復活 -そして新たな有真怜美へ-

「どうもこんにちは~神で~す」


自ら神と名乗る人物が現れた。

ただ、それは見た目は女性。美人で、しかもいろんなところが大きくて、私のイメージしていた髪や髭が生えに生えまくったお爺さんの見た目をした神とは似ても似つかなかった。

…こめかみ辺りだけ異様に長いっちゃ長いけど。

もしかしてあれか?美人を起用して教団に引き込もうっていうカルト教団の釣りか?

…でもここ死後の世界だよね?流石に故人を入信させようなんて思わないでしょ。


ってことはもしかして――


本物!?


「あの…その、急で申し訳なかったのですが…その…落ち着いてください」


いやいやいや落ち着けるわけないでしょ。

だって目の前に正真正銘の神様がいるんだよ。

もう足だって生まれたての小鹿のように震えて今にも倒れそうだし。


と思ったその時。私は本当に倒れてしまった。

「うわぁ」と情けない声を出して、前方に。


顔面が先に着地した。床は予想以上に柔らかかった。

まるで雲の上に乗っているようだった。

だけど私の身体はどこからどう見ても斜め45度に傾いていた。


床。というか斜面を触ってみる。体育で使うバレーボールのように球体のものが左右両方の手のひらで確認することができた。

それをためらいもなく掴んでみる。やわらかい。とにかくやわらかい。なんて言ったらいいんだろうか。この世の幸せをすべてを限界まで煮詰めたものを詰め込んだような。わかりにくいが、本当にすごい。すべてを投げ出してでも揉んでいたい。

あと、濃すぎず薄すぎない感じに香水の香りがする。


これはまさしく天国だ。物理的に来ているけど。


「あの…そろそろよろしいですか…?」

「駄目でふぅ~もうちょっと~あと300年くらい~」


冗談で自称神の言葉を振り切る。

アメリカンジョークならぬ、ヘブンジョークといったところだろうか。ここ天国だろうし。


「えっと…ちょっと流石に恥ずかしいので…」


ミミズのようにいやらしく動かし、球体を揉みまくっていた私の指が止まる。

殺気を一早く察知した頭は恐る恐る顔を上げた。


そこには恥じらいを露にした自称神の顔があった。

そして私が無我夢中で揉んでいた球体はその自称神の胸――直球で言ってしまえば、おっぱいだった。

遅れて事態を把握した身体は天敵に遭ったエビの如く素早く身を引いた。


それにしてもあのおっぱいは正直羨ましい。

私なんて生きてた頃は毎週彼氏に揉んでもらってたのに、どう見てもAカップだけど、測りどきによればBかもしれないくらいしか成長していない。

ここがどこかよりもまずはあの巨乳幸せの塊を手に入れる裏技を聞きたいところだ。


「す、すいませんでした!」


だけど口から出たのは謝礼の言葉だった。人間としては当たり前のことなんだけどね。

既に先に成仏した脳に反して、脊髄はまだ健在だったため、正確な行動ができた。えらいぞ。


「あ、いえ、大丈夫です。…少し恥ずかしかったですが」


散々胸を揉みまくった私を許してくれただと…!?

間違いない。この人は正真正銘の神だ。

おっぱいがほぼ証明してくれたが、性格で確信することができた。


「え、えっと…ここはどこなんですか?」


神と分かったところで本題に入る。

相手が相手なだけにおっぱいのことについてはお蔵入りにせざるを得なくなってしまったが、それはひとまずおいておくことにする。


「ここは『天国』と『地獄』の狭間。つまり死後の住処を決めるとこってとこかな~」


あ、まだ天国ではなかったのね…。

ということは私はこれから天国、はたまた地獄に行くのか。

彼はどっちに行ったんだろうか。ここに来る前の気持ちになった。

とにかく彼が心配だ。

悪いがこんなとこで主婦みたく長々と立ち話をしている暇はない。

そう思い身体を左に向ける。


「でもあなたは幸運よ。だって『人生をやり直すチャンス』を手に入れたんだもの」


――人生をやり直す

その言葉だけが脳で繰り返し再生された。

私は現世に復帰できるってこと?


「さあ、選びなさい。復活するのか。それとも復活せずに天国か地獄へ行くのか」


脳の整理が完了しないまま意思決定することになった。

だけど答えはもう決まっていた。


「お願いします。私に人生をやり直させてください」


心の天秤は間違いなく復活に傾いていた。

私は復活の意思を伝える。


とはいえ言葉はもう少し選んでから言えばよかったと思う。

これじゃあ私が何か悪いことをしたみたいじゃないか。


「わかりました。では、素敵な人生を歩んでくださいね。狭間ここから見守ってますよ」


神様が優しく微笑む。多分今まで見てきた人の笑顔中で最高の笑顔だ。

心のどこかで、やはりここにいたい。もっと言ってしまえば神様この人に膝枕でもされながら永遠に過ごしたい。そんな気持ちが芽生えていた。

…私はこの30分足らずで変態になってしまっている気がする。


妄想にさよならを告げ、現実に帰宅する。

私は現世に戻らねばならないのだ。

そして彼と再会して幸せな家庭を築くのだ。

それが他でもない私の夢なのだ。


「でも…」


邪心を捨てた私は神様の方を見る。

神様が深刻そうな顔をして私を一直線に見つめる。

…もしかして邪心。バレてましたか?


「運命を変えられるのはあなただけです。他の人間や環境には一切小細工は施してないので、前世のままで行ったらまたあなたは死んでしまいますよ」


どうやら邪心を悟られたわけではなかったようだ。

話を聞く限り私の今の記憶はどうやら来世に持ち越されるらしい。

なら話は早い。私たちが死ぬ前に通報して犯人を犯行未遂に終わらせればいい。

無理だったら諦めて神様のお膝で暮らそう。

なんとなく先行きが見えてきた。これでとりあえずはバッチリだ。


「それから最後に」


神様が顔を近づけて言う。

近い近い近い!!!そんなに近づいたらもっと惚れてしまうよ。

ほのかにアロマのいい香りが私の嗅覚を釘付けにした。

だが、神様の目は真剣だった。少し怖い。


「一応言っておきます。」


さっきまでふわふわした声色だったが、表情同様に真剣なトーンに変わっていた。


「絶対に転生前の事を他人に伝えないでください」


なんとなく察していたことではあるが、改めて落胆する。

だって前世のことが分かれば、自然災害とかの被害最小限に抑えられるじゃん。

過去は変えてはいけない。いろんなアニメとかで聞いてきたことではあるが、やってみたかった気持ちは復活の事実を聞いてから表立って出ていた。

だって、一般人に与えられたただ一つの特権だし。


「わかりました。では、復活。お願いします」

「了解なり~」


神様は笑顔に戻った。いつ見ても素敵な笑顔だ。

――だけどこの笑顔とももうお別れだ。

次いつお目見えできるかわからない笑顔を目に焼き付ける。


「あ、言い忘れていましたが、狭間ここでの出来事は重要事項以外は記憶から消しておきますね。もちろん私のことも」


えっ!?そこ消しちゃうの…?

私としては神様の笑顔が何よりの重要事項なんですが…。


でも大丈夫だ。

私は今からそれ以上の幸福を手に入れに行くんだから。


意識がだんだん遠のいていく。

目の前にいるはずの神様も徐々にぼやけて原型を失った。


「――がんばってね。怜美ちゃん」


最後の最後で神様が私の名前を口に出す。

…やっぱりバレてたのかな。邪心。


でもありがとう。神様。

私、頑張るよ。

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そこに神はいた。 かいわれ @kaiwarenovel

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