3、顚末








事の顚末はこうだ。








***


草木の生い茂る、なんともうららかな日差しが差し込む森の中、僕らは目覚めた。


「ここ、どこ?」


最初にそう呟いたのは誰だったろう。

半笑い男だった気もするし、目つきの悪い女の子だったかもしれない。


僕は地面から立ち上がると、辺りを見渡した。

10人ほどの男女が各々立ったりしゃがみこんだりしている。彼らに見覚えはない。知らない顔ばかりだ。

彼らのほかには緑しか見えない。

森。深い森のようで、見渡す限り木、木、木。


こんな森、来た事ない。

ん?来た事?


そもそも僕は何でこんなところに知らない人達と一緒にいるんだ?

おかしい。明らかに何かおかしい。


「あの」


不意に声をかけられ、危うく飛び上がりそうだった。

見ると、薄い茶髪でいかにも好青年、といった風貌の男が話しかけて来た。

薄く微笑んでいる。


「は、はい?」


「すんません、急に。あの、ここがどこだか分かります?」


この男が話しかけて来たので周りの視線が僕に集まる。

それにいくぶん緊張しながら、僕はふるふると首を振った。「僕にもわからないんです」


「ですよね。おれ、なんでこんなとこで寝てたんだろう?風邪引いちゃうのに」


好青年はへらっと笑う。

風邪とかの問題なのだろうか。


「誰か、ここがどこだかわかる人いますー?」


僕の疑問なんかおかまいなしに好青年は他の人たちに問いかける。

ちょっと天然なのかな、この人。


この好青年以外の人たちも僕と同じ状態らしく、好青年の問いに応えられる者は誰もいなかった。


ひとまず、僕らは集まって簡単な自己紹介をすることにした。

あんまり得意ではないが、気を紛らすにはもってこいだ。


だけど_________






___僕らの中で自己紹介をできた者は誰ひとりいなかった。



なぜなら、僕らは自分のことを何一つ思い出せなかったからだ。


年齢、経歴だけではない。

名前すらも。



みんな文字通り頭を抱えた。


おかしい。こんな状況あり得なさすぎる。

ひとりなら、どこかに頭をぶつけてしまったんだ、と言われても納得出来る。


だが、10数人もの人間が一斉に記憶をなくすことなんてあり得るのか?


そしてこの知らない森。

なぜこんな場所に?

わからない。わからないことだらけだ。


どうすれば____と悶々としている矢先。


更なる問題が発生した。


「なんだ?この揺れ」と気づいたのは天然君だった。こういうところは敏感らしい。


最初は小さな揺れだったが、それは次第に大きくなり、

___これがバケモノの足音だと気づいたのは、もうバケモノが目視出来る距離に近づいていたときだった。



そこからは一瞬だ。


バケモノは僕らを見つけると、猛然と追いかけて来た。


記憶が全く無くても、これが逃げなくては行けない事態だと判断ぐらいはつく。

「逃げろ!」眼鏡がそう叫ぶとみんな一斉に走り出した。


こうして地獄の鬼ごっこが始まったのだった。





***




思わぬ救世主に助けられ、街に辿り着いたは良いが右も左もわからない。

何せ自分のことすらわからない有様だ。


そうこうするうちに恩人のエメラルドグリーンの瞳の青年は消えちゃうし変なおじいちゃんに尋ねられた、というところだ。

まあ、実際には老人に寄り添うように立つこの女の人に、だけど。

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僕らの掌に詰まっているのは銅貨 @mimimi1000

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