二次創作『大羽由莉はスナイパーになります!』編
こちら、ミカサさん作『大羽由莉はスナイパーになります!』の二次創作です。
原作者様の許可済みですよー。
↓作品URL↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886110856
※注意点※
・原作の5章『想いの終着点』までを既読されてから閲覧推奨です。
・時系列は上記のエピソードからエピローグ?までの間にある3か月間の話です。
・元と比較してもかなりギャグ要素の強い話となっています。
以上、よろしければ、そのままスクロールどうぞ!
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それはある日の出来事であった。
「人生ゲーム、ですか?」
黒っぽい茶髪をセミロングの長さで揃えている少女──由莉は突如挙がったボードゲームの名を呟く。
もちろん、彼女は人生ゲームがどういうものなのかを知っているが、それがこの場に出て来ることに疑問を隠せないでいた。
その疑問に対して金髪の青年が答える。
「ええ、しかもこの人生ゲームは私の手作りなんです。今日は訓練の無い休暇日ですし、せっかくなので由莉さん達4人の退屈を紛らわせないかと思いまして、こうして持って来たんですよ」
金髪の青年──阿久津はニコリと女性受けの良さそうな爽やかな笑みを浮かべて説明する。
「なるほど……」
「いいんじゃない由莉ちゃん。やってみようよ」
阿久津の気遣いに納得した様子の由莉に、明るい茶髪をショートボブにしている少女──天音が彼の提案に賛同する。
「お姉さまと由莉ちゃんがやるなら、
「
さらに瓜二つの顔立ちをしている二人の少女も賛同した。
双子の彼女達──黒の長髪をツインテールに結んだ天瑠と、同じ色の髪をストレートにした璃音の二人は、瞳をワクワクで輝かせている。
4人で遊べることが楽しみで仕方がない様子が、これでもかと顔に出ている証拠だった。
「ん~、そうだね。それじゃ阿久津さん、ルールを教えてもらっていいですか?」
「ええ、いいですよ」
特に仲の良い3人が乗り気であれば、由莉に断る理由はない。
作り手だという阿久津に詳細な遊び方の解説を頼むと、彼もすぐに了承した。
~5分後~
「第1回! 人生ゲーム大会の始まりにゃーっ!」
「「「「お、オオーッ!」」」」
阿久津から一通りルールを聞いて、普通の人生ゲームと変わらないことを把握する。
訓練場の一角にボートを広げて四人で囲み、それでは始めようかというタイミングで、黒髪をボブカットの長さに整た豊満な体付きの女性がハイテンションで開始の合図を取り出した。
「優勝者にはうちからほっぺにチューしてあげるにゃ!」
「「「え……」」」
「──オエッ」
「おいちょっと約1名! なんでそんな反応したのか今から殺りあって、問い質してやってもいいんだからにゃぁっ!!?」
しかし、その際に告げられた優勝者への褒美内容に対し、由莉と天瑠と璃音の3人は思わず固まり、残った天音は嫌悪感を隠さずに短く悪態をついた。
すかさず女性は異議ありと問い質そうとするが、それを阿久津が肩に手を置いて阻止する。
「純粋にセクハラですよ音湖。それよりいつの間に来たんですか?」
「セクっ──ま、まぁいいにゃ。理由はなんか面白そうなことが起きる気配がしたからにゃ!」
呆れた表情を浮かべる阿久津の問いに対し、女性──音湖はえっへんと己の第六感を誇るようにドヤ顔を披露した。
ついでに大きな胸がフルンっと揺れる。
天音の視線に殺意が籠った。
だが、音湖は気付いていないふりをする。
「なんて才能の無駄遣いを……まぁ、見てるだけならいいでしょう」
「やったぁ♪あっくん大好きにゃ~♡」
「はぁ……」
阿久津から許可を得た音湖は、調子良くイタズラっぽい笑みを浮かべる。
一方の彼は、始まってすらいないのに疲れたような表情でため息をつく。
そんな二人を苦笑しながら眺める由莉達の元へ、もう一人の大人がやって来た。
