砂漠海賊
「こんな上等な魔力を持つやつがまだいたなんてなあ」
「美味そうな匂いがするぜ…なあ、シュランゲ様!味見してもいいかい?」
蛇の怪物―シュランゲ達は砂漠地帯まで辿り着いた所で身を隠していた。
「ふざけるんじゃないわよ、それは私が捕まえた獲物なの。綺麗でしょう?羽くらいなら食べてもいいけど、身体に触ったら殺すわよ」
そういうとシュランゲは気を失っているラインハイトの翼を無理矢理ちぎり始めた。
ブチブチと嫌な音がするが、特殊な催眠のせいかラインハイトが眼を覚ます様子はない。
「ああ…滴る血液も綺麗だわ」
ぼとりとちぎった翼を部下達に投げつけると、傷口から流れ出す鮮血に舌を這わせ始めた。
「なんて美味しいのかしら…血液だけでこの魔力量…食べてしまえばどんな魔力が手に入るんでしょうね…」
翼を千切られたことによってシュルシュルと鳥の様な脚が人間の足に変わって行く。
翼に群がる部下達は美味そうに貪りながらジロジロとラインハイトを見た。
「血液も美味そうだなあ…」
「肌も白くて綺麗だ。食い破ってやりたい」
「…あげないわよ」
「いや、これは願望だ。実際にどうこうしようって訳じゃない。許してくれ」
「どうだか‥‥」
シュランゲの余りの眼光に怯んだ部下は目を逸らして言い訳をし始める。一見諦めた様に見えたが、その夜、事件は起こったのであった。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ…」
未だに目を覚ます様子のないラインハイトを担いで、部下の男数名は寝床を離れ砂漠の奥へと向かっていた。いつもであればシュランゲが目を光らせ辺りを警戒しているところだが、ラインハイトの血液の副作用が働いたらしい。その夜は眠りに落ちていた。
「持ち出しちまった…シュランゲ様の獲物を…」
シュランゲへの恐れから後悔を滲ませる男達だったが、あまりの美味そうな匂いに耐えきれない様子でラインハイトを地面に転がす。
「ハアッ、ハアッ、ああ、もう我慢できねえ。せめて舐めるだけ…」
「あ、おいっ、もっと目立たない所まで行かないと…」
どうやら部下達の中に肉を食べなくても血を啜る事によって魔力を得られるという知識があるものがいたらしく、万が一シュランゲにバレることのない様に持ち出したのだ。だがまだここはどこからも丸見えの砂漠のど真ん中である。
「こんな美味そうな匂いぷんぷんさせやがって、我慢できねえよ!」
男の一人がラインハイトの首筋に顔を埋めたその時だった。
「おいおい。俺の縄張りで何をおっぱじめよーとしてんだ。」
突如現れた大きな影と共に降りかかる声。ゴーレムに乗り、頬に傷跡がある男は月夜を背にこちらを見下ろしていた。
「しかも気絶してる女の子に?趣味悪いねえ」
「だ、誰だ!」
「俺様を知らねーでこの地に踏み込むとは、とんだ馬鹿もいたもんだ。まあそうだな、村人からは
「赤い巨人‥‥?!お前、砂漠海賊のシェメッシュか?!」
砂漠海賊の長、シェメッシュはその名を轟かせた大海賊だった。しかしそれは50年も前の話だ。当時砂漠に赤い巨人が出るという噂は村中に知れ渡っていたが、見るものも少なくなり一時期噂も途絶えた。だがここ数年でまた目撃者が出た為、シェメッシュの亡霊では?と話題になっていた。それが―
「シェメッシュの孫のミドゥバルだ。お前達の罪、水‥‥いや、砂に流してやろう。」
ミドゥバルがそういうと、辺り一面は蟻地獄のように渦を巻き始める。
「おっと、女の子はこちらへ貰うぜ。」
すかさずラインハイトを自身の乗っているゴーレムへ引き寄せると、途端に渦は早くなり男達は砂の海へ溺れた。
「ガッ‥‥ガボッ、助け‥‥」
「女の子には紳士じゃないといけないぜー、諸君。」
完全に男達が砂に飲まれたのを確認して、ふとラインハイトの方を見る。そして先程までの澄ました表情とは一変し、ムフフと口元を抑えて笑った。
「こんな砂漠にこのレベルの美女が来たなんて前代未聞だぜ!かわいいっ!少し怪我をしている様だが‥‥エルフかな。まあ良い、嫁に迎えよう!」
ここで一度確認しておくが、ラインハイトは男である。
どうやらミドゥバルは遠くから見たラインハイトを女と間違えて一目惚れしたらしい。助ける為というよりは寧ろ横取りをする為に近づいてきた様なものだった。
ミドゥバルが仲間達がどんちゃん騒ぎする住処へと戻ると、途端にそこかしこから歓声があがる。
「おいおい隊長!その別嬪さんはどうしたんだよ?!」
「独り占めなんてズルいぜ!皆で楽しもうや!」
男所帯で女っ気のない一味は突然の美女(※男)に我先にと群がる。
「うるせーな、さっきそこで襲われてるのを助けたんだよ。手ぇ出すなよ!今日は俺と共寝をする!」
ヒュー!と歓声が上がる中、クールに決まったな、とニヤつくとミドゥバルはラインハイトを担ぎそのまま自分の寝床へ移動した。
自分の横にラインハイトを寝せると、まじまじと顔を見ながらニヤつく。
「いや、まじでかわいいなあ‥‥」
そして頰をさすると隣に寝転んだ。
「ハア‥‥喋るとどんななんだろう」
仲間達は共寝をするという事はいかがわしい事の1つや2つあるのでは?とこっそりミドゥバルの寝床を覗いていたが、ただただうっとりとラインハイトを見つめる隊長に早々に飽きて解散した。
「隊長ってああいうとこあるよな‥‥」
「そうだな‥‥」
そうなのである。ミドゥバルは大して興味のない女にはすぐ手を出す癖して、惚れた相手には奥手なタイプなのだった。そして呪いなのか魔術なのか、ラインハイトは一向に目を覚まさないままである。
「別に下心がある訳では無いが、手を握っても良いかい?レディー」
誰に聞かれている訳でもないが大きな独り言を呟くと、ミドゥバルはそっとラインハイトの手を握る。下心丸出しではあったが、惚れた相手に同意もなく手を出す気はない。ジッとラインハイトを眺めながらため息をつく。
「早く起きねーかな‥‥」
いかがわしいことはしていないが、勝手に連れ去った上の共寝だ。多分クヌートが見ていればすでにバラバラにされていたかもしれない。
ライへの跡 鳩麦 @htmgymmt
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