第3話 なんやかんやの第3話


そう。

自転車を漕いだのは小学校以来だった……。

でも、それはやっぱり小学校以来で……。

これ以上先の話はないんだけど、とにかく小学校以来なんだよな……。


「なーにやってんじゃ貴様あ!」


「え?」


俺は目を開けると、そこは小さな一室だった。その一室は汚く、ゴミが散乱し、またあたりには漫画やゲームも散乱していた。俺に対して怒ったのは艶々の長い髪を床に垂れ流していた幼女だった。非常にラフな格好でTシャツにホットパンツを履いていた。

彼女は俺のことを睨みつけ、頬っぺたを膨らませていた。


「貴様あ!どういうつもりでわしの部屋にいるんじゃ!」


「え?誰?君?」


「わしはこの世界の神様じゃ!」


「か、神!?あ、もしかして!オーナーさん!?田中さんから、会って来いって言われたんだけど、君だったんだ!こんなに小さいのによく頑張ってるんだね。よしよし」


俺は頭を撫でると、その幼女は恥ずかしがった。しばらくしてから、俺の手を振り払って、怒って言った。


「貴様!何者じゃ!もしや、新しい代行のものかの!?」


「うん。そうだよー。君、名前は?」


 俺はそう言って、近づいた。幼女なのに良い匂い。ハスハス。


「なんじゃ、その馴れ馴れしい喋り方は!よるな!こっちによるな!」


「照れちゃって可愛いなぁ。名前、なんて言うの?」


「わしは……ラミじゃ」


「へぇ!変わった名前だね!外人さん?」


ラミの顔をよく見ると、目はクリクリしていて、目の色は青色だった。俺はこの幼女は日本人ではないことは一目見て理解した。


「外人?何を言っておるのじゃ!それよりも、貴様、神様代行は何回目じゃ?」


「え?実は初めて初めてなんだよね〜」


「なぬっ!?初めてじゃと!?」


「うん。なんで?」


「なんでもクソもあるか!わしの世界は貴様みたいな新人に任せられるほど、甘くはないんじゃ。それ帰った帰った。わしはゲームの続きをしないといけないからな」


 ラミは俺のことを無視して、ゲームを始めた。俺はラミがゲームするのを横に座って見ることにした。ラミは横に座ると嫌な顔をしたが、そのままゲームをしていた。しばらく、ずっとそのままでいた。


「なんじゃ、さっきから何を見ておる。帰れと言ったはずじゃが?」


「まぁまぁ、せっかく来たんだし、いいじゃん」


「ちっ。気が済んだら帰んじゃぞ。まったく」


ラミは不満そうに言って、ゲームをしていた。俺はそのままラミのプレイしていたゲームを見始めた。ラミがやっていたゲームはRPGのゲームであった。ラミのプレイングを見ていると、どうやら彼女は雑にストーリーを進めるタイプで、道中のキャラに話しかけたり、宝箱をゲットしたりしないようだった。

俺はそのプレイングを見ていて、ボス戦に挑戦するラミが失敗しているのを見た。しばらくしてから、何回かボスに負けて悔しそうにしていたので、俺は言った。


「あのさ、さっきからボスに負けてるけど、ちゃんとレベリングしてから行った方がいいと思うよ。あと、宝箱のアイテムは必ずとった方がいいよ。たいていはこういう宝箱はボスに対する有効打が入ってたりするから」