「しかし、阿久津手製の人生ゲームか。RooTメンバーでの忘年会で遊んだことがあったな」
「あ、マスター! こんにちわ」
マスターの呼ばれた黒髪をオールバックにした男性に、由莉はパァッと表情を輝かせて挨拶をする。
「「マスター、こんにちわです!」」
由莉に続いて天瑠と璃音も挨拶をした。
対するマスターは不器用ながらも穏やかな笑みで以って返す。
「忘年会する余裕とかあったんだ……」
そして、さり気なく語られた人生ゲームの使われ方に、天音だけが密かにぼやいた。
「マスターまで……」
「音湖ではないが、由莉達が純粋に楽しむ姿を見ておこうと思ってな」
「うちもやったことありますけど、よく残ってたにゃ」
どうやら、由莉達が思っている以上に、阿久津手製の人生ゲームは有名らしい。
それをこうして自分達が楽しめることに、幾ばくか喜びを感じつつも、いよいよゲーム開始となった。
まず順番決めだが、サイコロを振って大きい目が出た順ということになっている。
その結果、由莉、璃音、天瑠、天音の順番となった。
人生ゲームの名が指す通り、子供時代と大人時代の2ステップで進行するようになっており、初期の所持金はそれぞれ五千円で、ゴールした時の所持金で順位を競う点も共通している。
「それじゃ、私からだね」
一番目となった由莉がサイコロを投げると……『6』の目が出た。
「おぉ~、順番決めの時も6だったね」
「由莉ちゃん、運が良いね!」
「璃音は次こそ6を出してみせます!」
「えへへ……」
さりげなく2回連続で6を出した由莉に、天音達が惜しみない称賛を送る。
それに照れつつも、由莉は自身の駒を6マス分進める。
「着いた。えっと……『お年玉で1万円もらった。でも親が預かったのでプラマイゼロ』…………なにこれ?」
「その文面の通りですよ」
「こんな序盤から無駄なイベントがある意味を聞いたんですけど……」
何故しょっぱなから上げて下げられたのか、由莉はぬか喜びさせられた分の怒りの眼差しを向ける。
「そうだった……これ作ったの阿久津さんなんだから、何かしら仕掛けて来るって警戒するべきだった……」
「どうしよう天瑠、璃音達何をさせられるんだろう……?」
「怖いことじゃないといいけど……」
他のプレイヤーよりただ先に進むだけでは勝てない人生ゲームにおいて、こんな無駄マスの存在は何よりの脅威であるため、それに戦慄する天音達に阿久津は頬の引き攣りを禁じ得なかった。
「失礼な……何もそんな意地の悪いイベントばかりではありませんよ」
「日頃の行いってこういうことを言うんだにゃ……」
「何か言いましたか音湖?」
「なんでもないにゃ~」
なんとも阿久津らしいトラップも程々に、ゲームは進んで行く。
自分の番となった璃音がサイコロを投げると『3』の数字が出たため、彼女はその分駒を進める。
「えっと『落とし物を交番に届けて、お礼として3千円もらった』……やった!」
「むむ、天瑠だって……えい!」
由莉のような結果に終わらず着実稼いだ璃音に対抗するように、天瑠が『4』を出す。
「ええっと『ひったくり犯を捕まえた。お礼に4千円もらった』……よし、良い感じ!」
「おぉ、二人共良いね。それじゃボクも……」
璃音以上に稼いだ天瑠の成果に、天音も乗り気になってサイコロを振る。
その結果出た『2』の数だけ駒を進めると……。
「えっと『交通事故に遭った。1回休み』か……」
結果的に何もなかった由莉以上に躓いたことで、天音のテンションがが目に見えて落ち込んだ。
「お、お姉さま……」
「り、璃音達が治療費を払いますから……」
「璃音ちゃん、天瑠ちゃん。ゲームだし、ホントに天音ちゃんが事故に遭ったわけじゃないから大丈夫だよ?」
その様子に双子がオロオロとし出す。
2人が天音のことを大事に想っている証拠故に、そこには微笑ましさが漂っていた。
そんな空気の中、1巡して自分の番となった由莉がサイコロを投げる。
