第28話 才女、新種と戦う《 I 》
突如として現れた黒い塊はかなり大きかった。
Ωみたいな?
「サイちゃん。映画って見るの?」
「私だって人並みに娯楽は楽しんでたわよ?」
アニメ映画を好んで見ていた訳ではないけども、ジ○リの映画くらいは見てたって不思議じゃないでしょう?
とはいえ、私は世代的に風の谷の事情は知らないのだけども……
「これはまた難儀な相手ね」
「相澤は災害級を倒してるんだろ?」
来斗の質問に周りが「脳筋」「脳筋聖女」「聖女って一体……」とか言ってるのが非常に気になるけども、突っ込んでいる暇はなさそうね。
私は近くにいた恵子ちゃんを抱えて後ろに跳躍する。
それに合わせて周りも木の上や後方へ退避した。
直後に木を無理やり折るけたたましい音と共に触手のような何かが振り下ろされた。
あと一歩、退避が遅れたら今頃ぺちゃんこになってたでしょうね。
「来斗。さっきの質問だけど、前回は軍の試作兵器である魔導砲を四発打ち込んでいるのよ。
私はたまたまトドメを刺しただけなのよね……」
「いや、トドメを刺せるだけでも十分凄いだろ」
「参考までに伺いますが、どんな魔法で倒したのですか?」
珍しいことにマイアちゃんが尋ねてくる。
今まで無視されてたし、無視し返してもよかったのだけど、ちょっと子供じみた嫌がらせっぽいし、いいとこ見せるチャンスのような気もする。
「単に水と風の精霊魔法を使っただけよ?」
「水と風? ありえません。
水は水を操るだけでなく、神聖魔法である治癒魔法とも関係の深い癒しの魔法でもあるのですよ?
それを攻撃になんて聞いたことがありません」
「それはそうでしょうね。どちらも攻撃に直接使ったわけではないわ。
私はあくまで雷が発生する環境を魔法で作っただけなんだから」
「雷? そんな魔法」
「この世界は科学もないんだな」
私の説明でいち早く理解したのは来斗だった。
興味を持ったのは鎮だ。
彼も私と同じでどちらかというと文系らしいから、理系の内容は苦手なのかも知れないわね。
「どういうこと?」
「鎮は雷の発生する原理は?」
「イマイチ分からないなぁ……」
「雲の中の粒子同士が擦れあって発生した静電気を溜め込んだものが雷だ。
つまり、水の精霊魔法で水蒸気の操作を、風の精霊魔法で粒子の操作を行うことで、擬似的に落雷という自然現象を起こしたというわけだ」
「正解よ」
工場チームはよく分かってないみたいだけど、ゼロから話すには彼らには知識がなさ過ぎる。
今の状況では取り敢えず納得してもらうしかない。
「つまり、雷系統の魔法を作ったわけではないってことだよね?」
「そういうこと。だから、ライトノベルや漫画みたいに体に纏うことも出来なければ、雷速○動みたいなことも出来ないわ」
そういったものも出来ると面白かったのだけどね。
残念。
最初の攻撃があってから攻撃が止んだ。
正確に言えば一つ一つの動きが遅いらしく、私たちが話している間、触手を戻そうとはしているみたいなのだけども、遅すぎて全く動いているようには見えない。
「一度、距離を取るか?」
「どうしましょうか? ただ、何か事情があって遅いだけで、普通に動くとそこそこ早く動くんじゃないかしら?」
「確かに、突然現れましたからね。脳筋の言うことも考えられます」
マイアちゃん……さらりと毒を吐くのやめてくれないかしら?
「あれ、近づいて切っても大丈夫だと思うか?」
「何かヤバそうだよねぇ……。盾持ってるし先に僕が行ってみようか?」
来斗は少し迷ったみたいだけど、結局は盾持ちというのに説得され先手を鎮に譲った。
来斗としては先手を譲りたくなかったというよりも、年下に危険な敵への一番槍を与えたくなかったというのが本音なのでしょうね。
チャラそうに見えて何だかんだで面倒見がいいもの。
「取り敢えず、物理攻撃が通じるか試すから魔法は身体強化だけで行くね。
来斗さんほど威力は出ないから弾かれたらバトンタッチかな?」
「魔法は私が試せばいいしね」
「それもそうだな。よし、鎮。頼んだぞ」
「任せて!」
鎮が体に魔力を巡らせる。
マントが淡く輝いているのは、やはり精霊の加護が付与されているからなんでしょうね。
ちなみに、武装はそれなりのものを渡されているそうなんだけども、霊刀に匹敵するほどの業物という訳ではないらしい。
鎮が踏み込むと同時に消える。
「疾い!?」
私の風の精霊魔法による加速よりも、さらに速い速度で鎮が魔物に迫る。
脇をすり抜けるように一撃を見舞うが、まるで鋼鉄を斬りつけたかのような甲高い音を残して傷一つつかない。
鎮もそれで止まることはせず、周りの木々を蹴り下から上へ、上から下へと立体的に複数箇所に斬撃を見舞う。
しかし、魔物は身じろぎ一つしなかった。
「硬いね。僕の力じゃ物理攻撃は効かなそうだ」
などと、鎮は言うけども、彼の身体強化を合わせれば、物理専門の来斗に比べて力が弱いのであって、私たちと比べれば圧倒的に強い。
つまり、この時点で恵子ちゃんの矢や、工場組のハルバートは一切効かないということ。
現時点でこちらの戦力が半分削がれたと言っても過言ではない。
「どうする? 私が魔法を使うか、来斗が殴りかかるか」
「あのなぁ……確かに大剣は力技みたいなところがあるが、一応ちゃんと技術があるんだぞ?
