いつかは夜を越えて

 雨脚がつよまっていた。

 車の窓をしきりにつたう水粒は世界の姿を曖昧にして、たかぶっていた私の神経をおちつかせた。

 厚い硝子や雨の雫や、何かを隔てて眺めて初めて、私の目と心とに映る光景はいつも、やっと一致する。それだけの障壁が常にあるのだ、私と世界には。そして私とあなたにも。

 朝なのに薄暗い車中で、泣き腫らした私の目に確かなものは、隣に座るあなたの横顔と、蛍光色が描くセブンセグメントの数字だけだ。

 十二時間。あなたは気難しい顔のまま、諦めたように呟いた。

 門限を二時間だけ越えて。ふたりのことを誰も知らない場所へ。そして叶う事なら少しだけ眠ろう――手を繋いで。

 住み慣れた町が遠ざかる。

 そのたび私はまた時々泣いた。





(第7回Text-Revolutions内ユーザー企画「第6回300字SSポストカードラリー」参加作品|お題「時計」|文字数:300字)

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