「『4』だって。ええっと『ボスを別の呼び方で呼ぶ。喜んでもらえたら1万円もらえるが、機嫌を悪くさせたら5千円没収』……このボスってマスターのことですよね?」
「うっわ、出たにゃ。ホントよく自分のボスをゲームに組み込もうなんて思ったにゃ」
由莉が止まったマスは、宴会という無礼講の場でしか機能しないであろう内容だった。
この人生ゲームを経験したことのある音湖も記憶に残っていたようで、制作者である阿久津の不敬を遠回しに非難する。
「宴会用に作ったものなんで、場を盛り上げようとしたんですけれどね……」
「私は構わないがな。確か音湖からは『先生』と呼ばれたんだったか……」
「ぎゃああああっ!? ちょ、なんで覚えてるんですかにゃ!?」
そして、その非難は自分がやらされた経験から来ていたことが、マスターの口から明かされた。
まさに当時の事を思い返していたのか、音湖は顔を真っ赤にして何故忘れていなかったのかと食って掛かる。
「なんでと言われてもな……あんなに真剣な表情で尊敬の眼差しを向けられれば誰でも──」
「にゃああああ! みなまで言わなくていいですにゃ!!」
──音湖さん可愛い……。
由莉達4人の気持ちが一つになった。
ともあれ、由莉はこれからマスターを別の呼び方で呼ばなければならない。
そもそも、マスターという呼び方でさえも、彼から好きに呼んでいいと言われて呼び始めたものだ。
ゲームとはいえ、いきなり違う呼び方を言えと言われてすぐに出てこない。
ちなみに、マスターがいなかった場合は阿久津が代わりに判定するとのことだった。
「由莉ちゃん、由莉ちゃん」
「ん? 何、天音ちゃん?」
すると、何か閃いたのか天音が由莉にこしょこしょと耳打ちをする。
「ええっ!? だ、大丈夫かな? 怒られない?」
「大丈夫だって、由莉ちゃんならいけるよ」
「あ、天音ちゃんがそう言うなら……」
一体天音は由莉に何を吹き込んだのだろうか。
周囲がそう思う中、彼女は立ち上がってマスターの前まで歩き、もじもじと頬を赤らめて照れ臭そうにする。
そして意を決してマスターへ視線を向け……。
「──パパ」
「「「「「──っ!!?」」」」」
由莉と天音を除いた5人に稲妻が迸った。
赤い顔で瞳を潤わせながら告げられた美少女からの『パパ呼び』に、絶句を隠せない。
何より、由莉が普段からマスターを慕っていることを知っているからこその破壊力と言えよう。
そして、パパと呼ばれたマスターは……。
「…………(ッグ!)」
右手で顔を覆い、空いた片手による無言のサムズアップで応えた。
どうやらお気に召したらしい。
「あ、ありがとうございます……っ、うぅ~……恥ずかしかったぁ……」
渾身の演技だったのだろう。
由莉はリンゴかと思う程に顔を真っ赤にしながら、自身の所持金に1万円を加えた。
「っ、はぁ~ヤッバイにゃぁ……一瞬意識持っていかれたにゃ……」
「え、ええ……なんというか不思議としっくり来ましたね」
「はわわ……由莉ちゃん可愛いです……」
「天瑠、まだ心臓がドキドキする……」
「ふふん、由莉ちゃんなら当然だよ」
未だ動揺冷めやらぬ面々に、天音はしてやったりと悪戯な笑みを浮かべる。
とりあえず気を取り直したものの、2巡3巡とターンが進むごとにそれぞれの金銭状況が分かれ始める。
現在1位は現在所持金3万6千円を持つ、璃音と天瑠だった。
何度も抜いたり抜かされたりを繰り返した2人だが、6巡目でも未だピッタリ張り付き合っているのだ。
2位は現在所持金2万5千円の由莉。
最初こそ無味な出だしだったが、その後は順当に稼ぐことが出来た。
そうなると、消去法で最下位は天音となる。
現在所持金は1万5千円……一回休みの分が影響していた。
「ふむ、中々接戦じゃないか?」
「そうですね、でもここからいよいよ大人時代になりますから、逆転の可能性はまだまだありますよ」
「みんな頑張れにゃ~」
大人たちが見守る中、由莉がサイコロを振る。
「『3』だ。1、2、3……『大食い大会に参加する。サイコロを振って奇数なら優勝して賞金2万円、偶数なら脱落でお金は増えない』か。それじゃえい!」
