雲の上の者達の会話

「あ、俺の勝ち」


 雲の上に寝転んで、その隙間から下界を見ていた天界の者は、自分と向かい合う位置で、やはり寝転がっている者にそう言った。


 彼らに対し、我々のような者が気軽に呼べる名などはない。だからここでは恐れ多いが、便宜上、「勝ち」と言った方をA、どうやら負けたらしい方をBとする。


「うっわ、マジかよ」

「だから言ったじゃんか。やっぱ駄目なんだって、雨を操る能力なんてさ」

「結構イイ線いくと思ったんだけどなぁ。土砂災害も起こせるしさ、作物駄目にしたりとか」

「詰めが甘いっつーかさ、自分でハードル上げすぎなんだって。蛙にするのはまだしも、せめて言葉が通じるようにするとかさ」

「えー? そんなのつまんねぇじゃん。それに、あいつらってそういうの愛で越えるとか好きじゃんか」

「そういうのって何だよ」

「あれよ、種族の壁とかよ」

「あ――……、あぁ、はいはい。まぁ確かにな」

「だから一応、ベタな感じで用意はしてたんだぞ? 口と口をチュッてやりゃ人の形になるって演出」

「ほぉ。誰とだ? あの女?」

「いや? あのジイサン」

「いやお前、ジイサンはきつくね?」


 そうかなぁ、とBは首を傾げる。そして遠くの雲に見えた人影に「あ」と短く叫んで肩を竦めた。


「おい、ヤバイぞ。師匠が見回りに来てる」

「やべぇじゃん。俺らだけまだまともな転生者作れてないんだから」

「さっきのお前の案で良いよ、もう」

「はぁ? あの『イケメンチート賢者』? ベタすぎるから嫌だってお前言ったじゃねぇか! 奇をてらって大量ポイントゲットするんじゃねぇの?!」

「良いよこの際。そろそろ試験にパスしねぇと母ちゃんうるせぇんだ。な? な? とりあえずステータス全部MAXにしてさ、あと何だっけ、ハーレム要素? そういうのてんこ盛りでさ。俺、適当な女友達に頼んで『女神役』やってもらうから!」

「別に良いけどさ……。――そうだ、最近はただの女神じゃウケねぇからな。『駄女神』ってのが良いらしい」

「ほぇー。そうなのか。詳しいなお前。とりあえずそういうの作っときゃあいつらご機嫌でこっちの思惑通り動いてくれるんだよな」

「だよな。ほんと人間って単純で馬鹿だわ。基本的に楽したい生き物っつーかさ」

「そうそう。でもまぁ、ちょっとくらい馬鹿な方が扱いやすくて良いじゃん? こっちとしては」


 言えてる言えてる、と笑った後、Aは酒の海に浮かんでいる蛙を回収し、ぐしゃりと握りつぶした。


「良かったな。次は『イケメンチート賢者』様だとよ、迫田さこだ大翔はると


 そうして、青い血の滴る亡骸を、再び地上へと投げ捨てた。



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村を救った蛙の話、あるいはある転生者の末路 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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