死が一人を分かつまで:誰か僕を殺してくれませんか、そして僕は魔王になった

@koshibaya

第1話 旅立ち

 君がこの世界に居なくなったと同時に、この世界は平和になった。


 君がこの世界に居なくなってもう47年、それでもまだ君の顔は思い出せる。


 会いたいよ、何度思ったことだろう、君と守ったこの世界に、もう君はいない、君のいない世界に、僕が生きる意味はない。


 それでも僕は死ねないから、ただ今日も生きている。


 君と一緒に戦った仲間も、半分は寿命で死んだ、それでも僕は死ねないから、君といたあの日と同じ姿で、今日もただ生きている。


 会いたいよ、さっき思ったばかりなのに、君に会いたいよ。


 誰か僕を殺してくれませんか・・・




 人類は魔王の手によって、滅びの一途をたどっていた。


 人類の数が減るほど、魔王の勢力は増していく、だが打倒魔王の旗の元、人類は他の種族と手を取り合い。生者(セイジャ)と言う、連合軍を立ち上げる、そして生きる為に必死で抗った。


 戦いは激しさを増し、徐々に疲弊していく生者達、そこにまだ若い二人の人間が現れた、二人はガッチリ手を繋いでいた、回りからは決して離れることはないと言う、二人の意思が感じられた。


 自分を賢者の弟子と名乗る二人の男女、男はこの世界で最強の攻撃魔術師だと言った、女はこの世で最強の回復魔術師だと言う。


 二人の言葉はすぐに証明された。



 強いのだ、この男は物凄く強かった、魔族を端から攻撃魔法で消していく、生者達を苦しめてきた、魔王の側近達も、男の前では何もできずに消えていった。


 女の回復魔法も凄かった、傷つき倒れた者を、端から治していった、死んでしまった者は流石に無理だったようだが、もう死ぬと諦められた者達まで回復させた。


 二人の男女が現れてから、徐々に形勢は逆転していった。


 そして今、二人の男女と、生者でも選りすぐりの強者達の前に、魔王が立っていた。


「まさか人間にこれほどの者が現れるとはな」


 魔王はもう立っているのもやっとという感じだ、そこまで追い込んだのは、言うまでもなく二人の男女だ。


「だが、ただでは死なぬ、貴様等を呪って我は死のう」


 呪い?この期に及んで何を言っているんだ、男は思った。


 男は自分の愛した女を見る、女も自分の愛した男を見た。


「さらばだ、強き二人の人間よ、❝死が一人を分かつまで❞苦しむがよい」


 魔王はそう言い残し、足元から黒い砂になり消えていった。


 生者の者達が歓声をあげる。


 男と女も抱き合い喜ぶ、だが、男が抱きしめたはずの女は、その場に居なかった。


 胸に抱いたはずの女の温もりは、一瞬で熱を冷まし、わずかな温もりだけを残し女は消えた。


 男は必死に女を探した、来る日も来る日も女を探し続けた、一月が立ち、一年が過ぎても女は見つからなかった。


 女は見つからないが、あることが分かった、男は傷を負ってもすぐに治ってしまうのだ、それは男が女を見つけれられない苛立ちから、石の壁を思いきり殴りつけた時にわかった。


 最強の攻撃魔術師でも体は人間だ、石を殴れば傷がつくし血も流す。


 だが男には痛みがない、血どころか擦り傷さえ作らない自分の体、男は色々試してみた、火に焼かれても、焼けたそばから回復していく、水に重りをつけて沈んでも、いつまで経っても苦しくならない、一時間で水の中に居るのを男はやめた。


 鋭い刃物で自分の腕を切ってみたこともある、刃物が入ったところから瞬時に傷がふさがっていく、まるで腕をすり抜けたように、男は思った、自分は傷つくことがないと、まるで自分の中に女がいて、中から自分を守っているようだと、そして男は思い出す、魔王の残した一言を。


「死が一人を分かつまで」


 死が、一人を、分かつ。



 男はそれから、自分を殺してくれる者を探す旅に出る。


 誰か僕を殺してくれませんか、自分が死んだらどうなるのかはわからない、でもただ一目でいい、君の顔が見たい、それだけを望み男は一人、旅をする。


 男は何年も何年も、自分を殺せる者を探した、気付くと女が消えてから、47年経っていた、自分の知っていた者は一人、また一人と旅立って逝った。


 男はまた一つ気付く、自分は老いることもないと、回りの人は年老いていくのに、自分だけは君がいた日と変わらない、あの日のまま、回りだけが変わっていく。


 そして男は旅をする事をやめた、そして思った、自分を知る人間が誰もいなくなった時、世間が、世界が僕の事を忘れた時、僕が魔王になろうと、魔王になれば誰かが僕を殺しに来る、誰かが僕を殺してくれるかもしれない。


 それまで僕は石になろう、何も感じず、何も考えない、何も言わない石になろう。



 僕の願いはただ一つ、僕を殺してください、君に会うために、誰か僕を殺してくれませんか・・・



「君に会いたいよレイン」・・・


・・・「私もよ、スコール」


 胸の奥から、君の声が聞こえた気がした・・・




 それから81年、もう僕を知る者はいないだろう、僕は深い深い森の中の大木の横で、石となり暮らした、何も飲まず、何も食べなかった僕は、今日も元気です。


 それはいつもと変わらない日常のはずだった、これまで81年間、誰も来なかった森の中に、一人の少年が逃げ込んできた。


 誰かに追われているようだった、少年は僕を見つけると言った。


「助けてください、お願いします」


 整てやればキレイであろう金髪の髪を、泥だらけにし、鼻水と涙で綺麗な顔はだいなしだ。


「僕は石だから無理だよ、ごめんね」


 僕は少年を助ける気はなかった、目の前で殺されても、石には感情がないのだから、何も感じるはずがない、そう思っていた。


「いたぞぉガキはこっちだぁ」


 魔族の残党の子孫だろうか、それともこの81年の間に新しい何かが生まれたのだろうか、少年を追ってきたのは見たことのない魔物が8体。


 僕は魔族であろう追っ手を見た時、自分に呪いをかけた魔王の顔を思い出した。


 少年は僕の後ろに隠れ動けないでいる。


「お願いします、助けてください、僕何でもしますから、助けてください」


 少年が僕の背中に触れる手が、僕の中の何かに触れた、そして僕は少年の方を振り返り言った。


「君は僕を殺すことができるかい?」


 少年は何を言われているのかわからないと言った様子だ。


「今じゃなくてもいい、必ず僕を殺すと約束してくれるかい?」


「何で僕があなたを・・・」


「これは僕の願いなんだ、僕を殺してほしい」


「わかりません、わかりませんが、あなたが望むなら、努力はします」


「うん、努力してくれればいいや、約束だよ」


「はいっ」


 少年が、はいっ、そう言った時には魔族らしい輩は消失した。


「名前は」


「僕はサンです、助けていただきありがとうございます」


 僕とこの少年の出会いは運命だったのだろうか、雨の後の太陽の様な笑顔で少年は笑った。


 少年の村は襲われ、みんな殺されたらしい、少年は一人逃がされ森の中に入ったと言う、僕はこの少年を育てることにした、今日出会ったばかりの少年を。


 サン、君は僕を殺すため、僕は君に殺されるため、二人で旅に出よう。


 サン、後に勇者と呼ばれる少年と、スコール、後に魔王と呼ばれる青年の、奇妙な二人旅。



 この後、二人はどうなったのか、それはまだわからない・・・


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