脳筋聖女とか呼ばれてる相澤と一緒にしないでくれ」
「ん?」
「悪かった。俺が悪かったからその目はやめてくれ」
来斗の目が真剣な目つきに変わる。
剣に魔力が集中し、それに呼応するように全身を魔力が包む。
鎮はマントが魔法の補助をしていたけども、来斗は剣が魔法の補助をするみたいね。
しかも、身体強化特化で。
「行くぞ」
そう宣言した瞬間に消える。
そこには鎮と違い地面を
来斗の早さは私は目で追えたけど、他は無理みたいね。
まぁ、原理が分からないけど、鎮ほど早くはなさそうな感じ。
ただ、身体強化しているとはいえ、身体能力だけであんな速度出るのかしら?
私も辛うじて届くか届かないくらいの早さしか出せないのだけども……
来斗は勢いそのまま更に踏み込んで刺突を繰り出す。
しかし、通る気配はない。
方向転換をして上に跳躍。
直後、左手から何か紐のようなものが伸び、地面に少し浮き上がっていた木の根に絡まって来斗は空中で方向転換する。
そして、そのまま落ちるように魔物へ迫る。
全力の一撃が放たれた。
「――っ!?」
しかし、傷一つ付かない。
手応えがないなんてものじゃない。
傷の一つでも付けばまだ、やりようはある。
傷付いた所に寸分違わず攻撃をし続ければいい。
だけど、全力の一撃で傷の付かない場所を攻撃し続けたところで傷が付くこともないでしょうね。
何せ、魔物にはゆっくりではあるけども再生能力があるらしいから。
それに対し、来斗は反動が一斉に来たらしく、痺れたのか剣を持つ手がおぼつかない。
「硬すぎんだろ!」
「取り敢えず、こっちに来なさい」
捻挫まではいかないにしても、それなりの損傷が見受けられたからそのまま治癒魔法をかける。
まだ痺れは残っているみたいだけど痛みは引いたみたい。
「すまん」
「気にしないで。これが私の仕事だから。
さて、残るは私ね」
黒い銃をホルスターから出す。
ミカヅチとの模擬戦でしたように抑え込んでいた霊気を解放する。
一瞬の静寂の後に目視できるほどの霊気が私から溢れ出す。
「な、何事ですか!?」
噂程度にしか私を知らない工場組は化け物を見るかのように私を見る。
召喚組は「まぁ、相澤だし?」とでも言わんばかりに諦めたような表情をしている。
反応は気に入らないけども、全力を叩き込まないと倒せるかは分からない。
手加減抜きの一撃を与えねば――
そのまま銃に魔力を込めれば、火花が散らんとばかりに高速回転をするシリンダー。
心なしか銃を持つ手がより一層に発光しているようにも見える。
そのまま魔力を撃ち出す。
放った一撃は地面を刳り、木を消滅させ魔物に近づく。
「――っ!」
一瞬、魔物がこっちを見た気がした。
轟音とともに魔法が弾ける。
黒煙が上がる中、その先には黒い影。
「嘘でしょ?」
魔物は無傷のままそこに居た。
どうやら、今回ばかりはそう簡単に終わらないみたいだ。
――
あとがき
そういえば、前回のあとがきで書き忘れたのですが、小説家になろう版(ここ数話はカクヨム版と殆ど違いありませんが)の方のPV数が累計5万PVを超えました。
もともとは思いつきだけで書き始めた作品だったので、ここまで見てもらえると思っていませんでした。
本当に皆様に感謝感謝です。
とはいえ、先行配信中のなろう版がずっと更新停止状態なので、来年の春前には更新を再開したいところです。
続いて、近況報告ですが、異世界ばかりの私が唯一現代ファンタジーで公開している「黄昏の巫女と愚かな剣聖」が現時点(2019/12/09 10:40)で現代ファンタジー部門週間ランキング75位にランクインしております。
まさかの100位以内……びっくり仰天です(汗)
前回一番いい成績を収めた本作もせいぜい異世界ファンタジー部門で120位(一時期108位)くらいだったので、嬉しい限りです。
まだ、読んだことないよ!って方は是非、こちらの評価もお願い致します。
・黄昏の巫女と愚かな剣聖
https://kakuyomu.jp/works/1177354054887698763
前回は18時一斉更新致しましたが、カクヨムコン期間中はどの作品も16時に更新(毎日ではないけども)しますので、ご確認頂ければと思います。
才女の異世界開拓記(カクヨム版) 初仁岬 @UihitoMisaki
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