鉄器の風鈴

韮崎旭

鉄器の風鈴

 風鈴がどこかで鳴っている。今日も視覚がおかしくなるような炎天下で街はあった。

 私が死んだ夏のはじまりも、ちょうど今みたいな蝉の声がした。そして頭痛がした。プールサイドには漢詩文の腐乱死体が、鞄の中にはアマガエルの残響が、葉桜の木陰にはアメリカシロヒトリが、掌には白く焼けた銅のような鬱屈と郷愁。


「帰らないと」


 ヒグラシが美しい雑木林を素足で歩くとプラントオパールで脚の皮膚がずたずたになった。教科書を積乱雲に投げつけ、クリームソーダに踏切を沈めて。つかのまの浮遊感ののちに私は私でなくなった。

 

 このガードレールももう見ないな。このカーブミラーともお別れだ。国道6号線の錆びついた寝言を聞きながら、潰れて機能しない喉が喚いた。

「どうして私は死にきれないんだ!!」

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鉄器の風鈴 韮崎旭 @nakaimaizumi

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