魔力の枯渇
「い、今の音はなんですか?!」
音に驚き2階へかけ登って来たローゼマリーの父親は、上を見上げて口をあんぐりさせた。
「屋根が‥‥アルトナーさん、これは‥‥一体‥‥これももしかすると怪物の仕業ですか?」
「‥‥いいえお父さん。私がやったのよ。」
怪物の仕業、という父親に対して表情を固くしたローゼマリーが、意を決して父親にそう告げた。広げた魔導書、散らばった薬草や花はそのままそこにある。詳しく説明しなくても多少の知識があれば見ればわかるはずだ。
「‥‥。」
クヌートは黙って様子を伺っていたが、父親は突然突拍子もないことを口にした。
「いいや、ローミがそんなこと出来るはずがない!疑うのは忍びないが、アルトナーさん、もしかするとアンタが怪物の手先じゃないんですか?」
「えっ?」
「そういえば先程の翼の方はどちらへ?お仲間も殺してしまったのでは?ローミも襲おうとしてる所に私が来てしまったから脅して嘘をつかせているのでしょう?!」
「お、お父さん‥‥襲うだなんてそんな‥‥!やめてよ!」
父親はラインハイトがいないことに気づき
、一気に捲し立てた。
突然思いもよらぬ言葉を投げかけられてクヌートは目を丸くする。そして対照的に、襲うという言葉を曲解したローゼマリーは何故だか照れたような表情で父親の肩をバシバシと叩いていた。父親に「ローミ‥‥お前性格変わったか?」と呆れられる始末だ。
「‥‥ハッ!と、とにかく!クヌート様は悪者じゃないわ!私の魔法をみせてあげる!」
「おいローゼマリー、それはやめた方が―」
先程見た通り開花したローゼマリーの魔力は凄まじいものだったが、開花して間もない為、クヌートは本人が制御出来ていないように感じていた。ここでもう一度魔法を使おうものなら、今度は屋根の崩壊だけではおさまらない気がする。
「何か吹き込まれたのか?ローミ!普段から俺に隠れて本を読んだり草花を集めているとは思っていたが…」
「吹き込まれてなんかいないわ!これは私の意思で…ちょっと待って、お父さん、なんか変じゃない?普段は俺なんて言わないわ…いつも“私”って言ってるよね…?」
途端に父親の顔が険しくなる。
ローゼマリーが疑問を投げかけた事によって気づいたが、そういえばおかしい。依頼主である父親は、先程の怪物との対面から家に戻るまでの間、確かに家にいたはずだった。
クヌートは負傷していたし、ラインハイトが攫われてしまった事で焦っていた為特に気にしていなかったが、部屋の明かりはそのままで人の気配はなかったように感じた。
「貴様、何者だ…」
「お父さんの気配じゃない…」
構える二人に、父親の形をしていたそれはメキメキと音を立てて変形し始めた。
角が生えた大男、
「バレてしまっては仕方がない。ローゼマリー、その目玉、頂こう!」
「…!」
「させるか!」
クヌートはすかさず大剣で防御したが、それよりも前にローゼマリーの持っていたピアスが光り輝き、結界となった。
簡易的な物であったはずのそれは、どうやらローゼマリーの魔力と共鳴して強力なものになっているらしい。
「ラインハイトの…!」
「何っ…?!!」
怯んだ鬼にクヌートが斬りかかるが、鬼の右腕を掠めただけだった。図体はでかいが案外素早い動きのようだ。
「ぐっ…!」
「チッ、…まだ浅いか」
「援護します!クヌート様、‥‥
ローゼマリーの炎魔法が大剣に宿り、炎がボウッと燃え上がりながら龍のように天を舞う。
「ローゼマリー、感謝する!‥‥くらえ!」
クヌートは声を荒らげると鬼の胸に十字に切り込む。炎が激しく燃え上がり、傷跡に暫く火柱を残した。
「ぐうっ‥‥」
鬼が倒れドシーン!と大きな音と地響きがする。
倒れた鬼は少しニヤついた表情だった。
「く‥‥くく‥‥半鳥人やお前の魔力を狙っているのは俺だけじゃない‥‥ゴホッ‥‥せいぜい‥‥気をつけるんだな‥‥」
「‥‥」
どうやら下級の鬼だったらしい。手負いのクヌートと能力が発現したばかりのローゼマリーにはありがたい事だった。だがこの鬼の言葉が引っかかる。
「ラインハイトが狙われてる‥‥?」
「ああ‥‥」
不安そうなローゼマリーに、お前の魔力も‥‥と言いかけたが辞めておくことにした。
「そ、そうだ!お父さんは‥‥」
見ると先程襲ってきた鬼は煙とともに消滅し、父親の姿に戻っていた。胸の傷跡が痛々しい。
「治療しなくては‥‥!」
「ローゼマリー、お前も分かっていると思うが‥‥これはもうお前の父親ではない‥‥」
「‥‥‥‥」
ローゼマリーの話によると、今思えば、確かに姿は父親のそれであったが、クヌートやラインハイトに出逢う前から鬼にすり変わっており、ローゼマリーを喰う計画を立てていた様だった。一人称も父親と同じく私にしていたが、先程はボロが出たようだ。より多くの魔力を必要とするため、魔力が爆発する時を待っていたのだ。
そんな時、半鳥人が騎士と共に怪物退治をやっているとの噂を聴き、まずは半鳥人を捉えてやろうと思ったのかもしれない。
「‥‥急ぎましょう、クヌート様」
「ああ、もう村は危ないのかもしれないな‥‥」
家の少し離れた所に繋がれていた馬を引き、二人は砂漠へと向かい始めた。
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