第4話『ファーストコンタクト』

 東京、首相官邸──


 西ノ島の人工物出現の報を受け、内閣危機管理監を室長とする官邸連絡室(直後、官邸対策室に改組)が設置、関係閣僚が招集された。


「総理入ります」

 スタッフ全員が立ち上がり、岸本きしもと内閣総理大臣を迎える。


 続いて防衛大臣・内閣府特定事態対策統括本部〈特事対〉本部長、荒垣健あらがきたけるが入室する。


「危機管理監、状況の説明をお願いします」

「はい。海上保安庁からの報告によれば、西ノ島に大規模な人工物の出現を確認!」

 危機管理センターの中央スクリーンが空撮映像に切り替わる。

 城壁を中心とする建造物、家屋の規則的な配置が確認された。

「都市か!?」

「あんな短時間で……?」

 どよめく一同。

「荒垣大臣、自衛隊の緊急対応策はどうなっていますか?」

「既に護衛艦〈やまと〉他一隻が調査名目で出港、現在〈特事対〉メンバーを招集しています」

 

     *    *


 海上自衛隊横須賀自衛艦隊司令部には東城宏一とうじょうこういち海将が詰め、指揮を執っていた。


 幕僚のひとりが宏一に告げる。

「市ヶ谷より連絡。統合幕僚監部から海上警備行動の指示がありました」

「案外早かったな……〈やまと〉と繋げ」

 ディスプレイが切り替わる。

『こちら〈やまと〉艦長、長瀬ながせ一等海佐』

「自衛艦隊司令官の東城だ。目標の様子は?」

 宏一はヘッドセットをつけながら訊ねる。

『周辺に複数隻の艦船を確認しています。いずれも軍艦と思われます──』



 護衛艦〈やまと〉は立入検査部署を発令。

 立入検査隊指揮官、東城洋祐とうじょうようすけ三等海尉は緊張した面持ちで漆黒の装備を整える。


 艦長も戦闘指揮所CICに入り、〈やまと〉は戦闘態勢に移行した。


「──本艦に近づく目標探知! 右20度」

 船務士オペレーターが切迫した様子で告げる。

「艦橋! 視認できるか?」

 航海科員が双眼鏡を覗く。

「見えました。これは──」

 

 近づくに連れ、その全貌が明らかとなる。

 近世の軍艦を思わせる鋼鉄の船だった。

 灰色の艦体。煙突からは煙を吐き、左右両舷にはカノン砲が突き出す。


 軍艦は〈やまと〉に並走してくる。

『──機関停止。立入検査隊は接触に備えよ』

 双方が足を止める。

 洋祐は拳銃を携え、後部甲板に出た。


 甲板上に現れたのは、華美な衣装に身を包んだ青年。

 銀髪緋眼。藍色を基調とする軍服に金の飾紐、黒のマントを身に纏う……


「──太陽因子の国よ。ようこそ〈方舟〉へ。俺は摂政バシス大公だ」


 ……西暦二〇二二年。異世界〈方舟〉と日本国が接触した瞬間だった。


     *    *

 

 夕陽が首相官邸を照らす……

 日も暮れる頃、官邸対策室に知らせは届いた。


 荒垣が岸本に報告する。

「軍艦と遭遇するも武力衝突には至らず、バシス大公と名乗る王族が〈やまと〉乗組員と接触した模様」

「軍艦の国籍は?」

「……『異世界〈方舟〉』だと言っています」


 未知の文明とのファーストコンタクト。その事実に一同がどよめく。


「……バシス大公はこちらとの会談を要請しています。既に特事対メンバーを招集しました」

「行ってくれますか。荒垣大臣」

「無論です。特事対本部長として」

 

 荒垣は防衛省の黒ジャケットを羽織り、対策室を後にした。



 官邸屋上には要人輸送用ヘリコプターがブレードを回しながら待機していた。


 スタッフに礼を言い、特事対メンバーと共に荒垣はヘリに乗り込む。

「──出してくれ!」

 ブレードの回転数が上がり、ヘリは離陸した。


     *    *

 

 あの時──


「いつかまた、未来で会いましょう……」

 アリスはバシスに転移術をかけ、彼女は微笑んだ。


 アリスとバシスは相思相愛だったのだ。


「(ここがお前の言う、太陽因子の楽園なのか……?)」

 鋼鉄艦〈ウォーリア〉の貴賓室からバシスは外を眺める。


 月明かりが海原を静かに照らしていた……

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