第5話『希望の地・日方首脳会談』
特事対──内閣府特定事案対策統括本部は、ヤマタノオロチ討伐作戦を機に設置された組織だ。
荒垣の盟友にして元内閣官房長官、現日本改新党代表の
荒垣が本部長、副本部長には医学博士・内閣官房参与の
特事対は二〇一五年の無人宇宙船墜落事故に際し再び参集し、米軍と共に調査にあたった。しかしその原因は不明とされた……
* *
朝焼けに照らされながら要人輸送用ヘリコプターが疾走し、海原に飛沫を立てる。
〈やまと〉後部甲板では飛行科クルーがヘリを誘導する。
ヘリは着艦し、中から荒垣らが降りてくる。
数名の幹部自衛官が荒垣らを出迎え、敬礼する。
「お待ちしておりました、荒垣大臣。詳しくは中で」
士官室入口には衛士ふたりが立っていた。
荒垣らの姿を認め、敬礼する。彼の見知った顔があった。
「おや……確か君は東城司令官の……」
「はい。東城洋祐です。父がお世話になっております」
「いや。俺の方こそ助けられているよ」
いよいよ対面の時──
荒垣らは襟元を整え、息を吐く。
もうひとりの衛士がドアを開ける……
席についていたのは、華美な軍服を身に纏った銀髪緋眼の青年。そして髭をたくわえた老人、それから獣耳の少年だった。
「お待たせしました。日本国防衛大臣、元首相の荒垣です。特派大使としてやって参りました」
「〈方舟〉摂政のバシス大公だ。こちらは侍従長のローデウスと諜報尚書のイナバ」
荒垣の挨拶に銀髪緋眼の青年が応じた。
双方は向かいあうように席につく。
日本国政府対異世界。
歴史的な会談が開始された──
* *
会談は進む……
「……『太陽因子』ですか……」
高原が腕を組み、唸る。
「ああ、精霊魔法の根幹を成すエレメントだ。それを求めて俺たちはやってきた」
バシスが応じた。
彼は語る……
「この世界が〈箱庭〉から〈方舟〉となり、先王アリスを喪ってから、太陽因子の濃度が低下しつつある。太陽因子を持つアリスの生まれ変わりを探す政策──バシス・ドクトリンを俺たちは掲げている」
「それで日本に……」
荒垣が顎に手をやる。
「ああ、アリスが導いたのだろう……」
太陽因子を基軸とする精霊魔法の異世界〈方舟〉──
太陽神天照大御神を伊勢に祀る日本。
その邂逅は果たして必然か──
* *
〈方舟〉王都──
幾千の臣民が城壁を見上げる。精霊族、獣人族をはじめ多種多様な種族が集まっていた。
「ミュラ女王陛下、バシス大公殿下、ご入来!」
ロストが臣民に告げ、場は盛り上がりを見せる。
観客の熱狂をバシスが右手を上げて制した。
ミュラとバシスが目線で頷き、彼は前に出る。
「──親愛なる〈方舟〉臣民諸君! ここが希望の地! 太陽因子の秘めたる皇国『日本』だ! 俺たちはバシス・ドクトリンを掲げ、先王アリスを必ず見つけだそう! 二度とデューゴスの侵略を許さない強い国を作ろう!」
万歳、万歳と臣民らが叫ぶ。
熱狂を背にミュラとバシスは宮殿へ戻った。
* *
数日後……
首相官邸、内閣総理大臣執務室には岸本以下関係閣僚が揃い、特事対からの報告を受けていた。
「彼らは精霊族と名乗っています。……エルフとでも言うんですかな? 簡易検査でも地球人とのDNAの相違が見られました」
医学博士でもある高原が資料を出す。岸本は眼鏡をかけ直し興味深そうに見つめた。
「……これで地球外の文明であることが確実になった訳ですね」
「人口は五万人程度。政体は君主制、議会として各地の領主、首長が出席する元老院があるとのことです」
続いて荒垣が報告する。
「現在ミュラ女王が執務不能となっており、バシス大公が政務を代行しています。その原因が邪神『デューゴス』による攻撃だと──」
「デューゴス……?」
「詳しくは〈方舟〉側も把握していないようです。唯一の手がかりが王のみ閲覧が許される古文書の記述で……」
岸本は顎に手をやる。
「……まあ今考えても仕方がないでしょう。ところで立花大臣、国民の様子は?」
「はい……インターネット、SNSを中心に国民に情報が知れ渡っているようです」
国家公安委員長を兼任する立花が応じた。
「分かりました、明日私が記者会見しましょう」
* *
翌日。
日本公共放送はじめマスコミ各局は岸本内閣総理大臣の記者会見を伝えていた。
岸本が国旗に一礼し、壇上に上がる。
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【 NKHニュース速報:日本国政府 異世界文明と接触 】
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『……先日、内閣府特定事案対策統括本部は、西ノ島に現れた異世界文明〈方舟〉と接触しました。摂政バシス大公と会談が行われ、友好条約の締結を閣議決定しました。国民の皆様には情報を伏せていたこと、謝罪いたします──』
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