The last page
甘いなあ。
林檎を一口かじる度、その子供はそう呟いて嬉し泣きをする。彼の大切な林檎の木は、その度にそよ風に小枝を揺らす。
林檎の木の下に子供はいる。周囲の緑と同化した黄緑色の髪の毛と目で、世界を見つめている。誰もその子供を見つけられないし、その林檎の木に触れることは出来ない。いつしかおとぎ話が語られるようになった。楽園の林檎を食べたら、神様に大きな鋏で首をちょん切られてしまう。その林檎はそれはそれは赤く美しく、禁忌を犯した愚かな人間の血を吸ってあんなに赤いんだ――
その場所は、今もなお、林檎の匂いと瑞々しい緑の匂いをふりまいている。
月はもう億万回満ち欠けを繰り返し、星は数えるのも飽きるほどにぐるぐると太陽の周囲を巡る。
いつからか空に模様をつけていた電線は、ある時から消えてしまった。広い空の下で、白く広がる大きな雲を、まるで看板のようだと思いながら子供は林檎をかじり続ける。
朝焼けの空に落ちる流れ星。林檎の木は葉を揺らした。
綺麗な空だね、と子供は笑う。
流星はまた一つ、一つ、と増え続け、やがて降り注ぐ。空を雲のように真白く染めあげるほどに。
こんな最後まで、一緒にこの星の綺麗を見られてよかった――子供は呟いた。
空を覆い尽くす白に、子供は指で文字を書いてみる。文字は映らないけれど。
子供は微笑んで、木の幹に背を預けた。
「マチルダ、生まれ変わる時もボクの所に来てね、待ってるから。次はどんな生き物がいいかな。次は……うん、キミはそう言うと思った。次は、恋をしたいね、ボクら」
大地が揺れる。光り輝く。林檎がボトボトと地面に落ちて、
『さようなら地球。はじめまして、新しい世界。どうかボク達を迎えて』
キミドリエリア 星町憩 @orgelblue
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