幕間1 私はおなかが空いている
空腹で目が覚めた。知らない天井。
起き上がって周りを見回す。部屋で沢山の私と一緒に寝ていたことを確認する。
他の私はまだ寝ているけど、もう少ししたら目が覚めるだろう。なにせ全員私なのだから。
「おなか空いたな……」
口に出してみる。口から声が出て耳で聞こえる。それが少し不思議になる。
自分が自分で書いたブログの記事の擬人化であることは何の理由もなく理解している。記憶は無いけど自分はお母さんのおなかから生まれてきたのだと知識で理解しているのと同じ感覚だ。そこに何の嫌悪感も実感もない。
そんなブログの擬人化が実体を持っていておなかが空いてしまうというのは自分の常識的にとても不思議で、でも自分が実在していることには何の不思議もなくて。感覚と意識が一致しなくてふわふわしてしまう。
「んー……」
意味もなく喉を鳴らすように音を出す。隣で寝ていた私の頬を突いてみると同じように「んー……」と音を出した。やっぱり私なんだ。ちょっと笑ってしまう。
改めて寝ている他の私たちを見る。
知っている私、知らない私。どれも私だけど、一番太っているのが私なことに少し安心する。
ふと、真夜中目覚めた私たちを恐怖の目で見つめ、外へ出ていった本物の私の姿がフラッシュバックする。逆の立場だったら同じようになるのは間違いないけど、それでもなんだか少し寂しくなった。
これから私たちはどうなるのだろうか。このまま死ぬまでこの未来で生きていくのだろうか。それともどこかのタイミングで消えていくのだろうか。
……どちらかというと消えてしまう方が良いと思う。生きている自覚が曖昧な自分がこの未来の世界で生きていくという不安もあるし、何より本物の私の迷惑になるのは申し訳ないと思う。
玄関から扉の開く音がする。立ち上がって廊下に首を出して覗いてみると、現在の私に一番近い私が大きなコンビニ袋を持って靴を脱いでいるところだった。
最新の私がこちらを見て私に気付くと、
「あ、起きたの? 朝ごはん買ってきたから食べよっか」
と笑顔を見せてくれた。それがなんだか嬉しい。
「うんっ」と返すと「新作のおにぎりあるよ」と応えてくれる。
私にとって未来の私との会話。何でもないようなすごく変なような状況。ひと言ふた言のやり取りだけで意味もなく楽しい気分になる。美味しいご飯を食べた時みたいだ。
最新の私がガサゴソとコンビニ袋からおにぎりを取り出して手渡してくれる。当たり前だけどこれって本物の私のお金で買ってるんだよね……。ちょっとだけ申し訳なく感じる。
手に持った未来の新作のおにぎりは私の知っているコンビニおにぎりの包みよりもちょっと豪華な感じがする。包み全体がカラー印刷でとても美味しそうな写真が使われている。食べてもいないのにワクワクでテンションが上がってしまう。
そんな美味しそうなおにぎりを手に取って私はつい思ってしまった。
お昼ご飯はピザがいいなぁ。
私と私と私と私と私と私と私と私と私と私 邸 和歌 @yasiki_waka
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