実際にあったら、どんな料理が出て来るのかと密かに想像しつつ投げたサイコロは、『3』に止まった。
「やった! 優勝!」
「おぉ、由莉ちゃんが1位になった」
はしゃぐ由莉を見て、天音は彼女がトップに躍り出たことに感心する。
差が広がった悔しさはあるが、それはそれ、これはこれであった。
「璃音も負けていられないです……それっ」
開けられた差を開け返そうと、投じた璃音のサイコロは『4』で止まった。
その分だけ駒を進めて止まったマスの内容は……。
「えっと『自分から1番近いマスに止まっている人と結婚する。結婚した2人以外のプレイヤーはご祝儀として1万円渡す』……あれ、璃音から1番近いのって……」
「天瑠だ!」
「えっ!? それじゃ璃音と天瑠が結婚するってこと!?」
ご祝儀として1万円はゲーム的にはかなり痛いが、気持ち的には大変喜ばしいものだった。
「わぁ、2人ともおめでとう!」
その証拠に、由莉は諸手を上げて祝福し……。
「グスッ……天瑠と璃音が結婚かぁ……、瑠璃に伝えないといけないなぁ……」
天音に至っては新婦側の父親のように涙ぐんでいた。
……決して、ご祝儀によって所持金が初期金額に戻ったことを嘆いてるわけではない。
ないったらないのである。
「あっくん、これは今夜の夕飯は赤飯かにゃ?」
「そうですね、たまにはいいでしょう」
さらに、阿久津と音湖も嬉しそうに天瑠達を見つめていた。
──双子だと近親婚扱いになる上に、ゲームだから実際に結婚するわけではないだろう……。
マスターは密かにそう思っていたが、流石に空気を読んで口には出さなかった。
既婚者はちゃんと空気を読めるのだ。
「こほん、結婚おめでとうございます。晴れて夫婦となった天瑠さんと璃音さんの所持金は共有となります」
「えっと、つまり天瑠達の所持金が合計値になる代わりに、どっちかがお金が減るマスに止まったらもう片方も巻き添えを受けちゃうってことですか?」
「はい、天瑠さんの言った通りですので、油断しないように」
「「はーい」」
一気に由莉と天音を突き放した双子は、阿久津の言葉に慢心することなくそう返す。
ここから逆転される可能性を十分に考慮している証拠だろう。
そう思えば、なんだか普段の任務とあまり変わらない気がして来た2人は、無性にやる気が湧いて来るように思えた。
「よーし! 次は天瑠の番だよ!」
意気込みも十分に、天瑠がサイコロを振る。
そうして出た数は『5』であった。
「1……2……3……4……5! なになに……『出産マス。止まったプレイヤーが結婚している場合は、出産祝いとして3万円貰える』だって!」
「やった!」
ゲーム上で結婚した故か、自然と協力プレイのようになっている天瑠と璃音は、仲良くハイタッチを決める程に嬉しそうだった。
「子供まで……っ! 瑠璃ぃ……二人は立派に育ったよぉ……!」
「天音ちゃん~? 帰って来て~?」
凄まじい勢いで人生の階段を昇って行く双子の躍進に、天音は嗚咽を混じらせる程に感動の涙を流し出す。
なまじ彼女の気持ちが分かるが故に、由莉もあまり強く言い出せない様子だった。
だが、璃音はふと疑問の表情を浮かべたあと……。
「そういえば、赤ちゃんってどうやって出来るのかな?」
「「「「──え?」」」」
その唐突に投げ掛けられた純朴な問いに、大人達と由莉はポカンと呆ける。
「もう、璃音ったら忘れたの~?」
「え、天瑠は知ってるの?」
「もっちろん!」
4人が茫然としている内に、やけに自身満々な表情を浮かべる天瑠に、璃音は答えを尋ねた。
双子の妹からの頼みとあれば、答えるのも吝かではないという風に誇らしげに眼を爛々と輝かせて口を開く。
「おとーさんとおかーさんがキスをしたら、赤ちゃんは出来るんだよ! 天音お姉さまにそう教わったでしょ?」
「あ、そうだった!」
それは、なんとも可愛らしい段階の知識であった。
(あ、天音ちゃんが教えたの!?)
