経由した回り道で目的がかなえられた。


もし、この指輪を受け取れば、指輪を手にして今の彼女を失う。


しかし、すでに指輪を渡す前提で彼女には話も式場の予約もしている。


悩んだ末に出た言葉は――


「考えさせてほしい!! 1ヶ月くらい!」


なんとも男らしくない答えだった。

バーのマスターもガクッとコントのようにつまづいた。


これが欲しいものサービスのものじゃなかったとして、

注文した指輪が別口でちゃんと手に入るかもしれない。


その可能性を願って1ヶ月。

待てど暮らせど、指輪に至るようなものは届かなかった。


この指輪を受け取るかどうかしか選択肢はなかった。


「彼女も諦められないし、指輪もほしい!

 ああ、もうどうすればいいんだ! 何もかも手に入れたいのに!!」


自分の言葉にハッとさせられた。

まだ俺は来月の欲しいものサービスの品を依頼していない。


「次は、なにもかも手に入れられる力をください!!

 願ったものをその場で出現させられるような神の力を!!」


そのとき、自分の体から神にもひとしい後光が差し込み、

体の中を不思議な力で満たされていくのがわかった。


「うおおお!! こんなに早くもらえるなんて!! きたきたきたーー!」


光が消えると、俺はどんなものも作れる力を手に入れた。




そして、今。


力を引き換えに脱げなくなったサンタの服をきて、

商品のほしいものサービスの配達先へとやってきた。


「欲しいものサービスです」


「あ、どうも。……なんでサンタコス?」


「……脱げないんですよ。力を手にしてから、ずっとね。

 それに自分の力も他人のためにしか、この仕事でしか使えない……」


「何言ってるかわからないんですけど」

「いいから荷物受け取ってください」


男は俺から荷物を受け取って、その場で開けた。


「はぁ!? なんで中古のスマホなんですか!?

 僕が欲しいといったのは彼女ですよ!?」


「知ってますよ。でも直で渡したら、

 思った通りになんでももらえると調子に乗るでしょう。

 ある種、俺からの優しい警告なんですよ」


「……何言ってるんですか?」


「それじゃ、俺は次の配達先にいくんで」


荷物は渡したので、自分の力に引っ張られて次の配達先に向かう。



「欲を出し過ぎないように……」



とだけ、捨て台詞を残した。

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