あめ玉
みやふきん
第1話
以前、私はあめ玉中毒といっていいほど、手の届くところにいつもあめ玉を置いていた。口寂しいときにはすぐ口にして、一日に一袋をあけてしまうことなど、ざらだった。
結婚してから、あまりあめ玉を買わなくなった。理由はわからないけれど、欲しくなくなったからだ。そして妊娠をしてからほとんど口にしなくなった。太り過ぎてはいけないからと甘いものを極力食べないようにした。けれど時々無性に甘いものが欲しくなって、チョコレートを食べたりしていた。でもあめ玉を買うことはなかった。
出産したとき、入院先に来てくれた友人から差し入れにと金平糖とのど飴をもらった。それらを消費するのに半年以上かかった。それくらい私にとってあめ玉は必要ではなくなっていた。それ以後も自分からあめ玉を買うことはなかった。
この冬にショッピング街の抽選ではずれ賞としてあめ玉をもらった。景品を詰めるお姉さんがひとつかみ、入れてくれたあめ玉は、十数粒くらい。
夜中、授乳のために起きて、子供が寝てくれなくてイライラしていて、おまけに空腹で。何か食べたかったけれど、おっぱいの分泌に悪いからと甘いものはほとんど食べなかった。いつもは小さいおにぎりを冷蔵庫に入れていたが、その日はあめ玉しかなかった。夜中に甘いものなどとんでもなかった。でも、ふと一粒口にしてみた。もう、いいやと思って。とたんにホッとした。口の中にひろがる甘さに、気持ちがほぐれていった。たった一粒のあめ玉に救われるなんて。かなしくておかしい。でもこれでいいのかもしれなかった。
あめ玉 みやふきん @38fukin
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