先住者
元々は我々がここに先に住んでいた。時折、外からの侵入者もいるが、そんな連中は我々の餌に過ぎない。
それが、いつしか勝手に繁栄した”ニンゲン”という生物に脅かされるようになろうとは。
それでも、我々は住む場所を変えて存在している。
このニンゲンという生物の恐ろしい部分はいくつかある。
我々が食事をする際に送り込む毒液に強い耐性を持っている点。しかしこれは、ニンゲンに限ったことではない。他の生物でもいくらかの耐性がある。いや、進化する上で徐々に耐性が強化されていったと言うべきだろう。
次に、我々を視覚や聴覚で認識できる点だ。我々はニンゲンからすれば小さくあまりに非力である。敵に姿を見られてしまっては、食事どころではない。
最後に、進化の過程でニンゲンの知識量は膨大に増幅し、我々の弱点をもって対抗・攻撃してくることがとにかく厄介である。いくら我々が徒党を組んだところで、近づくこともままならいのだ。最悪は、何もできないままに退けられる。
我々の進化はあまりにも遅く、また、僅かな適応のためでしかない。ニンゲンほど急激に変化できない。そして、知性をもつものも決して多くはない。むしろ稀である。その上、我々の寿命は50日ほど。ニンゲンの寿命はおよそ80年。生命構造からしても我々は子孫を多く残すことでしか太刀打ちする術はない。
ここでこうしている間にも、寿命は尽きようとしている。
我々がニンゲンに負けたわけではない。譲っているだけだ。いずれは、昔のように我々が支配する世界であると知らしめるように、一人のニンゲンの顔の前を横切った。
めぐり 葵 一 @aoihajime
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