しかも双子にその知識を授けたのが天音だと知った由莉は、両手で顔を覆いながら心の中で隣に座る友人にツッコミを入れる。
きっとまだ幼い双子に教えた優しいウソなはず……。
そんな淡い期待を支えに何とか平静を保とうとするが……。
「あ~、ごめん天瑠、それ違ったみたい。キスだけじゃ赤ちゃんは出来ないよ」
「え、そうだったんですか……」
「天音お姉さまが言うなら、璃音は信じます!」
恥ずかしさを臆面も感じさせないあっけらかんとした表情で、よりにもよって教えた張本人が否定してしまった。
(あ、天音ちゃん~~~~~~っっ!!)
その様子に、2つの意味で由莉は顔を赤く染める。
一つは天音本人の可愛さに。
もう一つは彼女がその根拠に至った経緯に。
『天音』がまだ『えりか』だった頃に、由莉と興じたポッキーゲームで互いにファーストキスを交わしたことがあるのだ。
その時の光景は今でも心臓の鼓動が加速していく程で、由莉は思い出しドキドキをして羞恥心に悶える他なかった。
そもそも、天音は幼い頃に叔父の手によって両親を殺され、挙句監禁されていた時期がある。
さらに由莉達と対立する組織に拾われ、人殺しの訓練ばかりしていた。
それで一般教養を身に着けろという方が無茶だろう。
これは天瑠と璃音の2人にも当てはまることであり、結果3人の性知識がキス止まりなのも致し方なかった。
「由莉ちゃん? 由莉ちゃんはどうやって赤ちゃんが出来るのか知ってますか?」
「ふえぇっ!?」
だが、それを璃音が知るはずもないため、今度は由莉に尋ねた。
自分に振られると思っていなかった彼女は、真っ赤な顔をバッと上げて驚く他ない。
「お願い由莉ちゃん、天瑠にも教えて?」
「え、ええっと、その……」
「ごめん由莉ちゃん、ボクにも教えてもらえると助かるかな」
「ええっ!?」
純真無垢な眼差しを向ける天瑠と璃音、双子に間違った知識を授けてしまった負い目からか天音にも尋ねられた由莉は、どう答えたものか逡巡するがすぐに上手く回避出来る言い訳が思い付かない。
3人のためになるなら教えたいし、嘘はつきたくないが、それでもやはり由莉からすれば恥ずかしさ故にどうにも答え辛いものだった
実際、彼女はどういった方法で赤ちゃんが出来るのか知っている。
引きこもりだった頃にプレイしていたネトゲで、由莉に目を付けた悪しきロリコン共から送られて来た、セクハラメッセに綴られた言葉の意味を調べる内に、その手の知識を修めてしまったのだ。
これも彼女のロリコン嫌いに拍車を掛ける要因になっていたりもする。
あのなんだか自分がイケナイことをしている気分を思い出してしまい、由莉の心境は羞恥心に満ちて顔はリンゴかと見間違う程に真っ赤だった。
「──っ!」
(ビクッ!)
