第三章【革命篇】

第6話『火之神、悪魔の挑戦』

 西暦二〇二二年──

 日本と異世界〈方舟〉が接触。


 内閣総理大臣岸本勇雄は対方舟外交での国民の信を問うため衆議院解散総選挙に打って出た。

 国民の関心は高く、戦後最高の投票率を記録。

 自主憲政党・公民党の連立与党、そして日本改新党が躍進。議席の多数勢力を占めた。

 政府与党は閣議決定されていた方舟関連法案を提出、衆参本会議で可決、成立した。


 第二次岸本内閣にて荒垣は方舟担当大臣を兼任。

 〈方舟〉は内閣府、特事対の所管となった。


     *    *


 太陽が照る西ノ島……

 調印式典は挙行された。


 白いテーブルクロスが敷かれた机に岸本とバシスがつき、調印証書に署名する。

 両首脳は握手し、証書を掲げる。

 マスコミがフラッシュを炊いた。


 ここに、日方友好条約が成立したのだった。



  調印式典に続いて、文化交流イベントが始まる。

 西村美咲にしむらみさきらのライブだ。


 日本をイメージした艶やかな楽曲が小気味良い演奏と共に披露される。

 美咲の透き通るような歌声が響く。


 列席していた岸本と荒垣、そしてバシス、ミュラも拍手する。

 荒垣が洋祐に賛辞を贈る。

「なかなかじゃないか、君の彼女さん。選んで正解だったな」

 洋祐は一礼し応じた。


     *    *


 護衛艦〈やまと〉は西ノ島に係留されていた。

 戦闘指揮所CICには当直の船務士オペレーターらが詰め、警戒にあたっていた。


「艦長、これをご覧ください」

 船務士のひとりがモニターを操作し長瀬佑都ながせゆうと一等海佐を呼ぶ。

「……ステージ周辺に熱源反応……?」

 長瀬の脳裏に電撃が走る。

 思い出したのは数年前──砲雷長として〈やまと〉に乗り込んでいた時の事。

「──すぐに特事対に連絡を!」

 

 戦闘指揮所中央スクリーンには【 信号パターン:無人宇宙船墜落事故 】と表示されていた……



 岸本、荒垣にSPが駆け寄り耳打ちする。

「……何!?」

「総理はこちらへ──」


 SPが岸本を避難させようとした時──


 ステージが閃光に包まれた。光の粒子が人影を形成し、人影の完成と共に霧消する。

 ……現れたのは、燃えるような緋色の瞳を宿した老爺だった。


「──デューゴス!!?」

 ミュラが叫ぶ。

「……な、何!?」

 荒垣ら閣僚が目を見開く。

「あれが……『デューゴス』…………!??」

「久しぶりだな……太陽因子の王よ」

 デューゴスは不敵な笑みを浮かべ、再び光の粒子に包まれる……

 ……烈火鮮血の緋眼の青年へと姿を変えた。


「──美咲!!」

 洋祐がステージに走り、美咲をかばう。

 

「……まさか忌々しき太陽因子の皇国がふたつも揃うとはな」

 デューゴスはほくそ笑む。 

「……お前は、誰だ!?」

 荒垣が問いただす。

「邪神デューゴスの肉体は仮初めの姿、俺は火之神カグツチだ──数年前はよくも邪魔してくれたな」

 ……数年前の無人宇宙船墜落事故では外部からのハッキングと独自の熱源反応パターンが特事対から報告されていた……

「まさか……ベテルギウス落下事故は……!?」

 火之神は高笑いした。

「……そんな…………」

 ミュラが後ずさりする。


 火之神は両手を天に掲げ、叫ぶ。

「──太陽因子を持つ国よ、共に滅びるがいい!」

 再び閃光に包まれ、火之神は消えた……


「何が起こるんだ……!?」

 荒垣が一筋の汗を垂らす。

 洋祐のスマートフォンに着信が入る。護衛艦〈やまと〉からのものだった。

「──はい、東城です! ……え!?」

 


 〈やまと〉戦闘指揮所で長瀬がインカムを押さえながら、切迫した様子で告げる。


『……間違いない! 偵察衛星からの情報では、中国吉林省弾道ミサイル基地に動きがある────!』


     *    *

 

 天蓋が開き、爆炎が吹き上がる。

 中距離弾道ミサイルが天に放たれた。


 烈火鮮血の瞳を輝かせ、火之神は嗤った──……

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