「なっ!?そ、そんなことわかっておるわい!」


「ほんとかぁ?」


「あ、当たり前じゃ!」


「じゃあ、もう一回挑戦してみようか」


 ラミは俺の行った通りに、キャラクターのレベリングから始め、街の人に声をかけて、宝箱も回収した。

すると、先ほどとは打って変わって、すんなりとクリアすることに成功した。

ラミはクリアすると嬉しそうな顔をしていた。


「よかったね、その調子でやっていけば最後のボスまでいけるよ!今クリアしたのまだチュートリアルだからまだまだ楽しめるね!」


「おぬし……」


「ん?」


「ゲームが得意なのか?」


「うん。ていうか、得意っていうよりも好きなだけで、いろいろなゲームをプレイしてたんだ。だからある程度のコツとかはわかるよ」


「ほお〜う!」


 ラミは目をキラキラさせて聞いていた。そして続けて俺にこんなことを尋ねてきた。


「おぬし、ゲームをやってきたと言っていたが、もしや地球のものか?あそこはゲーマーが多いと聞くが」


「ああ、そうだよ!」


「そうじゃったか、異世界ではゲームは珍しくてな。金持ちの遊びなのじゃよ。皆はゲームなんてしてる暇はなく生きることに必死なのじゃ」


「そうなんだ。ていうか、ラミはゲームばっかりやってるけど、神様って世界のことを管理するんじゃないの?」


「まぁ、そうなんじゃが、わしは多くの異世界を持っていてな。つまり、多くの異世界の神を掛け持っているのじゃよ。だから、全部の異世界の面倒を見ている暇もなくてじゃな」


「なるほどね。でも、忙しいって言う割にはゲームやってるんだね。ていうかさ、思ったんだけど」


「なんじゃ」


「ラミのゲームやってるプレイイング見てたら、異世界の管理もこんな感じでやってるのかなとか思ったんだよね。レベリングとか宝箱を怠るってことは、人々の成長や、貧富の差も見てないんだろうなって」


「……」


ラミは表情を引き攣らせて俺の方をじっと見ていた。俺はなんでそんな表情をしているのか、わからないままラミに尋ねた。


「どうしたの?」


「おぬし、意外ときついことを言う奴じゃな……時に、おぬしよ。口の聞き方には気をつけることじゃな。わしは寛容じゃから、まだ何もしないが、そこらの異世界じゃすぐに襲ってくるやつもおる。これから仕事をするんだったら、それくらいは気を付けておくんじゃな」


「そっか……って、俺に仕事任せてくれるの!?」


「まぁ、一回任せて見てもよかろう。ゲームのコツも教えてくれたことだしの」


「よっしゃあ!」


「だが、油断はよくないぞ。決して楽な仕事ではないのじゃ。それに初めてと言うではないか。だから、本当は任せるのは心配なのじゃが、まぁ田中の紹介ということじゃ。さてと」


そう言って、ラミは部屋にあった箪笥を開け始めた。

そして、それを開けた向こうには、衣服ではなく、草原が広がっていた。俺は驚いたが、同時にワクワクした。あの時の高まりは、今までにないほど新鮮なものだった。


「さぁ。おぬしが今から行くのは、異世界ファイルナンバー4のリングラードという世界じゃ。十分に気を付けるのじゃぞ」


「はい!じゃあ、ゲームクリア頑張ってな!」


「おう。あ、忘れておった。おぬしにお守りをやろう」


ラミは、ゲームセンターでよく見るメダルコインを手渡して来た。俺は不思議だったが、それを素直に受け取った。


「これがお守り?ゲーセンのコインじゃん」


「まぁ持っておけ。あと街についたら、神ラミの代行で来たといえば、街のものは話を聞いてくれるはずじゃ。そうすれば、寝床にも食物にも困らんじゃろう」


 へぇ。ラミってそんなにすごい神(オーナー)なんだなぁ。


「わかった!色々とありがとう!あ、あと二回目になってしまうんだけど、ゲームクリア頑張って!」


ラミは口角を上げて、その後、一度、目をつぶってから俺に言った。


「ああ。おぬしも、クリア頑張るのじゃぞ」


 俺はそのまま草原を歩き始めた。振り向くと、ラミは俺が見えなくなるまで、箪笥を閉めないでいたらしく、俺は手を振り続けた。ラミは見えなくなると、箪笥を閉めた。箪笥は次第に消えて行き、俺はまた歩き始めた。


——ちょうどいい心地よい風。見渡す限りの草原。美味しい空気。


俺には全てが新鮮に思えた。

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