第7話『弾道ミサイル攻撃・受け継がれし想い』

 護衛艦〈やまと〉戦闘指揮所が慌ただしくなる。

 弾道ミサイル攻撃の兆候を捉えたのだ。

 艦長、砲雷長をはじめとするクルーが各々の席に着き、機器を操作する。


「──来ました! 吉林省通化基地に多数の熱源を探知!」

「信号パターンは!?」


「──〈ベテルギウス〉と合致しています……! ミサイルは数時間後に発射される模様!」


     *    *


「(アリス……あなたの思い、受け継ぐから……!)」

 混乱する状況の中、ミュラは決意を固めていた。

 それは──


「──よく聞いて! これから皆を転移させるわ!」

 叫んだミュラにバシスが驚く。

「ミュラ!? ……お前!」


 ……かつて〈箱庭〉を救うため命を投げ出したアリス。それと同じ決断をミュラは下した。


「駄目だ! これは……〈方舟〉の皆が背負うべきものだ」

 バシスは顔を上げ、ミュラに訴える。

「いや、〈方舟〉だけじゃない!!」

 割って入ったのは荒垣だ。


「──全員で、撃つ!!」


 荒垣は毅然と言い放った。

「直ちに市ヶ谷に破壊措置命令を伝えろ」

 荒垣が決然と命じる。

「付近を航行中の船舶に退避を!」

 宏一が命令を下す。

「艦長、すぐに戻ります!」

『了解した』

 洋祐が〈やまと〉に走る。


 皆がそれぞれの持ち場で奔走していた。


「みんな…………」

 ミュラが目頭を熱くする。

「お前ひとりの責任じゃない……全員で背負う」

 バシスの言葉に荒垣も頷いた。


     *    *


『──来ました! 中国吉林省通化基地より、4発の弾道ミサイルを確認!』

 船務士オペレーターが告げた。

「システムをBMDモードに!」

 BMD──弾道ミサイル迎撃の責任者を兼任する洋祐が命令を下す。

戦闘指揮所CIC指示の目標、SM3攻撃始め!」


 弾道ミサイルは上昇し、弧を描く……その軌道がディスプレイに表示される。


「リコメンド・ファイア! ──撃てぇっ!」

 ミサイル担当のクルーが叫んだ。


 垂直発射管VLSの天盖が開き、オレンジの火炎を吹き上げる。

 火炎と共に迎撃ミサイル──SM3がせり上がり、高空へと飛翔していく……


『SM3発射、正常飛行──!』


 今やミサイルは宇宙空間へ到達した…… 

 ミサイル先端部から円筒形状のキネティック弾頭が分離し、姿勢制御スラスターを吹かす。


『……命中インターセプトまで10秒……8、7、6、5、4、3──スタンバイ! マークインターセプト!!』

 戦闘指揮所中央スクリーンに赤外線カメラの映像が届く。青の背景を朱の火球が焦がした。


『本艦のSM3、目標アルファ、ブラボー、チャーリー、デルタを撃破──!!』

『──弾道ミサイル、全弾撃墜!!!!』


「よし!」

「やった!!」

 皆、歓喜の渦に包まれた。

 洋祐は乗員らと肩を叩きあう。



「見える、アリス? ……この世界は守られたよ」

 ミュラは涙ぐみながら言った。


     *    *


 無限に広がる宇宙空間……恒河沙の光。

 恒星から惑星が生まれ、惑星は海と緑に、あまねく生命に祝福された。

 生命の樹に純愛宿り、紡がれゆく──……


 太古の記憶。

 悠遠の神代から続く生命の営み──

 

 そして今、新たなる創世の神話が刻まれた。









 《 新日本神話 第一部 【新日本神話:序】  》────完────


 


 


 

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新日本神話:序 外山康平@紅蓮 @2677

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