だから由莉はキッと阿久津を睨む。
よくもこんな話題に発展するようなマスを作ったなと。
それはもう、今すぐにでも射撃訓練の的にして脳天を撃ち抜くぞという、殺意を込めて。
そんな殺意に当てられた阿久津は、肩をビクッと揺らす。
由莉と出会ってから一番強い殺気だった。
「(うわ~……あっくん最低にゃ~)」
「(これは、流石に悪ふざけが過ぎるな……)」
「(ちょ、待って下さい!? これ人生ゲームなんですから無いと不自然じゃないですか!?)」
それと連動するように音湖とマスターが小声で、この人生ゲームを作った阿久津に冷ややかな視線を向ける。
特に同性の彼女からの視線は心臓を刺すように鋭かった。
対する阿久津は狙ったわけではないと弁明するが、女性陣の年長者は言い訳を許さない。
「(由莉ちゃんの反応を見てよくもまぁぬけぬけと言えるにゃ! 誰がどう見てもあっくんが遠回しにセクハラしたようにしか見えないにゃ!)」
「(いや、あの……本当にそんなつもりはなくてですね……)」
羞恥から今にも泣きそうな由莉の眼光に、阿久津は罪悪感からひしひしと心を蝕んでいく。
その証拠に彼の表情は非常に罰が悪そうであった。
「ふぅ……ごめんね? 私もよく知らないの」
そんな阿久津を一瞥した後、由莉はニコリと苦笑と浮かべて答えた。
「そうですか……物知りな由莉ちゃんでも知らないってどんなのだろう」
「ふふ、大丈夫だよ璃音ちゃん。大人になれば分かるようになるから」
別段嘘は言っていない。
今はまだ果たさなければならないことのために訓練の日々だが、いずれ由莉自身が持てる知識で以って3人に勉強を教えるつもりであった。
肝心の性知識に関しては大人達に丸投げする。
「由莉ちゃんがそう言うなら分かった!」
「うん、早くアイツらをぶっ潰さないとね!」
天音と天瑠もひとまず納得したことで、何とか由莉は誤魔化すことに成功した。
そして、スッとその場を立ち上がり……。
「そういえば、そろそろ阿久津と手合わせの約束があるんだった。残念だけど人生ゲームはここまでだね」
「「ええ~……」」
「え……?」
唐突に告げられた手合わせの約束を理由に人生ゲームを終わらせ、その対象となった阿久津はキョトンと呆ける。
もちろん、二人の間にそんな約束はない。
「! はは~ん……それじゃ、ウチもお供するにゃ」
「音湖!?」
「あ、じゃあ由莉ちゃんの後でいいんで、ボクもお願いしていいですか?」
「あ、天音さんまで……」
だが、由莉の意図を明確に察した音湖が、瞳を妖しく光らせて賛同したことで、自然と天音も加わり出した。
「お姉さまがやるなら、天瑠もお願いしたいです!」
「璃音もお願いします!」
そうなれば当然、天瑠と璃音も参加を希望する。
「ふふ、モテモテですね阿久津さん」
「あの、由莉さん? 目が笑ってないんですが……」
「何のことですか?」
──あぁ、間違いない……この子はさっきの殺意をぶつけるつもりだ。
由莉の返答を聞いた阿久津はそう悟った。
「ま、マスター……」
「諦めろ阿久津」
マスターへ伸ばしたなけなしの助けもあっさりと拒否される。
そして突然遠い目を明後日の方向に向けて……。
「女性を怒らせるのは……誰が相手でもいつだって怖いものだ」
かつて妻を怒らせた経験からなのか、そんな参考にならないアドバイスが送られた。
告げられるのも今更であり、しかも発端は過去の自分が作った人生ゲームである。
まるで防ぎようがない理不尽に、青年はついに観念する他なかった。
その後、由莉達5人からの猛攻を凌ぐ阿久津の苦悶の声が訓練場に響いたという。
~【完】~
※あとがき※
書いててかなり楽しかったです!
由莉達4人の性知識に関しては、ミカサさんに確認して聞いたものなので、本編でも同様の認識で問題ないです。
それでは、最後まで読んで下さってありがとうございました!
ではでは~。
短編集「ジユウチョウ」 青野 瀬樹斗 @aono0811
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