第4話 昼食食べよう、ただし奢りで
昨日はあんまり眠れなかった。
アルシャードさんみたいな綺麗な人と一緒の部屋になるなんて、思ってもみなかったし、同じ部屋の空気を吸ってるってだけでも緊張しちゃうのに、安らかに眠れなんて無理に決まってる。
「うぅ……」
そういうわけだから、僕は重い瞼をこすりながら、朝食の席に着いたのだった。
当然一緒の部屋で寝起きしていたのだから、待ち合わせる必要はなかった。
装備を整えて、必要な物を用意して、二人で宿を出た。
その時の姿を何人かの冒険者に見られて、その人たちにぎょっとした顔をされたり、訝し気な顔をされたり、嫉妬の視線を向けられたりしたけど、深く考えるとずっと気になりそうだったから、忘れる様に頑張った。
それで話はもどるけど、僕は例によって一文無しだ。
当然、朝食を食べる為のお金も持っているわけはなく……。
「これ、サイラ。そう情けない顔をするでない、お主にそんな顔をされると、共にいる童の品位まで落ちるじゃろうが」
「す、すいません」
僕はアルシャードさんに朝食まで奢ってもらう事になったのだ。
「はぁい、お待たせしました。ドード鳥の炒め物です。そっちの僕には根菜のサラダね」
「うむ」
「ありがとうございます」
自慢じゃないが、空腹を耐え抜く自信はある。
別にちょっと、ご飯を抜いたぐらいでへばる様な生活はしていなかったのだが、アルシャードさんに押し切られてしまった。
目の前には美味しそうな料理が並んでいる。
「うむ、うまい。この店の用意する料理は中々のレベルじゃな」
「い、いただきます」
久しぶりのまともな、料理されている食べ物。
しかも調味料の使われた料理だ。
ごくりと唾をのみ込んで、食器を突きたてる。
節約生活の影響でか、朝からお肉を食べて消化しきれるような体ではないためサラダにしたが、これが思いのほか新鮮でおいしかった。
生の野菜をつかった野菜は、あまり出回っていない。
寄生虫の心配があるし、鮮度の管理がたいへんなので、あまりメニューに載せたがらないのだ。
けれど、目の前のご飯はそれらの心配がまったく必要なさそうな品物だ。
みずみずしくてシャキシャキしてる。
一体どうやって保存してるんだろう。
「美味しいです」
「で、あろう? 童の目に狂いはなかったという事じゃな」
素直な感想を口にすれば、アルシャードさんは上機嫌そうな様子で、口元をほころばせる。
黙っていると、格好良さそうなお姉さんって感じだし、最初に話しかけてきた時は怖そうとも思ったのに、何だか今は子供っぽく見えてしまう。
アルシャードさんは不思議な人だ。
出会ってまだ一日も立ってないはずなのに、不思議とその一挙一動に惹きつけられてしまう。
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