100万人の看守たち

ちびまるフォイ

インターネット監獄

「囚人番号10008番。君はこれからSNS収監となる」


「な、なんですか?」


「これから君はこのスマホで常にSNSに投稿していく。

 フォロワーはすでに100万人超えているアカウントだ」


「なんでそんなめんどくさいことをしなくちゃいけないんですか。

 こっちだって毎日監獄の日常業務もさせられてるっていうのに」


「外に出られる、と言われてもか?」


「行きます!! やります!!」


囚人は腕が天に向かって飛びそうなくらいぴっしりと手を上げた。


「刑期が終わるまで、君はSNS囚人となる。

 1回でも投稿しなければ違反とみなし、独房にたたき戻す」


「違反するわけないじゃないですか!」


囚人はスマホを渡されて外の世界へと放たれた。

久しぶりに浴びる太陽の光を感じているとすぐにアラームが鳴った。


「もう投稿タイミングか、意外と早いな」


投稿は必ず写真付きで行う必要がある。

しかも、時間がわかるようにリアルタイムのもの。


100万人のフォロワーが囚人のアカウントを監視し、

少しでも違反や投稿漏れを見つけて、看守に報告すると報酬がもらえる。


時計を画面に入れた自撮り画像を投稿した。


「これでよし、と。さて外に出れたわけだし遊ぶぞ!!」


いくら監視されているといっても所詮はネット上。

常に見られているわけではない。

囚人は禁止されているパチンコ店に入った。


「ははは。やったぜ、本当にネットだけの監視みたいだ。

 隠れて監視員に尾行されてなくて安心したぜ。

 こんな姿とても見せられないからな」


ピピピピッ


アラームが鳴った。

囚人は煙草を消して慌ててパチンコ店から出る。


「はいチーズ」


パチンコやたばこが映らないようお決まりの自撮りを行って店に戻る。

先ほどまで座っていた場所には知らない男が座っていた。


「おい! なにやってんだコラ! そこは俺の台だぞ!」


「なんだよぉ、席を離れたお前が悪いだろぉ」

「ふざけんな!!」


こぶしを振り上げたところで手が止まった。

妙に冷静になった頭で、この暴力で独房に連れ戻されると悟った。


もめごとを起こせば時間を使ってしまう。投稿できなくなる。

逃げたとしても、SNS投稿しなくちゃいけないから逃げられない。


「い、いや……なんでもねぇよ……」


囚人はスマホの投稿アラームにせかされるように去っていった。


外に出れさえすれば自由になれると踏んでいたが、

あまりに細切れすぎる投稿頻度に悪さもできやしない。


悩んだ囚人はかつての子分を呼びつけた。


「アニキ、刑期4000年だったのに外に出れたんですか?」


「ああ、だがSNSっていう首輪付きでな。

 そこでだ、弟ぶんのお前に頼みたいことがある」


「あっしにできることなら」


囚人はスマホをファミレスのテーブルの上に置いた。


「俺は今、SNS収監になっていて、定期的に投稿しなきゃムショに戻される。

 これじゃ何一つ悪いことはできねぇから、お前が代わりに投稿してほしい」


「それはいいですがアニキ、あっしだとバレますぜ」


「安心しろ。手は打ってある」


囚人は看守から渡されたスマホと全く同じものをテーブルに置いた。


「俺が撮りためた画像を、俺の文面で、お前がそのスマホで投稿しろ」


「なるほど、遠隔投稿ってやつですね」


「さも俺がリアルタイムに投稿したように見せることができる。

 なにかあったら電話しろ」


「そのアリバイができた時間、アニキはどうするんで?」

「ちょっと野暮用がな」


囚人は子分と別れて作戦用の道具を集めに向かった。

子分は律儀に準備されていた画像を定期的に投稿していく。


「アニキ、SNSって楽しいですね。ハマりそうです。

 フォロワーに喜んでもらえるのってうれしいですね」


「そりゃよかった。引き続き頼むぜ」


定期的に囚人からもリアルタイムの画像を子分に送り、

すべてが嘘にならないよう真実を織り交ぜながらことを運んでいく。


そして決行日。


「よし、この強盗で保釈金さえ手にれ入れば後の祭りだ。

 作戦は念入りに練ったし、準備もばっちり。失敗しようがないぜ!」


囚人は警報を切ってから銀行へと襲撃した。


「全員床に伏せろ!! 命が惜しくなかったら、金をよこせ!!」


銀行は大騒ぎになったが銃声で黙らせると、金を要求した。


「全員動くんじゃねぇぞ。

 少しでも手を下げたり電話しようとしたら自分の命はないと思え」


計画通りに金を回収した囚人は最後に銀行内を煙でいっぱいにして視界をふさいだ。

あとは逃げるだけ。


「よっしゃあ! 作戦大成功だ!!」


と、喜ぶ囚人の前に何十人もの警察が外を囲んでいた。


「うそ……なんで!? 警報は切ったはずなのに!!」


あまりに早すぎる警察の到着に囚人はパニックになった。

まるで作戦をすべて知っていたような速さだった。


「まさか、渡されたスマホに盗聴機能が!?

 それとも、俺の替玉がバレていたのか!?」


「そんな機能はない。我々はただ――」


警察が話しはじめるのを遮るように囚人の電話が鳴った。


「もしもし……」




『アニキ、聞いてくだせぇ! あっしの投稿が100億リツイートされましたよ!

 

 あ、でも安心してくだせぇ、アニキのことは書いてません。


 ただ近所の銀行がなにか騒ぎになっているから、それを実況投稿したんス!

 いやぁ、たくさんの人があっしの話題で盛り上がるのってうれしいッスね!!』

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