紙飛行機よ、どうか飛んでいかないで・・・ 第一話(Remake)

@hamingja

第1話 前半 新たな出会い

・・・・・ドック、ドック。

静かに僕の心臓が鼓動していた。

僕の命に残された時間は一体・・・?



 僕は2年前の夏、部活帰りのなか歩道橋を下っているところで急に心臓が苦しくなり倒れた。幸い、歩道橋から落ちたことによる、外傷は頭に少し傷ができた位で、命の別状も頭をぶつけたことによる記憶障害などのこともない。だが体の検査をしている時に、体に異常が見られ僕は入院することになった。病名も何も知らされてなく、母からは「何か遭ってはいけないから・・・」と苦笑いのような笑みを僕に向けながら泣いた後が残っている赤い目で僕を静かに見ていた。

 僕は、昔陸上部の短距離走を得意としており、次期エースと目され、僕が夏の大会が終われば次の部長だと現部長以下部員全員から言われた時に倒れてしまったのだ。学校に通えなくなってしまった為、大会にも出れなかった。僕は、短距離走が好きで部活をやっていたが、入院生活に入ってからそれもできなくなってしまった。入院生活を始めてから同級生達が勉強を教えてくれたり、中学を卒業するまではプリントを届けに病院まで来てくれたが、学校の話になるとつい最近まで僕も一緒に通っていたとは思えないほど別世界にいるように感じ、輝いて見えた。他にも母親も来てくれたが、どこか憐れむような顔を向けながら話すことがあり、そんな生活に嫌気が指してき始め、僕はいつ死んでしまうのかとよく考えるようになった。



「ねぇ、かえでおに〜ちゃん。

また、おはなのえをかいてくれる?」

 ふと、僕の今までの人生を振り返っている時に、隣から女の子の声が聞こえた。声の方向を見ると、1年前の夏から知り合った6歳の本江綾菜(もとえ あやな)が僕の服の裾を引っ張っていた。綾菜ちゃんは入院生活を初めた当初、不安でいっぱいなようにオロオロとしていたので僕の昔から得意だった、絵を描くことで彼女の似顔絵を描いて気持ちを落ち着かせようとしていた。彼女は、僕が描いた似顔絵を見たとき不安そうな顔から一変、笑顔を見せ、それからよくなついてしまった。

「ねぇ、かえでおに〜ちゃん。

だいじょうぶ?またかんがえごと?」

しょぼんとしてこんなことを言われた。

「あぁ、ごめんな、綾菜ちゃん。

また考え事をしてたわ・・・

それで何か合ったのかい?」

彼女は笑ったような怒ったような顔をして僕の目を見つめた。

「もう、かえでおに〜ちゃんはいつも考え事ばっかり!!

えっとね、おはなのえをかいてほしいの。」

いきなり大きな声を出したため、病院のエントランスにいた僕以外の患者は迷惑そうに僕を見つめる人や、微笑ましく僕達を見ている人達もいた。

「お花の絵か〜〜。

どんなお花が良い?」

「う〜んとね、ピンク色のお花が良い!!」

「う〜ん、

じゃあ、桜でいっか。」


「うわ〜〜!!きれい!!

このおはなどこにさいてるの?

こんなにもきれいなおはなみたことないよ。」

「これは、桜と言って春に咲く花だよ。

この病院のベランダから見えるようになるから楽しみにしていてね。」

頭をなでながら言うと、えヘヘ〜〜と笑いながら嬉しそうな顔をしていた。

「ねぇ、かえでおに〜ちゃんも、いっしょにみてくれるよね?」

純粋な顔で言われ、僕は息を思わず飲んだ。

僕は、自分自身が心臓が悪いことは知っているのでいつまで生きられるのかわからないし、この子もいつまで入院しているのかも分からないのに、さらに言えば、今は6月。まだ8ヶ月も後のことなのだ。なのに、こんなにも純粋に将来について楽しみにしている子がいたことにとても涙が出そうになっていた。

「・・・・うん、そうだな。

一緒に桜を見ような。」

そう言うのに精一杯だった・・・・


 綾菜ちゃんと別れた後、僕は自分の自室に戻り、窓から雲1つない青空の景色を見ていた。

 そんなとき僕の目の前に1つの紙飛行機が飛んできて、自分の顔にぶつかりそうだった為、思わず取ってしまった。その後、どこを見渡してもいないため、どこから飛んできたのだろうと考えていると、自室の扉からコンコンという音が聞こえたので、先生かなと思い「どうぞ。」と言った。すると、車椅子に乗りお絵かき帳を持った黒く長髪な女性が僕の目の前に現れた。

そして、彼女はお絵かき帳を持ち、文字を書き、その文字を書いたお絵かき帳を僕に見せてきた。

{すみません。紙飛行機がこの部屋に飛んでいくのを見て、慌ててきたのですが、この部屋で合っていますか?}

「えぇ、合ってますよ。この紙飛行機で大丈夫ですか?」

{その紙飛行機です。すみません。顔に当たったりしていませんか?}

「大丈夫ですよ。

ここで合ったのも何かの縁ですし、お名前はなんと言いますか?

僕は高城楓(たかぎ かえで)と言います。」

{私の名前は尾波理恵(おなみ りえ)です。

ところでここに置いてあるお絵かき帳の絵って高城さんが描いたの?}

彼女が指を指した方向を見ると、綾菜ちゃんや中学時代の友人の為に描いたものや自分の暇つぶしがてらに描いたものがあった。

「うん、それは僕が描いた絵だよ。

よかったらその絵あげるよ。

あと、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。

多分同い年くらいだと思うし。」

すると、彼女はちょっぴり笑顔になって、絵を選び始めた。

{じゃあ、この二枚の絵をもらえるかな?}

彼女が持っていた絵は、僕が去年の夏に描いたひまわりの干支、冬の頃に描いた枯れ木の絵だった。

「その二枚の絵で良いの?

こっちに椛とか、夕焼けの絵があるけど?」

{うん、ひまわりは私が一番好きな花。枯れ木は、私の覚悟だから。}

覚悟と言われ、僕ははっとした。この子も自分と同じ、あまり長く生きていけないことを知っているのだと・・・

{でも、今は自分にびっくりしているかな。

私は、今まで人とあまりかかわらない生活を送ってきて、話しかけられても、言葉を迷っちゃって会話が終わっちゃうのに、高城くんとの会話はスラスラと言葉が出てきていろんなことを話せるんじゃないかと思えるようになった。こんなことを思うのは生まれて初めてだから。}

僕は唖然とした。こんな感情表現がよく出来た子にも話せる友達のようなもの、そして家族にも助けの手を差し伸ばせないでいたのだと知り、僕はいたたまれない気持ちに陥った。

{あっ、そんなにも重く受け止められなくてもいいよ。私が友達が出来ないのも私自身の価値をだめにしていることは知っているし。}

「別に、尾波さんはだめなんかじゃないよ!!

こんなにも感情表現ができているし、何より僕は君と話をしててとても楽しんでいるから・・・」

{そう思ってくれたなら良かったよ。

そうだ。もし、君が良ければだけど来週の話し合いの日にちょっと話せない?}

「もちろん良いよ。

僕も君のことがもっと知りたくなったし、もっといろんな事を話したいと思えたから。」

{ありがとう。}

そういう彼女はとてもいい笑顔で笑った。僕は胸が締め付けられる思いになった。しかし、別に病気のように痛むわけではなく、心があたたまるような気持ちに陥った。

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