最終話【究極の『将来』】

「それはなんでしょう?」美少女フィギュアさんは言った。

「『究極の将来』のことです」自分は短く答えた。

「はい?」

「究極の将来は『死』です」

「〝し〟って?」

「この自分の死です」

 自分で言ってて思わず鍔を飲み込んでしまう。



「……そんな、マスター」

「この自分が生きている間は責任を持つ。だけどその後は持てない。そう思っておいて欲しい、ってことです」


 美少女フィギュアさんは腿の上でぎゅっと拳を握りしめ下を向き、

「嫌です。そんなの」とひと言言った。

「嫌でも何でもその時は来る」と言い返した。



「マスター、じゃあマスターが死にそうになったらわたしを壊してください。いっしょに死にますから」

「嫌だ」と即座に却下した。

「なんでです?」

「君を壊すのが先になってしまって、絶対に〝いっしょに〟にはならないから」


 フィギュアを壊せるわけがない。


「——じゃあわたし達はマスター亡き後どうなってしまうんでしょう?」

「中古品として出回ることになるだろうな。君たちは少々ボロくなっても残るから」

「残っても嬉しくありません。きっと『髪が伸びるお菊人形』さんや『涙を流すマリア像』さんみたく扱われるだけです!」


 本格的にフィギュアが売られ始めていま十年くらいか?

 まだ本格的に遺品整理物は出回っていないだろうけど、確かにヒトガタだけに時間が経過すればするほど美少女フィギュアさんの言う展開になるのはあり得ることだ。


 もうこれは終わろう。つまらないことを言ったものだ。

「もう将来のことなど考えるのはよそう」そう言った。

「そんなのでいいんですか?」

「いいに決まってる」自分に言い聞かせるように自分は言った。



「嫌なことを訊いてしまって悪かった」

「わたしこそ結婚のことなんかを訊いたんだからそれくらい訊かれても当然です」美少女フィギュアさんはそう言ってくれた。お互いがお互いを気遣える関係ってのの痺れるようなこの感覚はどうだろう!——


 その時心の中で思ったこと。


 ——なんで君は人間じゃなくて美少女フィギュアが擬人化した存在なんだ——




 次の日、月曜日、朝。


 昨日は一日中擬人化した美少女フィギュアさんが部屋にいてくれた。が、今朝起きてみれば美少女フィギュアさんはどこにも居らず、所定の位置に単装高角砲を凛々しく構えた美少女フィギュアがあった。

 昨日言ってたなあ——

「なんで君は擬人化できたの?」と訊いたら、

「〝我思うに我あり〟かな」とどこかで聞いたようなことばを返された。ヘンな会話ばかりをしていた。

 またたまに擬人化してくれるんだろうか? そこのところは訊いてない。


 そして今朝もまた身体のどこも蚊に食われてはいない。


 モデルクリーニングブラシを取り出しちょいちょいと美少女フィギュアの頭を撫でる。次いで単装高角砲も。


「もうちょっとおバカなキャラで擬人化してくれたら、こんな感情は無かったよなぁ」、ついそう口にしていた。


                                 (了)

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擬人物が擬人化する。 齋藤 龍彦 @TTT-SSS

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