第5話 さっそく出かけよう、と思った矢先に



 さっそく町の外に出ようとしたんだけど、そこでストップがかかった。


 原因は僕の装備が貧弱すぎるという点。


 仕方がない。

 お金が無かったから、買いそろえられなかったんだ。


「目的地がちと遠いからのう、装備はしっかりと整えておくべきじゃろう」

「で、でも、僕お金本当にないですよ」

「すでにしっておるわ。ええい、そこまで説明せんと理解できぬか? 童が特別に見繕ってやると言っておるのじゃ。文句を言わず、付いて参れ」

「えぇぇ」


 そこまで親切にしてくれると逆に不思議でたまらない。

 どうしてアルシャードさんは、こんな雑魚精霊使いだなんて呼ばれている僕に優しくしてくれるんだろう。


 僕はアルシャードさんに合った事もないし、一度も一緒に行動した事が無いのに。


 ずんずんと先に行ってしまう赤髪の女性の背中を慌てて追いかけながら、声をかける。


「あ、あのアルシャードさん!」

「アルじゃ」

「あ、アルさん。何か勘違いしてませんか、僕とアルさんって、昨日あったばかりですよね。ぼっ、僕は、皆から雑魚精霊使いだって呼ばれてて……今まで誰からもパーティーを組んでもらえたことがないんです。だからっ、宿を提供してくれたり、朝食を奢ってくれたり、武器とか防具とかを買ってもらえるようなそんな立派な人じゃないんです!」


 正直にそこまで伝えると、アルさんがいきなり立ち止まった。

 必死にその背中を追いかけていた僕はいきなり止まることができずに、いきおいよくその背中にぶつかってしまったのだ。


「知らないとな。主からそんな事を言われると、分かっていたつもりでおったが……ちと答えるのう」


 背中越しだから、表情は見えないけど、アルさんの声音は少しだけ悲しそうに聞こえた。


 もしかして、どこかで会った事あるんだろうか。

 でも、思い出せない。

 アルさんみたいな凄腕の剣士だったら、絶対に忘れない自信があるのに。


「絶対に忘れない自信があるのに、おかしいなぁ……、とでも思ってそうな顔だの。主は本当に嘘が付けん性格じゃな。童の知っている時から、変わらぬ」


 悩んでたら、振り返ったアルさんがこちらを見ていた。

 その表情は全く普通で、先ほどの悲しそうな声音が嘘みたいに思えた。


「雑魚精霊使いか……、黙っておれば良かったものを、馬鹿正直に喋りおって」

「あ、あの……?」

「予定変更じゃ、目的地も変更じゃ、武器防具を見繕うのもあとじゃ」

「え、ええっ!」


 もしかして僕の悪評を聞いて幻滅したから、パーティーを解散してくれって言うつもりなんじゃ……。


 だけど、アルさんはにやりと笑いながらこう言った。


「主を見下しておる連中にひと泡ふかせてやるわ。そやつらに目に物をみせてくれる」

「え、ええー……」


 どうしてそういう展開になるんだろう。



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貧乏精霊使いと暴君な剣士 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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