夜を往く舟
恋しい人と眠る寝台は夜を漂流する小舟のようだ。真夜中にふと目を醒ました娘は、肩に巻きつく恋人の逞しい腕の重みに酔いしれながらラヴェンダー色をした夢の窓辺に立っていた。
静かな時間は凪いだ寄せ波そのもので、ふたりを粛々と押し運ぶ。目的地である“朝”は確かに存在するが、自分がそこへたどりつくかの保証は無い。
対岸では懐かしい小鳥があまい誘いを歌っている。この呼吸の音を聴きながら、この体温を分け与えられながら、あの歌に呼ばれるまま道半ばで旅から降りるのもわるいことではないように、この安らぎを知ったばかりの娘は思う。
だけど、いつかは行く場所ならば、今はまだ。
自らを繋ぎ留める錨に頬をすり寄せ娘は目をとじた。
(文字数:300字)
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