蛋白石の記憶

 ―ずっとずっと地中の深くを流れていたの。岩の隙間を縫って、幾つもの岐路を仲間たちと別れて過ぎて、圧し潰されながら過ごしていたわ。気が遠くなるような時間の話よ。何百万年よりも昔のこと……。


 人さし指に招いた神秘の精は、夏の日射しを浴びては紫のスペクトルをくゆらせる。透明な彼女の内には白い砂岩の欠片が今でもあって、美しい海の浅瀬を想起させた。


 ―お日様も海も、名前すら知る由もなかったというのに不思議なことね。乱暴に掘り出され、円く磨かれちいさな爪に留められて、あなたの指におちつくまでは……。


 何処へだってつれていってあげると、得意げに笑った気がした。


 ―流れてゆくのは得意なの、美しい結果をもたらすところへ。






(#Twitter300字ss企画 第90回 お題「流れる」/ 文字数:299字)

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300字掌編集 望灯子 @motoko

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